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71.魔術研究所

翌日俺達は、改めて王都ブランディールの町中へと出ていた。



俺とアルク、ウィル、ミーシャの四人に、またロッセルと護衛もくっ付いている。



「ねえ、なんであの人、いつも僕らに付いて来るんだろう……」


ロッセルへの警戒心を緩められないアルクは、また俺の腕をぎゅっと掴みながら言った。

そんなアルクの視線を気にも留めず、ロッセルは快活に俺達を案内する。



「諸君。今日は我が国一番の魔術研究所へ招待しよう!魔力を持つ者こそ少ないが、だからこそ限られた魔力を最大限に生かした魔術や魔道具の研究が進んでいるのだぞ!船の姿を隠した幻影魔法を見ただろう!しかし中には国外秘の機密情報もあるから、公開できる部分だけにはなるがな!」


それを聞いて最も喜んだのは、もちろんウィルだ。


「すげええええ!外国の最新技術をこの目で見られるなんて……」



魔術研究所があるのは三階層だ。

そのような国としての重要な機関は全て三階層に設けられているらしい。



それは平らな円形の建物だった。

周囲を頑丈な塀で覆われ、外からは中が一切見えないようになっている。



ロッセルは先頭に立ち、研究所の扉を開ける。

俺は特に興味はないが、アルクとウィルは目を輝かせてキョロキョロしていた。



「まず基礎魔法の研究室だが、火・水・風・土・光の各属性に分かれている。お前達も知っての通り、火魔法一つ取ってもその種類は計り知れない。単に小さく火を灯す、巨大な火炎砲を発射する、熱光線を発する、超高温の炎で対象を一気に溶かす、などだ。各研究室の主な目的は、新しい詠唱方法や魔法の構築課程を編み出して新種の魔法を作成することで……」


ロッセルは意気揚々と説明する。

戦場においてはポンコツだったが、案内役はきちんと務められるらしい。



「しかしこれらは基礎中の基礎だ。研究はもちろんこれだけではない。お前達の気になっている幻影魔法始め、基本属性に該当しないいわゆる“便利魔法”や魔道具の研究室は奥にある。付いてこい……」



ロッセルはどんどん先へ進む。

各属性の研究室を窓からチラリと除くと、中では色々な事が起きていた。


ただブツブツと壁に向かって呟き続ける研究員もいれば、杖から巨大な竜巻を噴射し、制御できず部屋を破壊している者もいる。


火魔法の研究室に至っては、部屋に置かれた机や発動装置のような設備が、漏れなく焦げ付いていた。



ウィルは周囲を注意深く観察している。


「今んとこ、アゼリア国にある研究所とそこまで変わらねえな。ああ、王都に研究所があるんだぜ」


アルクが驚いた顔をしたので、ウィルは説明する。


「魔術学校卒業生も何人かいる。ただ研究員になれるのはごく一部の限られた人間だけだ。俺みたいに一見役に立たない研究ばっか続けてる奴には機会は巡って来ねえよ」


「だけど、ウィルの魔法はすごく役に立つのに……」


アルクの言葉を聞いて、ウィルはまた嬉しそうに笑って言う。


「ありがとな。でもそれだけじゃない。あそこの研究所の人間は何て言うか、研究熱心なあまり変人が多くてだな……」

「ならお前にぴったりじゃないか」

「なんでだよ!!」


俺とウィルのやり取りを見て、今度はアルクが可笑しそうに笑った。




ロッセルに案内され、俺達はさらに奥へと進む。


ひときわ大きな研究室には、雑多な魔道具が積み上げられ、実験用と思われる魔物が檻や水槽に入れられていた。


俺達は特別に、研究室の中へと案内される。



ウィルは早速、研究員の一人に話しかけに行った。


「なあ、あ、いや、すみません、幻影魔法の仕組みについて教えてもらえませんか……」



ロッセルはなぜか自慢げに、ウィルの様子を見てフンと笑った。


「ああそうだろう、我が国の研究は素晴らしいだろう!長年にわたる魔術研究が我々の国をここまで大きくしたのだ!だからそろそろ、アゼリア国の統一も実現できると思ったん……だが……」



