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83.ソフィアとの外出

帰国して数日後、俺達は再びヘイデン魔術学校を訪れた。



ユリアンの話を聞いて、アルクはソフィアに会いに行くことにしたのだ。


俺とアルク、ウィルの三人で学校へと向かい、ウィルはそのまま研究室へと向かった。

別れ際、ウィルはアルクに声をかける。


「おい、しっかりソフィアの機嫌を取ってやれよ」



面白そうに二ッと笑うウィルに、アルクは力なく笑い返した。




俺達が学校に着いたのはちょうど昼時だった。

ソフィアの姿を探して、俺とアルクは校内を歩き回る。



すると俺達は、屋外の訓練所でダミー人形に対峙しているソフィアに出くわした。


授業が終わったというのに、一人残って魔法の練習をしているようだ。



ソフィアは俺達に気付かず、ダミー人形に向けて手をかざす。

そしてブツブツと呟き、その手からウィルから教えられた魔法陣が展開される。



ドオオオオオオオォォォォン!!!!




物凄い勢いで水が噴射し、ダミー人形は粉々に粉砕された。



俺とアルクはその光景に、思わず言葉を失う。



「ソ、ソフィア………」



アルクが遠くから、恐る恐る声をかける。

するとソフィアはピクッと反応し、ゆっくりとこちらを振り向いた。




アルクの方に目を向けたまま、ソフィアはしばらく停止する。


そして次の瞬間には、スタスタと足早にこちらにやって来た。



そのままの勢いでガバっとアルクに抱き着くかに見えたが、違った。

ソフィアは勢いに任せ、両手でポカポカとアルクの胴を叩き始める。



「イタッ、ソ、ソフィア、えっと……」



うろたえるアルクを余所に、ソフィアは攻撃を止めない。


両手を動かしながら、ソフィアは膨れっ面で言った。



「お兄ちゃん、ぜんぜん、きてくれない………」


「ご、ごめんね、色々忙しくてさ………それにしても、ソフィア………」


アルクはまだ慌てながら答える。


「さっき、魔法を見てたけど……すごく強くなったね……?」



ソフィアはピタッと停止し、アルクを見上げた。

しばらくそのまま見つめたあと、まるでリーンのようにプイッとそっぽを向いた。



「お兄ちゃんが、ずっとこないから………」



ソフィアはそれだけを言って、アルクの手を引っ張り歩き出した。


アルクはその後ろ姿を眺めながら、念話で俺だけにぼそっと呟く。


『ぼ、僕がずっと来ないから………まさかあのダミー人形を僕だと思って攻撃してたんじゃ……』



ソフィアはそのまま、アルクを校舎の外へと連れ出した。

俺は猫の姿なので、スタスタと二人に付いて行く。



「ねえ、ソフィア、学校を離れて大丈夫?午後にも授業があるんじゃ……」


ソフィアに手を引かれるがまま付いて行くアルクが、心配そうに尋ねる。

するとソフィアがまた膨れっ面で振り返った。



「今日は、もうない。お兄ちゃん、今日はわたしと出かける。いい?」

「はい………」



まだ幼いのに有無を言わさぬソフィアの雰囲気に、アルクは押されている。



『おい。俺はもう帰っていいか』


俺が念話でアルクに尋ねると、アルクは全力で拒否した。


『だめ!!しょこらも一緒にいて、お願い!!なんかソフィア怒ってるし、僕だけじゃどうしたら良いか………』



ソフィアはそのまま町中へ出て、大通りに面した飲食店にアルクを引っ張って行った。


そこまで来てくるっと振り向き、ソフィアは言う。


「おなかすいた」

「あ、うん、じゃあここで食べようか……」


もちろんアルクに拒否権はない。



そこは洒落た雰囲気の店だった。


しかし店内を見回したアルクは、すぐに違和感に気付く。

よく見ると、その店にいる客は全員が恋人同士だったのだ。


店内にはテーブルを挟んで手を重ねる者や、互いに料理を口に運び合う若者たちが溢れている。



アルクは、おずおずとソフィアに声をかけた。



「あの、ソフィア……本当にここで良いの……?」



ソフィアはアルクの質問には答えず、スタスタと歩いて席を取る。



注文を取った店員は、疑わし気な顔をアルクに向けた。


周囲の客も、ちらちらとアルクとソフィアに目を向けている。



「ロリコン………」



