81.漸くの言葉
俺とロッセルが姿を消したことで、動転したのはアルクだった。
アルクは俺達の不在に気づき、ウィルとミーシャにその所在を訪ねる。
しかし二人が何も知らないので、今度は宮殿の者達に俺達の所在を聞いて回った。
そして門衛から、俺とロッセルが二人で出て行くのを見たと聞いて、へなへなと地面に座り込んだという。
その日の夜は、王宮内で夕食が振舞われた。
昨日の事件に加え、ギルバートとデルバートの所業まで知らされた国王は、アルクと同じくへなへなと崩れ落ちる勢いだった。
そして今夜は大盤振る舞いすると決意したようだ。
まるでこれまでの失態を取り繕うかのように、豪華な食事が俺達の目の前に並べられる。
しかしアルクは、そんな食事を目の前にしても、しゅんと肩を落としていた。
そしてたまに、俺とロッセルの方にちらりと目を向ける。
また馬鹿な事を考えていそうだが、面倒なので俺は無視した。
夕食が終わると、俺達は全員部屋へと引き上げた。
俺は一人で部屋に入った後、ふと考える。
おそらく5分とたたないうちに、またロッセルがこの部屋に突進してくるだろう。
さすがに疲れ切っていたので、俺は試しに部屋の扉に結界を張ろうとする。
しかし、何度試しても扉を塞ぐことはできない。
実はこれまでにも何度か試みてきたのだが、うまくいかなかったのだ。
「チッ、やはり宮廷魔術師以外の結界は無効化でもされるのか」
俺はブツブツと呟き、そのまま部屋を出る。
とりあえずアルクの部屋に避難することにしたのだ。
隣のアルクの部屋へ行き、俺は扉を叩かずに、そのままガチャリと開ける。
すると俺の目に飛び込んできたのは、ベッドの上でウィルに抱き着いているアルクの姿だった。
ウィルは困ったような表情のまま、扉を開けた俺に目を向けた。
「…………………………」
一瞬、部屋がシーーーンと静まり返る。
「悪い、邪魔したな」
俺はくるりと踵を返し、そのまま部屋を離れようとした。
「いや待て待て!邪魔って何だ!!おかしいだろ!!」
ウィルは慌てて俺に向かって手を伸ばした。
「おい待てって、しょこら!ほら、アルク、ちゃんとしょこらと話せよ!」
ウィルはしがみついているアルクを引き離し、ベッドから降りた。
「じゃあ、俺は部屋に戻るからよ。ちゃんと話すんだぞ!」
アルクに向かってそう言うと、ウィルは部屋から出て行った。
そして出て行きざまに、俺に向かってこそっと呟く。
「おいしょこら、アルクに説明してやれよ。お前とロッセルの二人がデキてんじゃないかって、アルクが気にしてるからさ……」
そう言ってウィルは、パタリと扉を閉めた。
正直それを聞いて、俺も部屋に戻りたくなった。
俺はハアっとため息を好き、アルクの方に目を向けた。
アルクはベッドの上で膝を抱えたまま座っている。
俺はベッドに近づき、アルクを見下ろした。
「おい。何を考えてるか知らんが、とりあえず誤解だ。以上だ」
俺が手短に言うも、アルクは下を向いたままだ。
聞こえていなかったのか、やがてブツブツと独り言のようにつぶやく。
「しょこらもやっぱり、イケメンが好きなんだ……毎日二人で部屋で、何かしてたんだ………」
俺は少しイラっとし出す。
腰に手を当てて、再びアルクに向かって言った。
「おい。聞いてるのか。誤解だと言ってるだろ」
「あのイケメンと二人で町に………二人でデートしてたんだ………」
「おい。いい加減にしろよ」
するとアルクはやっと顔を上げて俺を見た。
「ねえ、僕はやっぱり、しょこらが何考えてるか分からない……。ちゃんと言ってくれなきゃ、分からないよ……」
アルクは俺をじっと見つめる。
俺はまたため息をついた。
「前にも言っただろうが。そんなこと、普通言わなくても分かるだろ」
「だから、僕は分からないんだよ!」
アルクは食い下がる。
「僕は前世でもそうだった。人と関わるのが苦手で、その人が何を考えてるかなんて、全然分からないんだ!分からなくて、不安でしょうがなくて、余計に人と関わるのが怖くなるんだ……」
「ならお前、ウィルと関わるのも怖いのかよ」
「ウィルは僕に、はっきり言ってくれたんだ。親友だと思ってるって。だけどしょこらは何も言わない……もちろん仲間だと思ってくれてるのは分かるけど、でも……僕が知りたいのはそういうことじゃなくて………」
まったく、これでは埒が明かない。
俺が黙っていると、アルクはまた口を開いた。
「前に、家を建てるって話したときも、僕が結婚できなくなるだなんて言って……しょこらはやっぱり僕のことなんて好きじゃないんだ………なのにあんな、思わせぶりなことして………」
「おい待て。俺がいつ思わせぶりなことをした」
「したじゃないか、ほら、研究所で捕まってた時に、あの部屋で………ほら、僕の血を………」
俺は記憶を辿る。
そしてアルクが何の話をしているのかに思い至った。
「汚れていたら舌で綺麗にするのは当然だろ。猫なんだぞ」
俺がフンとそう言うと、アルクの顔に衝撃が走る。
そしてまたガバっと膝を抱えこんだ。
「やっぱり僕の勘違いなんだ!!しょこらは僕のことなんか好きじゃないんだ!!ウィルはきっとそうだって言ってくれたけど、でもやっぱり違うんだ!!」
「ああもう、うるせえな!!好きだって言ってんだろうが!!」
俺はイライラして思わず叫ぶ。
その言葉に、アルクはパッと顔を上げた。
「しょ、しょこら、今なんて……………………?もう一回…………………………」
「断る」
「ねえ、そんなこと言わずに、お願い!よく聞こえなかった…………」
「却下だ」
俺はそう言い放ち、アルクの部屋から出て行った。
アルクはポカンと口を開けて、そんな俺の後ろ姿を見送った。




