65.勇者の力
王国騎士団長は、海上から陸地へと上がって来る、大量の伏兵を見つめていた。
先行部隊とは比べ物にならない数だ。
どうやら敵は最初から、自分達が油断したところを狙うつもりだったらしい。
団員達は兵士の数に気圧されている。
しかし騎士団長は大声で団員達を鼓舞した。
「怖気づくな!我々は女王様から国の防衛を任されたのだ。数が多かろうが我々の敵ではない!奴らにアゼリア国の力を見せつけてやれ!!」
ウオオオオオォォォォと雄叫びが上がり、騎士団員達は武器を構える。
そして侵攻して来る敵兵を迎え撃った。
それはギルバートの兄、デルバートが率いる帝国軍だ。
ロッセルの軍隊とは明らかに戦力が違う。
騎士団員の魔法攻撃を掻い潜り、いとも簡単に陸地へと攻め入り、騎士団員と剣を交え出す。
剣術については両者に差はない。
そこら中で刃物が触れ合う音が飛び交い、負傷者が次々に地面に倒れてゆく。
圧倒的な人数を率いるデルバート軍に押され、戦局は芳しくない。
騎士団長は、このままでは南側の防壁は突破されると考えた。
ドオオオオオオオオォォォォォォン!!!!!!!
しかし次の瞬間、大音量の爆発音が響き渡る。そして轟音を立てて炎が舞い上がった。
それは海岸から攻め入って来る敵兵を、あっという間に一掃した。
その音と光に気を取られ、陸地にいた全員が海岸の方に目を向けた。
海岸はもはや、真っ赤な火の海になっている。
しかもそれだけではない、海上に待機していた何十隻もの船までも、炎に包み込まれている。
「なっ…………一体、なにが………誰が…………」
「あ、ありえない、あの数を一瞬で……!?もしや勇者が、こちらに来ているのか!?」
「デ、デルバート様はご無事なのか!!?」
愕然としたデルバート軍の兵士達は、ただ海上を見つめて固まっていた。
騎士団長も呆気に取られ、目の前の光景を見つめる。
「一体誰が………。勇者様なのか………?いやしかし………」
すると、既に陸上で騎士団員と剣を交えていた敵兵たちは、次々と逃げ出した。
負けを確信して戦意喪失したのだろう。
「一人も逃がすな、奴らを捕らえ………」
しかし、その騎士団長の指示はもはや不要だった。
騎士団員達の目に映ったのは、陸地の敵兵が、次々とぶっ飛ばされ、なぎ倒される姿だった。
「い、一体何が近づいているんだ………」
それはもちろん俺だ。
俺は陸地にいた敵兵に猫キックやパンチをかまし、一人残らず気絶させる。
騎士団員達を巻き込まないよう、魔法攻撃は避けたのだ。
俺が最後の一人を蹴り飛ばし、スタッと地面に着地する姿を、団員達は口を開けて見つめていた。
「あ、あなたは、一体………」
「俺は勇者の従魔だ。で、敵の指揮官はどこだ」
「じ、従魔……。あ、あの黒猫ですか!!?」
団員達が一斉にざわめく。
「ま、まじかよ……」
「え、従魔って変身できるのか?というか強すぎだろ……」
「しかもかわいい……」
バイイイイイイィィィン!!!
「うわっ!な、何だ!??」
何者かが攻撃魔法を打ち込んできたのだ。
俺は一瞬でバリアを展開し、それを弾き飛ばす。
俺達が振り向くと、そこには男の姿があった。
ロッセルやギルバートと同じ王族衣装を着た、茶色い髪の男だ。
おそらくこいつがデルバートだ。
デルバートは魔法攻撃を使えるようだ。
先程は俺達に向かって、火炎魔法を打ち込んできたのだ。
「お前……。勇者の従魔というのは本当か。一体なぜここにいる」
男は俺をギロリと睨め付けながら言った。
「全く解せない。従魔は弟のギルバートが捕らえたはずだ。逃げ出したとしても、一瞬でここまで来られる訳が」
バキイイイイイイイイィィィィィ!!!!!!