俺とアルクがジトっと見つめるので、ロッセルは言葉を濁らせる。



「ま、まあ、それはもう諦めたのだ、そんな目で見ないでくれ……」



「おいアルク、しょこら、すげーぞこれ!」


ウィルが俺とアルクに呼びかける。

なんとその体を、何やら黒いヒモ状の物体で縛り上げられている。


「術者しか解除できない拘束魔法だってさ!どんなに強い力でも千切れねえ。しょこら、試しに引っ張ってみてくれよ……」



俺が思い切り引っ張っても、確かにその黒い縄は全く解けなかった。



「チッ、こんなもんが出まわったら厄介だろ」


俺がそう言うと、アルクも力なく笑った。


「あら、罪人を捕らえるのにはちょうど良いではありませんか。我が国にも術者にしか取り外せない装身具はありますが……以前しょこら様に取り付けた腕輪もその一つですよ。しかしこのような大がかりな拘束魔法はありませんね」



ミーシャは笑みを浮かべ、興味深げにその縄を見つめた。



ウィルはいつの間にか縄を解かれ、幻影魔法の理論について研究員と語り合っていた。


「……そうか、基礎となるのは光魔法か。そりゃそうだ、物体が見えるのは光の屈折によるものだ。てことは何等かの方法で人の目にそもそも光の情報が届かないようにすりゃいいのか。強力な光魔法を使って物体の光を遮断すれば人の目には届かなくなる……だがそもそも勇者以外の人間で光魔法を使える者は限られているはずだ。限りなく少ない魔力で一体どうやって……」



俺は大きくあくびをした。


改めて周囲を見回すと、平らな円形の研究所は二階建てだ。

しかし俺が目を向けた壁の向こうには階段があり、それは上階だけではなく、地下へも続いているようだ。


「おい。地下にも研究室があるのか」


俺が何気なくロッセルに尋ねると、ロッセルはなぜかギクリとする。


「あ、ああ、あるにはあるが、すまないが地下には入れない。お前達だけではない、私だってそこに何があるか知らないし、入れないのだ。地下では重大な国家機密情報を扱っている。部外者が足を踏み入れただけで死罪になる」



俺はフンと鼻を鳴らした。

元々研究には興味ないのだ。そんな場所、頼まれたって入る訳がない。



結局俺達はその日、ほぼ一日を研究室で過ごしたのだった。




夜になり、俺達は外で食事を取る事にする。


「すまないが私は城に戻るらなければならない。お前達は強いから護衛がなくとも問題ないだろう。では楽しんでくれ!しょこら、また夜に部屋に行くからな!!」



ロッセルはいらぬことを言い残して去って行った。



「え、部屋にって……しょこら、どういうこと……?」


アルクが俺をじっと見つめる。


「ああ、大したことじゃない」


俺は面倒なので、その場では適当に返事しておいた。




俺達は一階層まで戻り、食事する場所を探すことにする。

二階層や三階層は高価そうな店ばかりで、正直面倒そうだからだ。


「あら、お金はあるのですから、ご遠慮は無用ですよ」


ミーシャがそう言うが、俺もアルクもウィルも、堅苦しい店は御免だった。



歩くと時間がかかるので、俺達は人目に付かない場所から一階層へと転移する。

そして適当な店を見つけて食事を取った。



「ああ、やっぱり、こういう賑やかな場所の方が落ち着くね……」


夜になっても一階層は、人で溢れ返っていた。

明かりが灯った通りを眺めながら、アルクは小さく息をつく。



「明日は自由行動です。皆さん好きな場所へ観光に行っていただけますよ」


ミーシャはそう言ってニコッと微笑んだ。




俺はその時ふと、また誰かの視線を感じる。

サッと後ろを振り返るが、人で溢れた町中で、俺達を見つめる者はなかった。



「しょこら、どうしたの?」


アルクが俺の様子を見て声をかける。


「いや」



俺は簡単に返答し、再び前を向き歩き出した。


その時俺の本能は、やはり何か面倒事が起きそうだとどこかで感じ取っていた。





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