90.思わぬ再会
「やあ、君達。元気だったかい?………あれ、やだなあ、僕の事忘れちゃったのかい?」
固まって返事をしない俺達に、そいつは問いかける。
俺達がそうなるのも無理はない。
目の前には、黄金の耳と尻尾を生やした狐族の男が立っているのだ。
「ラ、ラファエル、さん……………どうして、ここに……………………」
アルクはまだ茫然として、ラファエルを見つめている。
「あれ、僕達、いつの間にか異世界に来たの…………?」
俺達が自分のことを覚えていることを確かめると、ラファエルはにっこりと笑った。
「やだなあ、そんな訳ないじゃないか。ここは君達の世界だよ。異世界に来たのは僕達の方さ」
「僕達ってことは…………」
アルクの問いに答えるように、その背後から、小さなロベルトが顔を出す。
「ああ、もちろんベルも一緒だよ。僕達は片時も離れないからね」
ラファエルはそう言って、ロベルトを抱き上げ頬ずりをした。
以前会った時から何も変わっていない。
「それにしても、君達も仲良しだねえ。もう助けてあげたってのに、まだそうやって抱き合ってさ」
ラファエルの言葉に、アルクははっとして赤面する。
そして慌てて体を起こして俺から離れた。
「おい、どうやってこの世界に来たんだ。そもそもなんで俺達がここにいると分かった」
俺はバリアを解除して起き上がりながら尋ねる。
「どうやってって、僕の可愛いベルの転移魔法で来たんだよ、もちろん」
ラファエルは相変わらず、目が開いてるのかどうか分からない。
その目は、常ににっこり微笑むような形に閉じられているように見える。
「それは分かるが、そもそもどうやって異世界に転移した。座標を指定する必要はないのか。それに俺達がいる世界をどうやって見つけた」
「座標?そんなのは必要ないよ。僕のベルは、訪れたことのない場所にだって転移できるからね」
そう言いながらラファエルは、また弟を頬ずりする。
「ほら、君達のおかげで僕達は魔王代理になっただろう。それでなぜか、僕らを崇拝する魔族が増えたんだよねえ。で、僕達の魔力もそれに伴ってどんどん強くなってさ。今では転移魔法で異世界まで行ける程になったんだよ」
「だけど、どうやってここが………」
アルクが尋ねると、ラファエルはまたにっこり微笑む。
「この世界に来たのは偶然だよ。君達がここにいると知ってたわけじゃないんだ。僕とベルは最近、いろんな世界に転移して、異世界を観察しているのさ。まあほとんど暇つぶしだけどね。それで、今回転移したのがここってわけさ。この世界はいいね、僕らの世界と時間の流れが同じだから、長居しても問題ないんだ」
「え………。じゃあ、僕達を見つけたのもただの偶然ってこと…………?」
「というか、君達のほうからここへ来たんじゃないか。てっきり、僕とベルに会いに来たのかと思ったよ」
俺達はラファエルに、山岳に来た目的について説明する。
地図で見た未知の魔物の光と、ドラゴンの不審死の調査についてだ。
「ああ、その地図に現れた白い光は、僕とベルだろうね。この世界では僕らは未知の魔物だもんね」
「なら、ドラゴンの方はどうなんだ」
「それも僕らだよ。僕らは異世界に行く度に、その世界でも僕らの魔力が通用するのか、魔物達はどの程度強いのか、確かめるんだ。まあ、ここのドラゴン達はそこまで強くなかったから、後半はほとんどただの遊び感覚だったけどね」
まったく、遊び感覚で大量のドラゴンを仕留めるのかよ。
「あれは、みんな闇魔法で倒したんだよ。だから体に一切痕跡がなかったのさ」
ラファエルはまるで、天気の話でもするかのように呑気な調子だ。
「で、俺達が生き埋めになったのを知って助けに来たのか」
「ああ。僕とベルはここの地下で寝起きしてたんだ。洞窟の崩落で地下の半分は埋まっちゃったよ。だけどまさか、君達が埋まっているとは知らなくてね。たまたま外で捜索してる人間達が、君達の名前を口にしたのを聞いたのさ。だから地下から助けに来たんだよ。でも、お楽しみのところ邪魔しちゃったかな?」
「そ、そんなわけないでしょ!!」
アルクは赤面しながら否定する。
「でも、本当に助かったよ。ありがとう、ラファエルさん……ロベルト君も……」
「ベル、でいい…………」
ロベルトが初めて口を開いた。
そして、以前アルクに向かって言った言葉を繰り返す。
「ベル、でいい…………」
しかし、それを聞いたラファエルは、突然真顔になりアルクに冷たい視線を向ける。
最も、目は開いているのか分からない。
「アルク君。分かっているね、ベルをそう呼んで良いのは、僕だけ………」
「わ、分かってます!!」
アルクは慌てて答える。
ラファエルのロベルトに対する異常な愛情は相変わらずだった。
「で、お前ら、いつまでこの世界にいるつもりなんだ」
俺が尋ねると、ラファエルは顎に手を当てた。
「うーん、特に考えてないんだよね。でもせっかく君達に会えたんだから、ちょっと町まで出てみようかな」
「しかしこの世界には獣人はいない。その恰好で町に行けば大混乱になるぞ」
そう言いながら俺はふと、ウィルのことを考える。
最近忘れていたが、あいつは猫耳好きの変態なのだ。
もともと獣人に興味があるようなことを言っていたし、さらに異世界から来たとなると、ラファエル達を見ると興奮で死ぬかもしれない。
「ああ、大丈夫だよ、僕らは変装できるから。耳も尻尾も隠していくさ」
ラファエルはそう言って、人差し指を上に向ける。
するといとも簡単に、その耳と尻尾は忽然と姿を消した。
気づけばロベルトも、同じように変装している。
ラファエルはにっこりと笑って言った。
「では諸君、地上に戻ろうか。早く戻ってあげないと、地上の人間達が心配し過ぎて死んじゃうよ」




