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74.選択肢

黒装束の人物達は部屋へと入り込み、俺とアルクに向かって話しかける。



「目隠しを外したか。まあ良い、どちらにしても問題はない」


俺とアルクは黙って、じっとそいつらを観察する。

体型からして、おそらく全員男だ。



「我々は、お前達の暗殺依頼を受けている。それも、散々痛めつけて殺せとの命令だ」


「な………どうして………」



アルクは愕然として口を開く。

すると突然、男の一人がアルクの横っ面を蹴飛ばした。



「ぐあああぁぁっ!!」



アルクは吹っ飛び、床にぐしゃりと倒れ込む。



「誰が口を利いて良いと言った。勝手に発言するな」


男は俺達を見下ろし、冷酷な声で言った。

どうにも厄介そうな奴らだ。



俺は膝立ちでアルクの傍に行き、肩でアルクが起き上がるのを支えた。



「お前達は余程誰かの恨みを買ったのだろう。ここで俺達に拷問され、そのまま死んで人知れず地下に埋められるのみだ。しかし……」



しかし、それならなぜすぐにでもそうしないのだ。

ウィルを俺達からわざわざ引き離す必要もないはずだ。



「しかし、お前達が我々に協力するならば、話は別だ。命だけは助けてやる。この地下での最低限の生活も保障してやる」



一体何に協力しろと言うのだ。

質問するとまたぶっ飛ばされるようなので、俺は黙ってじっと男を見返した。



「ちなみに言うが、お前達に選択肢は二つしかない。一つはここで拷問されて死ぬか、二つ目は俺達に協力するかだ。俺達に協力すると言うのなら、あの青髪男は見逃してやろう。つまり二つ目の選択肢の方が理想的だ。分かるか?」


全く分からないが、俺はとりあえず黙っておく。



「協力というのは簡単に言うと、魔力供給だ。現在この国の地下では大規模な魔導兵器の開発が進められている。実験を続けるには安定的な魔力供給は不可欠だ。そこでお前達の無限とも言えるその魔力が有用になる」



アルクは話を聞きながら、小刻みに体を震わせている。



「無論、そのような事をせずとも、お前達本人をそのまま武器として、この国のために戦わせることもできる。しかしそれでは意味がない。人間はいずれ死ぬ。我々に必要なのは、恒久的にこの国を支え得る新兵器だ」



今の話で、こいつらは自分達の正体を明かしたようなものだ。

やはり今後俺達を、地上に返す気は一切ないらしい。



「お前達には魔法契約書に署名してもらう。契約書にはあの青髪の男の解放および、命の保障も明記されている。契約が成立すればあの男は自由だ」



そして契約しなければ、俺達は三人とも殺されるということか。



「お前達が契約書の内容に違反した場合、つまり逃亡や反乱を企てた場合、お前達はいずれにせよ死ぬ。魔法契約書とはそういうものだ。違反した者は命を落とす」



男の一人はそう言って、懐から紙を一枚取り出した。

そこには怪しく光る赤い文字で、一面に何かが書かれている。


おそらくそれが、今言っていた契約書だろう。



「お前達自身の血で署名をするのだ。そうすれば契約は有効になる」



男は俺の目の前にしゃがみ込み、顔を覗き込んでくる。



「さあどうだ、今すぐ全員死ぬか、署名するかだ。……命さえあればお前にも、少しは良い思いをさせてやれるかも知れないぞ」


そう言って男は俺の全身を舐めるように見た。




ゴツッッッッッッ!!!!!!




「な、お前、何をする!!!」



俺は目の前にしゃがみ込んだ男に、思いっきり頭突きしたのだ。

男はそのまま吹っ飛び、頭蓋骨が陥没して気絶していた。


他の男達は俺の所業に驚き、思わず慌てふためいた。



「こいつ、よくもやりやがったな……!!」

「お前、あの青髪の男がどうなっても良いのか!!」



男の一人は俺の胸ぐらを掴み、思いっきりパンチを食らわせて来る。

そのまま俺は床にドサリと投げ出された。



「しょこら!!!!」



アルクが叫び、急いで俺の元に移動しようとする。



「お前達はどうも、自分の立場が分かっていないようだな!!」



男は再び俺に向かって、足を振り下ろす。




ドスッッッッッッ!!!




男の足が踏みつけたのは、しかし、俺ではなくアルクだった。

アルクが俺の上に覆いかぶさり、背中で蹴りを受けたのだ。



「ぐっっっっ………」


アルクは思わず息を止める。


俺は倒れたまま、目の前にあるアルクの胸を見上げていた。




「おい、焦るな!今すぐ殺すのは得策じゃない」


別の黒装束の男が、続けて俺達を殴り飛ばそうとする男を引き留めた。


「お前達、少しは時間をやろう。改めてよく考えるんだ。ここで今すぐ死ぬか、我々に協力するかだ。選択肢は二つしかない。分かったか」



そう言って男達は、扉を閉めて出て行った。




「しょこら………」


再び暗闇になった部屋で、アルクは起き上がり俺に尋ねる。


「大丈夫………?」

「ああ。お前こそ大丈夫か」

「僕は、大丈夫……。ねえ、どうしよう、僕達が断るとウィルが………」


俺はペッと血を吐き出し、フンと鼻を鳴らした。


「どっちの選択肢も御免だ。俺達が生涯ここで奴隷になって、馬鹿げた研究に付き合うなんざ、ウィルの奴だって望まないだろう」

「そ、そうだけど………」



俺はミーシャのことを考えた。

今のところ、捕まっていないのはミーシャだけだ。


俺達が戻らず念話も通じないとなると、異変に気付くはずだ。


それで何とかウィルの居場所だけでも突き止めてくれれば良いのだが。



俺が考えを巡らせていると、アルクがまた口を開く。


「ねえ、でも……僕達がもし、何とかここを抜け出せたとしても、奴らに気付かれたら、ウィルは殺されちゃうんじゃ……」



暗闇の中で、アルクはぐっと言葉に詰まる。

そして俺の方をじっと見た。



「ねえ。しょこらだけでも、地上に帰るべきだ。奴らが欲しいのは勇者の魔力だから、僕だけでも問題ないはずだ。契約書に、しょこらの解放についても追加してもらう。それで……」


「お前、馬鹿なこと言ってんじゃねえぞ」



俺はその案を一蹴する。



「だいたいお前、俺がそんなこと受け入れると思ってるのか」

「でも……。ほら、しょこらはきっと、僕を助けようとして、戻って来てくれるでしょ……。だから………」


そうは言っても、契約書に署名するのは生きながらの死を意味する。

アルクもそれは分かっているはずだ。



よく見るとアルクの口元にはまだ血が付いていた。

さっき頬を蹴飛ばされた時に切れたのだろう。



「え……………」



俺はアルクに近づき、口元の血を舌で拭った。



「馬鹿なこと言ってないで、方法を考えるぞ」



しかしアルクは返事をしない。



ただその場に似合わぬ真っ赤な顔をして、茫然と固まっていた。


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