68.アリゼーの提案
翌日俺達は、久しぶりにアルクの両親に会いに行った。
バルダン帝国との戦の話は、両親の耳にももちろん入っている。
楽々と勝利したものの、息子が戦いに巻き込まれた事実は、二人をかなり心配させたようだ。
アリゼーは念話で俺達に、たまには顔を見せに戻れと懇願した。
それで俺達は早速、フレデール領へと戻ったのだった。
「アル、しょこら!!心配したのよ、怪我はないの!?」
アリゼーは俺達の姿を見た瞬間、ガバっと抱き付いて来た。
アルクがよく俺に抱き着いて来る様子とそっくりだ。
ちなみに俺は今、猫耳忍者の姿になっている。
そうしないとアリゼー以外の者とは会話できないからだ。
「まったく、大変なことに巻き込まれているのに、全然連絡を寄越さないんだから……。全て終わった後に王室から感謝状が届いて、初めてあなた達が戦っていたことを知ったのよ!」
「まあまあ、アリゼー。そろそろ二人を放してやれ」
アルクの父ゼノスが、隣で落ち着いた声で言った。
「しかし本当に、二人とも無事で何よりだ」
アルクは申し訳なさそうに、にこっと笑った。
両親に心配をかけないよう、戦のことはこれまで隠していたのだ。
フレデール家で昼食を取りながら、両親は俺達に色々と質問をする。
戦いの経緯を説明し終えたアルクは、両親に向かってバルダン帝国からの招待の件を話した。
話を聞いて、アリゼーもゼノスも驚いた様子だ。
「まあ、バルダン帝国に……。同伴者3名と言っても、お父様は忙しいし、私も外国は少し怖いから遠慮しておくわ。アル、十分に気を付けるのよ」
心配そうにするアリゼーに、ゼノスも同意する。
「ああ。国交が再開されるのは、およそ百年振りという話だ。正式な招待であれば問題はないと思うが、どんな危険があるか分からない。気を付けるに越したことはない」
アルクは二人の話を聞いて、また不安そうな顔をする。
「それにアル、しょこらをちゃんと守ってあげるのよ」
「え?」
「だってあなたは勇者でしょう。しょこらが危険な目に遭わないように、あなたが守るのよ」
「あ、ああ……そうだね……」
『まあ、本当はしょこらの方が強いんだけど……』
アルクが心の中でぼそっと呟く。
アリゼーとの念話は閉じているので、その声は俺にだけ聞こえてきた。
「ああ、それにしてもしょこら、相変わらず本当に可愛いわね……」
アリゼーはうっとりと俺を眺める。
俺は特に言うことがないので、黙って魚料理を食べていた。
「でしょ、しょこらはすごく可愛いんだ!」
アルクが目を輝かせて母親に応じる。
やれやれ、また頭のおかしい母子のやり取りが始まったのだ。
アリゼーは俺から目を離さずに言った。
「そうだわ、そんなに報酬金が入って来たなら、二人の家を建てたらどうかしら。新婚夫婦には新居がなきゃ……」
「えっ、何それ、母さん……すごく良い考えだ……」
「おい待て、勝手に結婚させるな。言っとくが俺は猫だぞ」
俺が思わず口を挟む。
しかしアリゼーは全く動じない。相変わらず目を輝かせて俺を見つめている。
「あらいいじゃない、だってあなた達これからずっと一緒にいるんでしょ?結婚してるようなものじゃない……」
「こら、しょこらが困るだろう。その辺にしておくんだ」
ゼノスがアリゼーを優しく諭す。
言葉とは裏腹に、ゼノスの言い方には愛情がこもっていた。
「そう、残念ね……」
アリゼーはそれからも、食事が終わるまで俺を見つめ続けた。
「まったく、お前らは本当に似た者親子だな」
その日、フレデール家に滞在することにした俺達は、アルクの部屋にいた。
俺は猫の姿に戻り、ベッドに飛び乗りながら言った。
「そうかな?でもさ、よく考えたらすごく良い話だと思わない……?」
アルクもベッドに腰かけながら言う。
「だって、しょこらは転移魔法が使えるでしょ。僕らの家があれば、どこへ旅に出ても夜には家に帰ればいいんだ。わざわざ宿屋に泊まる必要もなくなるよ」
「おう。だがお前、気が変わって誰かと結婚したくなっても簡単にはできなくなるぞ。それでもいいのか」
俺が何気なく尋ねると、アルクは少し衝撃を受けた顔をする。
「えっ……いや、もちろんいいよ。気が変わることなんてないし……」
俺は大きくあくびをして、そのまま丸くなった。
「とにかく疲れたから、また今度考えるぞ」
俺がそう言って眠りにつくと、アルクはしばらく俺の姿を見つめていた。
翌日、俺達は再び王都にいた。
つい昨日訪れたばかりだというのに、今度はミーシャから呼び出しがかかったのだ。
「ったく、転移魔法のこと知ってるからって、簡単に人を呼びつけやがって……」
俺がブツブツ文句を言うと、アルクも苦笑した。
「そうだね。まあ、でも、実際一瞬で行けちゃうんだから、仕方ないよね……」
俺達はまた、ユリアンの執務室へと通された。
ミーシャは部屋に入った俺達にニコッと笑いかける。
「あらお二人とも、昨日ぶりですね。今回は私から用があったのですが、ユリアン様もどうしても同席したいとのことで、この通りご一緒にお待ちしておりました」
「ちょっとミーシャ、余計な事は言わないでちょうだい!」
ユリアンは少し赤くなり、ミーシャに反論する。
「で、何の用なんだ」
俺が尋ねると、ミーシャは再びニコッと笑う。
「もちろん、あなた達にバルダン帝国式の挨拶や作法を叩きこむのですよ。単なる娯楽旅行ではないのです、国交再開を記念した国賓として招かれているのですよ。粗相があっては今後の両国間の関係に影響します」
「ええっ、そんなの、昨日は言ってくれなかったじゃ……」
「さあ、さっさと始めますよ!」
思わず反論しかけるアルクの言葉を遮るように、ミーシャはパンッと手を叩く。
「まずは挨拶からです。しょこら様、人間の姿になってください。猫のままでは練習できないでしょう」
俺とアルクは顔を見合わせる。
今や俺もアルクも、帝国への訪問を全力で拒否したい気分だった。




