79.黒幕
俺達の失踪は、王宮で大変な騒ぎになっていた。
俺達は結局、研究所で一夜を明かしたのだ。
勇者一行が姿をくらましたことで、王宮騎士団や各地の護衛隊が出動して町中を捜索していたらしい。
最も騒いだのは、ロッセルだった。
ロッセルは自ら率先して町中を探し回り、俺達が失踪前に訪れた郊外の滝までも足を運んだという。
そして行く先々で、狂ったように叫んでいた。
「しょこらあああああ!一体どこに行ったんだああああああ!!!」
俺達が明け方に宮殿へと戻ると、ロッセルは歓喜した。
国王は安堵の息をつき、ギルバートとデルバートはぎりぎりと歯を噛みしめた。
事の顛末を説明すると、国王はその事実に愕然とする。
魔術研究所の地下での研究については、もちろん国王も承知していた。
しかし魔力確保のため子供達を捕らえたり、さらに勇者をも拉致して利用しようとしたことは、国王の知るところではなかった。
囚われていた子供達は王室により保護され、身元の確認が行われる事となる。
「しかし、お前達の話によると、研究所の者達に勇者暗殺を依頼した人物は、別にいるということだろう!それは一体誰なんだ!?」
ロッセルは俺達に向かって、必死に問いかける。
「そのような奴らには、この私が天罰をくれてやる!!」
そう、本来であれば俺達は、密かに暗殺されるはずだったのだ。
何者かが黒装束の男達、つまり研究所の人間達に、俺とアルクの暗殺を指示した。
それも、できるだけ痛めつけて殺すようにと。
しかし研究所の者達は、独断で俺達を研究に利用しようとしたのだ。
暗殺を企てた人物からすると、それは全くの予想外だった。
俺はチラリと、ギルバートとデルバートに目を向ける。
遠目に俺達を睨みつける様子から、何となく黒幕が誰かは想像がついた。
「ともかく、これは我が国にとって大いなる恥だ。両国の友好を深めるはずの招待で、まさかこのような事件が起きようとは。誠に慙愧の念に堪えない。先の侵攻に加え、もちろん今回の件も国として、正式に謝罪させてもらおう」
国王は完全に、面目丸つぶれといった様子だった。
事件の報告を終えると、俺達は全員部屋へと向かう。
昨夜は一睡もしていないせいで、全員疲れ切っていた。
「にしても、本当無事でよかったぜ。やっぱしょこらとアルクは最強だな」
ウィルは俺達に向かってニッと微笑んで言う。
ミーシャのその隣で、満足そうな笑みを浮かべていた。
「ええ。私の希望通り、じっくり奴らを痛めつけてくださったようで。さすがですね」
なおジークは、地下街で俺達と落ち合ってすぐ、転移してダンジョン深層の部屋へと戻っていた。
それぞれが寝室に入ろうかという時、誰かが俺を呼び止める。
振り向かなくてもそれが誰かは明らかだった。
「おおい、しょこら!!やっとゆっくり話ができるな!!!」
ロッセルが怒涛の勢いで俺に向かって走って来る。
そのままガバっと抱き付かれそうだったので、俺は右手でロッセルの顔面を押さえた。
「あいたたた、何をするんだ、やっと会えたと言うのに……私は本当に心配したんだぞ!!」
「おい。俺は疲れてるんだ。ほっといてくれ」
ぐぐぐぐとロッセルの顔を押し返しながら俺は言い放つ。
「いいではないか、お前達は明日には帰ってしまうんだろう!回復魔法とやらを使えば疲れなど吹っ飛ぶはずだ!!それで私と話を……」
「そんなことしたら俺の精神が死ぬ。じゃあな」
俺はそう言って部屋に入り、ロッセルの目の前でドアをバタンと閉める。
その時アルクは、そんな俺とロッセルの様子をじっと見つめていた。
それから数時間、俺達は全員眠りにつく。
俺が目を覚ましたのは、太陽が真上を通り過ぎて2時間ほど経った頃だった。
「おおしょこら!!目が覚めたか!!!」
俺がベッドから飛び降りるや否や、音を聞きつけたロッセルが部屋に飛び込んでくる。
「おい。俺はまだ疲れてるんだが……」
さすがにうんざりしながら言うと、ロッセルは案外真面目な顔をした。
「聞いてくれ、あの子供達を調べたら、全員が地下街の出身だったのだ。物心ついた頃に何者かに拉致され、気づけば毎日研究所で魔力供給減として酷使されていたようなのだが……」
ロッセルはそこで少し顔をしかめる。
いつも容姿自慢されているからか、こいつが作る表情はどこか芝居がかったように見えた。
「地下街から誰が消えようが気にする者はいない。それを良いことに研究所の奴らは、地下街で魔力を持つ子供達を見つけては捕らえていたらしい」
「そうか。で、黒幕は見つかったのか」
俺が尋ねると、ロッセルはゆっくり首を振る。
「いいや。研究員たちを拷問しているが、まだ誰も口を割らないようだ」
俺は考える。
おそらく黒幕、ギルバートとデルバートは、研究員たちの所業を普段から黙認していたのだろう。
本来地下街に送られるはずの補助金とやらも、二人が研究費として横流ししてやっていたのかも知れない。
いわば研究所の弱みを握っている上に、恩義をかけている状態なのだ。
だから今回、俺達の暗殺を研究員たちに依頼したのだろう。
「おい。魔術研究所は国が運営してるのか」
「え?ああ、そうだ……いや、どうだったかな……国とランデルク領の共同運営だったはず……」
「ランデルクってのはお前の従兄弟達だな」
「ああ、そうだが………」
俺はさっとベッドから飛び降りる。
あの性格の悪そうな二人のことだ、証拠は綿密に隠蔽しているだろう。
「おい、出かけるぞ」
「ええっ、ど、どこへ行くんだ!」
俺はロッセルに呼びかけ、さっさと部屋を出て行く。
ロッセルは慌てて俺に続いた。




