70.国王への謁見
王宮にたどり着くまでに、俺達は二階層、三階層を通り抜けてきた。
二階層になると一階層よりも建物が全体的に大きくなる。
そして一階層の雑多な下町のような雰囲気がなくなり、整然とした落ち着いた住宅街という様子で、多少値が張りそうな大きな商店が増えた。
一階層と二階層は平民の区域だが、明らかに二階層の住民の方が裕福なようだ。
そして三階層になると、突然町の色が変わった。
全ての建物が白い石造りでできているのだ。
そこは貴族の区域で、全ての屋敷には庭があり、高い門で囲われている。
道は建物と同じような白い石が敷き詰められ、完璧に舗装されている。
ゴミ一つ落ちておらず、雑草の一本も生えていない。
そして俺達を王宮まで送り届ける、別の馬車がそこで待機していた。
「なんか、まさにお金持ちのエリアって感じ……」
アルクが馬車の中から外を覗きながら、ボソッと呟く。
「ああ。三階層だけで、アゼリア国の王都全体分の金がかけられてるんじゃねえか」
ウィルも感心したように言った。
ロッセルはそんな二人の会話を聞いて、得意げな笑みを漏らしている。
そして俺達はついに、宮殿を見上げて立っていた。
他の建物と同様に白い石造りで、いくつも連なった棟の先端の屋根は真っ青だ。
中央の最も大きな棟の上部には、帝国の紋章がはめ込まれている。
国旗と同じく、金色の大陸の上で剣と杖が交差している紋章だ。
「どうしよう、僕、緊張してきた……」
アルクが宮殿を見上げながら、少し顔を青くした。
「大丈夫です。私がお教えした通りに挨拶すれば良いのです」
余裕の表情で宮殿を見上げながら、ミーシャはニコッと笑った。
俺達はすぐにロッセルに先導され、王への謁見の前に通される。
巨大な大広間の両開きの扉が開け放たれると、その奥に玉座があり、王が鎮座していた。
バルダン帝国の王は、アゼリア国や異世界の王のように、重々しいローブを纏っていない。
その代わりに、なぜか重厚な鎧を身に纏っていた。
「アゼリア国の勇者一行諸君、よくぞ我がバルダン帝国へ。余はバルダン帝国国王、アレクサンドロス・バルダンである」
王は物々しい雰囲気を醸し出しながら言った。
こいつがアゼリア国への侵攻を企てた張本人だ。
そんな奴に対してへりくだるのは癪だが、背後からミーシャの鋭い視線を受けながら、俺達は否応なしに跪く。
しかし、挨拶をするはずのアルクが、一向に口を開かない。
すると隣で跪いたウィルが代わりに口を開いた。
「お招きいただき感謝します、バルダン国王陛下。勇者アルク・フレデール、従魔しょこら、ユリアン女王直属の臣下ミーシャ、そしてユリアン女王の従兄ウィルギリウス・ヘイデンです。この度の訪問が両国間の新たな関係構築の一助となれば幸いです」
握った右手を胸に当て、右足を下げて跪いた格好で、ウィルがすらすらと言った。
俺とアルク、ミーシャも同様の姿勢を取りながら、アルクは俺達に念話で話しかける。
『ウィル、ありがとう!僕、挨拶の言葉すっかり忘れちゃってたよ……』
『そういえばお前、一応王族だったんだな』
『よくできましたね、ウィルギリウス様。さすが王族、ただの猫耳フェチではないのですね』
俺達が続けざまに言うと、ウィルは表情を変えずに力なく答える。
『だからお前ら、俺のことを何だと思ってんだよ……』
本来は王が話す間、跪いたまま聞くのがこの国の礼儀だという。
しかし俺に取っては知ったこっちゃない。それに今回は侵攻への謝罪も兼ねた招待なのだ。
俺は早々に立ち上がり、腰に手を当てて王を見返した。
