67.帝国からの招待
俺達は王都を離れ、再びヘイデン魔術学校を訪れた。
最も、単に人目の付かない場所から転移しただけだ。
ユリアンとの話が終わって15分後には、俺達はウィルの研究室を訪れていた。
「ウィル、本当にありがとう!!ウィルがいなかったら僕、どうすれば良いか分からなかったよ……!!」
「おお、気にすん………って、おい、何だよ急に!」
アルクはウィルの姿を見て、思わずガバっと抱き付いていた。
「だって僕だけじゃ、計画の罠だって気づけなかったし、それにしょこらがいなくて本当に心細かったんだよ……。ウィル、本当にありがとう………」
「おいしょこら、俺は今、またたぶらかされてるのか?」
ウィルはやれやれと笑いながら、俺に目を向けた。
アルクが落ち着くと、俺達はユリアンから聞いた話をウィルに伝える。
実はロッセルが、俺とアルクを国賓としてバルダン帝国に招待しているらしいのだ。
ウィルはその話を聞いて、目を丸くした。
「へえ、すげーじゃん!けどあいつら、そのまま勇者を誘拐する気じゃねえだろうな?」
「フン、もしそうなら叩きのめすまでだ」
俺がそう言うと、アルクは力なく笑った。
「今回は国としての正式な招待だから、きっと大丈夫だってユリアンが言ってたよ。それでさ、ウィルも一緒に行かない……?同伴者も3人までならいいらしくて……」
「え?」
「え?」
ウィルが思わずポカンとする。
その反応を見て、アルクもつられてポカンとした。
しかし次の瞬間、ウィルはガタっと椅子から立ち上がる。
「ええ、お前、それ本当かよ!!い、いいのか俺で!!?もちろん行くぜ、生きてるうちに外国に行く機会なんて絶対ないと思ってたんだ!!お前ら言ってただろ、船が急に姿を現したって。どんな魔法で姿を隠してたのか聞きてえ……!!他にも俺達が知らない技術があるかも……」
ウィルの興奮する姿を見て、アルクは嬉しそうに笑った。
それから俺達は、ウィルと一緒に再度ジークを訪ねる。
戦いのことを知っていたジークは、俺達を見てゆっくりと頷いた。
「ああ。どうやら、無事に終わったようだな。大事に至らず、何よりだ」
ウィルとジークはそれから、再び専門的な話を開始する。
聞いてもさっぱり分からないので、俺もアルクもただジークの部屋を見回していた。
アルクは二人に聞こえないよう、小声で囁く。
「そういえばジークは、ハジメさんもここに来たって言ってたよね。それもたった一人で。何だか不思議だね……」
「ああ。しかしあいつが強かった理由がこれで分かった」
四百年前、俺とハジメは何度も模擬戦をした。
その頃俺はすでに元の時代の魔王と、レオとレナの世界でも魔王を倒していたのだ。
魔王二人を倒した俺に匹敵するほどの戦闘力を、ハジメは持っていた。
おそらくダンジョンでたった一人鍛え上げ、深層にまで落ちたことで、かなりレベルが上がっていたのだろう。
そう言う俺もアルクも、ダンジョンで深層の魔物と戦ってから、これまで以上に強くなった。
だからバルダン帝国の軍隊も、ほぼ俺達だけで壊滅できたのだ。
しかし、たった二人で数万の兵に匹敵する力を持つというのは、何となく危険そうだ。
俺の考えを読むかのように、その時、ジークが俺達に声をかける。
「お前達、バルダン帝国に、招待されているんだな」
どうやらウィルがジークに話を伝えたようだ。
アルクが頷くと、ジークはまたゆっくりと話し出す。
「そうか。しかし、気を付けた方が良い。かの国にとって、お前達は脅威以外の何物でもない。自国に引き入れることが不可能なら、始末しようとする可能性もある」
「えっ……そんな………」
アルクは不安げな表情を浮かべる。
しかしウィルも、頭を掻きながら言った。
「ああ、やっぱそうだよな……。つい興奮しちまったが、確かに危険かも知れねえ。なあ、その招待は断ることはできないのか?」
ウィルが俺とアルクに尋ねる。
アルクはちらりと俺を見た。
「えっと……。どうだろう。ユリアンはもう、正式に承諾したって言ってたけど……」
アルクは迷っていた。
ユリアンに迷惑はかけたくないが、命を狙われる可能性があるとなれば話は別だ。それに同伴者のウィルにだって危険が及ぶかもしれない。
俺達の様子を観察していたジークが、またゆっくり口を開いた。
「今の話は、一つの可能性に過ぎない。国交再開を記念した、正式な招待なのだろう。そのような公式の場で何かを仕出かせば、取返しがつかないことはあちらの連中も分かっているはずだ。招待を受けても問題はないだろうが、念のため警戒を怠らないことだ」
結局俺達は、招待を断ることはしなかった。
俺達はジークの部屋を離れた後、今後はファウンデン領主の元へと向かう。
領主からも正式に謝礼が送られ、王室からの報奨金と合わせると、俺達は突然大金を手にしたことになった。
領主の屋敷を離れ、やっと宿屋へと辿り着いたアルクは、ドサリとベッドに崩れ落ちた。
「ああ、やっと終わった………。転移魔法は便利だけど、一日に何か所も訪問するのは、さすがに疲れるね……」
「おう。じゃあさっさと寝るぞ」
しかしアルクはうつ伏せに横たわったまま、動かない。
俺はベッドにピョンと飛び乗り、前足でアルクの頭をバシッと叩く。
「おい、聞いてるのか。早く寝支度をしろ」
するとアルクは俺を捕まえ、むぎゅっと抱きしめた。
そして抱き枕のように俺を抱えたまま話し出す。
「………しょこら、僕、しょこらが捕まった時、本当に心配したんだよ。案の定、なんか変な奴と仲良くなってるし……」
変な奴とはロッセルのことだ。
「それに騎士団の人達にも急に人気になっちゃって……いやだよ、しょこらが人気者なのは嬉しいけど、でもやっぱりいやだ………」
「お前な、子供みたいなこと言ってんじゃねえよ。とりあえず離せ」
「いやだ、しょこらは僕のしょこらなんだ……」
俺はハアっとため息をつく。
また猫耳忍者になって振り払おうかと考えていると、アルクが突然話題を変えた。
「ねえ、しょこら。バルダン帝国に行くの、ちょっと楽しみだね。ウィルも一緒だし、旅行みたいで……。でも、やっぱりちょっと不安だ……」
アルクは俺を抱えたまま考え込む。
「それに僕だけじゃなくて、しょこらだってすごく強いことが知られちゃったんだ。もししょこらに何かあったら……」
俺はフンと鼻を鳴らした。
「考えても仕方ない。ここまで来たら、腹をくくって行くしかないだろ。万一奴らが何か仕出かしても叩きのめすまでだ」
アルクはそれで少し安心したようだ。
にっこりと笑い、腕の中にいる俺を見下ろす。
「うん、そうだね。ありがとう、しょこら………」
そして俺達は、やっとベッドに潜り込む。
アルクが俺を抱きかかえたまま、俺達は二人とも眠りに落ちた。