誰かがぼそっと呟く声が聞こえ、アルクは思わず頭を抱えた。




やがて運ばれてきた大きなサンドイッチを、ソフィアはじっと見下ろす。

アルクとソフィアに一つずつ、ソフィアに取っては結構な量だ。


ちなみに俺は猫の姿なので、魚料理を注文した。



アルクが食べ始めても、ソフィアは手を付けようとしない。

じっとアルクの顔を見つめたままま黙っている。



「………えっと、ソフィア………た、食べないの………?」



ソフィアはそれでも答えない。

ただじっとアルクを見つめ続けている。


しかしアルクが一向に自分の意図を理解しないので、ソフィアはやっと口を開いた。



「たべさせて」

「ええっ!??」



アルクは思わずサンドイッチをポロリと落とす。


「たべ……、ど、どうして………」


アルクがおろおろしていると、ソフィアはどんどん膨れっ面になる。

どうやら思った以上に、放っておかれたことに腹を立てているようだ。



結局アルクは言われるがまま、ソフィアの分を手に取る。

そしてそれをソフィアの口に運んでやった。



あむっと大きく頬張ったソフィアは、今度は満足そうに頬を膨らませている。


ソフィアがやっと笑みを漏らしたので、アルクは少しほっとする。

そして何とか良い空気を保とうと、話題を探し始める。



「そういえば、ソフィアは船に乗ったことはある?僕は初めて乗ったんだけ………ど………」



アルクが口を滑らせたせいで、ソフィアはまた膨れっ面に戻った。



「あ、えっと、ごめんね、誘ってあげられなくて……でもほら、外国では何が起きるか分からないしさ、実際危険なこともあったし………」



アルクがしどろもどろに取り繕うも、ソフィアは再びサンドイッチに目を向ける。


「もっと」

「はい………」


アルクはまたそれを食べさせてやる。


二人の様子に、客や店員はまた興味深げな視線を送っていた。



会計になるとソフィアは率先して金を払う。

アルクが慌てて止めても、一向に聞こうとしなかった。


店員からはそんなアルクに、冷ややかな視線が向けられる。



「ロリコンのヒモ男………」



再びぼそっと聞こえてきた声に、アルクは思わず手で顔を覆う。


『ねえ、しょこら………これって何かの罰ゲームかな…………』





それからもソフィアは日が暮れるまで、アルクを町中連れ回した。


洋服屋ではアルクに服を選ばせ、さらに感想を求める。

雑貨屋では自分とアルクで揃いのカップを買うと主張する。



ちなみに昼飯も含めて、ソフィアは金だけは自分で払った。

大公爵令嬢なので、親からたっぷり小遣いをもらっているようだ。




日が傾いた頃、ソフィアは中央広場のベンチに腰掛ける。


隣に座ったアルクの腕にピッタリとくっつきながら、夕暮れに染まる町を見つめていた。



「あの、ソフィア……」


アルクは言葉を慎重に選ぶ。

もう帰ろうと言うと、またソフィアの気分を害するかも知れない。


「えっと、他には、行きたいところは……?」


そう言うと、ソフィアはアルクをじっと見上げ、小さく首をふる。


「もういい」



アルクは心底ほっとしたようだ。

半日共に過ごしたことで、やっとソフィアは満足したらしい。



「えっと、ソフィア、本当にごめんね。また一緒に魔法を練習しようって約束したのに、ずっと来られなくて……」


アルクがおずおずと言うと、ソフィアはこくりと頷く。


「これからは、ちゃんと会いに来るよ。まあ、ソフィアはもう、僕の助けがなくても大丈夫そうだけど………」



アルクの言葉に、ソフィアはまた顔を上げた。

しばらく黙ってアルクを見つめていたが、やがて口を開く。



「用事がなくても、あいにきて」

「え?あ、うん、そうだね……僕達、友達だもんね」

「ちがう」

「え?」


ソフィアの言葉に、アルクはきょとんとする。



「友達じゃない。大きくなったら、お兄ちゃんとけっこんする」


「え………」



ソフィアはそれだけ言ってにこっと笑い、ベンチから飛び降りた。

そしてまたアルクの手をぐいっと引っ張る。



全く、付き合わされる俺の身にもなってほしいもんだ。



ソフィアは夕日に顔を染め、アルクの手を引いて帰路についた。



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