『しょこら様、私の教えをお忘れですか?』
ミーシャが念話でヒヤリとした声を発するが、俺はフンと鼻を鳴らす。
そしてバルダン帝国王に向かって声を上げた。
「おい。俺達はいつまでも下手に出るつもりはない。今回はこっちが迷惑をかけられた側なんだ。侵攻に対する謝罪はきちんとしてもらうぞ」
俺がそう言い放つと、一瞬広間の空気が静まり返った。
「貴様、国王に向かって無礼な………」
傍に控えていた国王の臣下が、俺に向かって怒りの声を上げる。
しかし国王は手を上げてそれを制した。
「よい。その者の言う通りだ。此度の我が国の計らいはまさに愚かであった。改めて諸君らに謝罪しよう。此度の招待の目的は其方の言う通り、友好関係の構築のみならず、国としての正式な謝罪を兼ねてのものだ。そうかしこまる必要もない」
俺の隣で、アルクとウィルがほっと息をつく気配がする。
ミーシャは王への謁見が終わるまで、背後から俺に冷酷な笑みを向けていた。
「おい、しょこら、私の父上にあんな口をきいたのはお前が初めてだ!何だかとても爽快だったぞ!!」
広間を出ると、ロッセルが興奮して俺に声をかける。
こいつは王室では無能だと言われ、普段から肩身の狭い思いをしているのだろう。
俺が王族に歯向かう度に、ロッセルは嬉しそうな顔をした。
「で、挨拶も済んだしもう自由にして良いか。堅苦しい場は嫌いなんだ」
俺がそう言うと、ロッセルは思い出したように言う。
「ああ、そうだ、お前達に部屋を用意したんだ!今夜は晩餐会があるから、それまで部屋で休むと良い!しょこらは私の部屋で……」
しかしロッセルが言い終わらないうちに、アルクが背後からガバっと俺に抱き着いた。
「すみません、しょこらは僕と同じ部屋で良いです。早く案内してください」
アルクは再び、ジロリとロッセルを凝視して言った。
俺達が廊下を抜けて寝室のある東棟へと向かっていると、俺はふと視線を感じる。
そちらに目をると、二人の男が俺達をじっと見ていた。
ロッセルの従弟のギルバートと、その兄のデルバートだ。
俺が戦いの場で二人ともぶっ飛ばしたのだ。
二人は険しい顔をして、俺のことを睨みつけている。
俺は全く気にせず、無視してその場を通り過ぎた。
俺達には一人一部屋ずつ、宮殿内の客室が充てがわれた。
俺もアルクも別部屋なので、合計四部屋だ。
アルクは俺と同じ部屋でいいと散々喚いたが、ロッセルがきっぱりと断った。
「すまないが、未婚の男女を同室で宿泊させられない決まりなのだ。例え従魔でも、人間の姿になれるなら同じだ」
アルクはそれを聞いてぐっと言葉に詰まる。
しかしやがて諦めたように、ハアっと息をついた。
晩餐会とやらまでの間、俺達は部屋で休むことにする。
かと思いきや、ロッセルは早速俺の部屋にズカズカと入り込んできた。
「おお、しょこら、やっと二人でゆっくり話ができるな!!聞いてくれ、私がたった一人無傷で戦場から戻り、しかもユリアンと国交再開を約してきたことで、王宮の者達は度肝を抜かれていたのだ!!侵攻こそ失敗したが、情けなく倒されたギルバートやデルバートに比べたら、大きな成果だとな!!これも全部しょこらのおかげだ!!もはや誰も私のことを、見た目が良いだけの無能だとは言うまい……」
「おい。男女同室は禁止じゃなかったのかよ」
「一緒に夜を明かす訳ではないから良いのだ!!私にはしょこらと積もる話がたくさんあるのだ……」
俺はやれやれとため息をつく。
こっちには積もる話などないんだが。
しかしロッセルはお構いなしに、ひたすらに話し続けたのだった。




