86.未知の光
結局俺達は、5日もしないうちに全ての魔道具の設置を完了した。
最初は旅のついでに設置するつもりだったのだが、何となく設置の方を優先してしまったのだ。
そのあまりの早さに、ユリアンは驚愕した。
「ま、まさかこんなに短期間で終えられるとは……。お二人とも、本当にありがとうございます!」
再び執務室に訪れた俺達に、ユリアンは礼を言う。
「おう。で、あの魔道具はすぐにでも使用できるのか?」
俺が尋ねると、ユリアンは首を縦に振る。
「はい。各地のギルドや護衛部隊に設置していただいた魔道具もすでに機能しています。魔物が町に近づくと、すぐに魔道具が知らせてくれるでしょう。ですが……」
ユリアンはふと言葉を切る。
「ですが、それだけではありません。私はウィルに依頼して、魔道具と連動した地図を開発してもらっています。それがあれば、大陸のどこにどのような魔物が出現しているか、一目で分かるようになります。応援も寄越しやすくなるという訳です」
ウィルの話によると、アゼリア国の王都にも魔術研究所があるはずだ。
研究所の人間ではなくウィルに依頼したのは、ウィルがバルダン帝国の研究所で、その技術を直に見てきたからだという。
「皆様がバルダン帝国に赴いてくださり、国同士の交流以上の成果がありました。本当にありがとうございます。あ、それと、もちろん今回の依頼の報酬をお渡しします……」
ユリアンはそう言い、再び俺達に結構な額の金を手渡した。
受け取りを渋るアルクに、ユリアンは毅然として言った。
「本来は国を挙げて取り組むことを、たったお二人で遂行してくださったのです。これでは少なすぎるくらいです!!」
そう言うユリアンの横で、ミーシャもニコッと頷いている。
そして、まるで全てを知っているかのように言った。
「ええ。これはお二人の労働に対する正当な対価です。以前の報酬金と合わせて、お二人の愛の巣でも建てればよいでしょう」
「あ、愛の巣ってミーシャ、そんな破廉恥な………」
「あら、私は何も破廉恥なことは申しておりませんが。ユリアン様はそのようにお考えなのですね」
「なっ………そ、そのような………」
二人のやり取りに、アルクはただ苦笑した。
ユリアンの話を聞いて、俺達はウィルに会いに行く。
既に魔道具の設置を完了したと伝えると、ウィルはなぜか喜んだ。
「本当か!すげえな、さすがの早さだ!地図の方ももうすぐ完成する。そうすりゃすぐにでも使えるぞ!」
どうやらウィルはここ数日、寝ずに作業をしていたようだ。
目の下にクマができているが、本人は楽しそうだ。
「基本的な技術は帝国の研究所で聞いて来たから知ってたんだ。いわば魔道具が発するシグナルみたいな波動を拾って地図上に表示する。ただ向こうでも試作品の段階だったから不具合が多くてよ……正直俺が作ったやつの方が性能が良いと思うぞ。逆にこっちからバルダン帝国に売り込めんじゃねえかな……」
アルクはウィルの話を聞いて、感激してつぶやいた。
「やっぱり君はすごいよ、ウィル………」
それから数日して、本当にウィルは地図を完成させた。
ウィルが完成品を王宮に持ち込むというので、俺とアルクも共に向かうことにする。
どうせ転移魔法で、ウィルを送り届ける必要があったのだ。
完成した地図を机上に広げ、ユリアンは目を輝かせた。
「素晴らしいです!まさかここまで早く出来上がるとは……。ウィル、本当にありがとうございます!」
俺達は全員で地図を覗き込む。
設置した魔道具と同じように、魔力を流し込むと地図の方も起動するはずだ。
全員が見守る中、俺が地図に前足を置いて、魔力を流し込む。
すると前足の部分から血液が流れるように、青い光が地図上に広がって行った。
最後に地図全体が強く発光し、やがて光は収まる。
「あ、見てここ、青く光ってるよ!」
じっと地図を見つめていたアルクが、一点を指差して言った。
よく見るとエド町の北方区域に、青い光の点が出現している。
「どうやら、うまく機能しているようですね。その近辺では先日、レッドドラゴンが目撃されています。既にギルドが冒険者を派遣したと聞きました」
ユリアンは地図を見つめながら説明する。
「新たな魔物が感知されると、光が点滅してそれを知らせます。魔物の種類によって光の色が変化するはずです。なお、一定以上の脅威度のある魔物しか感知しませんので、例えばゴブリン一匹に反応することはありません」
「しかしこれじゃ、魔物の正確な位置までは分かんねえよな。それに魔物の種類や脅威度だって、もっと詳細に判別できれば……。地図の改良も必要だが、設置した魔道具の方も精度を上げなきゃなんねえか……」
ウィルは顎に手を当てながら考えている。
「ええ、ですが試作品第一号としては、申し分のない出来上がりです。本当にありがとうございます。もう少し動作確認をしてから、量産体制に……」
ユリアンはそこでピタリと言葉を止める。
地図のある個所に、別の光が出現したからだ。
「え、ここって……あの山岳の辺りなんじゃ……」
アルクが光を見つめながら答える。
その光は青色ではなく、地図上で真っ白に発光していた。
「おい待てよ、早速不具合か?」
ウィルが白い光を見つめながら呻き声を上げる。
「白い光は、未知の魔物に対する反応のはずだ。そんな簡単に発生するはずが……」
「いいえ、もしかしたら……何かが起きているのかも知れません」
ユリアンが慎重に呟くと、全員が驚いてユリアンを見つめた。
「それは、どういう……」
アルクが恐る恐る尋ねる。
「ここ最近、この近辺でドラゴンの遺体が数体発見されています。人間による攻撃ではなく、かといって魔物による攻撃痕もありません。死因が不明なのです。自然死でもないようですし、周囲の環境に異変もなく………。そのため今回、何か手がかりがあればと思い、魔道具の設置をお願いしたのですが………」
ユリアンは、ちらりと俺達に目を向ける。
その目つきから、何が言いたいかは予想できた。
「あの、お二人とも………。立て続けに申し訳ないのですが………」
「現地を調査しろと言うんだろ」
「え、ええ………」
俺の言葉に、ユリアンが気まずそうに頷く。
「仕方ない。今から行くぞ」
「ええっ、今から!?……ま、まあそうか、うん、分かったよ……」
アルクは一瞬動揺するも、すぐにこくりと頷いた。
「申し訳ございません、お二人とも……。何があるか分かりませんので、どうぞお気をつけてください」
そうして俺達は、再び北の山岳地帯へと向かったのだった。