男が話し終える前に、俺は男の顔面を猫キックした。
デルバートは弟と全く同じように吹っ飛び、歯と血を飛び散らせて気絶する。
周囲で騎士団員達が、軽く引いている気配がした。
俺は吹っ飛ばされたデルバートの元へと歩き、男を見下ろす。
そして腰に手を当てて、フンと言い放った。
「おい。戦場で長話は禁物だぞ。お前が話し終わるまで、俺が待ってやると思うな」
そして俺は土魔法から作り出した植物の蔓で、男の体を拘束した。
俺の背後で、騎士団員達のウオオオオオォォという歓声が上がる。
俺は敵が殲滅されたことを確認し、そこを離れる。
人目に付かない場所へと走り、再度転移魔法陣を展開した。
その頃西側では、アルクがギルバート軍隊を迎え撃っていた。
さすがに数が多く、火炎魔法一撃で一掃することはできない。
しかしアルクは、連続して何発もの火炎魔法を噴射していた。
それでも燃え盛る炎を掻い潜り、剣を携えた兵士が陸へと上がってくる。
やっと出番が来た護衛隊員達は、敵の歩兵を迎え撃った。
「やっぱり、数が多すぎる……」
アルクはブツブツと呟く。
火炎魔法だけで完全に食い止めることは難しい。
そこでアルクはふと、模擬戦でウィルが使っていた土魔法を思い出す。
「「「うわあああああああっ!!!!」」
急に海岸の砂浜一帯が大きく膨れ上がり、敵兵たちは地上20m近くまで突き上げられる。
しかし次の瞬間には盛り上がった土は消え、兵士達はぐしゃりと地面に崩れ落ちた。
「す、すごい……さすが勇者様………」
護衛隊員は、再び茫然としてアルクを見つめた。
敵軍の大半がアルクにより殲滅され、攻撃を掻い潜った少数の兵士達も、護衛隊員によりあっさり打ち倒される。
もはやバルダン帝国の敗北は確定していた。
するとアルクの耳に、その名が飛び込んで来る。
「おい、攻撃を止めろ!!しょこらがどうなっても良いのか!!」
それはロッセルだった。
たった一人無傷で残ったロッセルは、自らの船から陸へと降り立ち、アルクに対峙している。
戦いには敗れたものの、勇者を連れ帰れば、その功績を父から称えられるに違いない。
ロッセルはそう考えて、何とかアルクと交渉しようとしている。
「我々は敗北を認めよう!しかし勇者よ、お前の大切は従魔は私が捕らえている!!しょこらの命が惜しければ、我々の船に乗るんだ!!」
本当に不憫な男だ。
俺とアルクが念話を使えることは知っているはずなのに、それをすっかり忘れてハッタリをかましているのだ。
「なんだって………?」
アルクが目を見開いてロッセルを見つめる。
まるで何かを呪うかのように目が据わっている。
「だから、我々の船に乗り、バルダン帝国まで共に来るんだ!!」
「違う。その前に、何て言った……?」
「そ、その前………?」
ロッセルは少しきょとんとする。
しかしハッと理解して、またペラペラと話し出す。
「ああ、そうだ!しょこらは私が捕らえている!しょこらの命が惜しければ、船に乗………」
ロッセルはそこで言葉を止める。
アルクがまるで、瞬間移動したかのように目の前に現れたからだ。
その喉元には、剣の切っ先が付きつけられている。
アルクは据わった目を見開き、間近でロッセルを凝視する。
そして再び呪うように、ブツブツと質問した。
「どうして、気安くしょこらって呼んでるの……?」
「え、そ、そこ………?」
ロッセルは変なところにこだわるアルクに唖然とする。
しかし何としても勇者を連れ帰りたい意地から、負けじと言い返す。
「しょ、しょこらは私の仲間になるのだ!しかしお前が我が国に協力しなければ、しょこらも命を落とすことに………」
前半の言葉を聞いて、アルクは迷いなくその剣を、ロッセルの喉に突き刺そうとした。
しかし直前に、俺が背後からアルクの肩を掴む。
「しょ、しょこら!!!!!!」
アルクはくるりと振り返り、ロッセルの存在など完全に忘れ去ったかのように、俺にガバっと抱き付いた。
「大丈夫、しょこら!!!?変な事されてない!?怪我とかは………」
「落ち着け。問題ないと言っただろ」
「よかった………!!僕、しょこらに何かあったらと思うと………」
するとアルクはまたロッセルの存在を思い出し、ロッセルを指差して言った。
「しょこら、僕、こいつにトドメを刺さなきゃ……」
「だから落ち着け。こいつはほぼ無害だ」
「いや、しょこらを仲間にするなんて言ったんだ、それだけで危険な存在だ!!」
やれやれ。
俺は四百年前の世界で、人身売買組織に捕まった時のことを思い出した。
あの時も怒りで我を忘れたアルクは、大量虐殺を仕出かすところだったのだ。
ロッセルはポカンと口を開けて、俺達のやり取りを見つめている。
俺はロッセルに向かって話しかけた。
「おう。悪いが勇者はお前らの国には行かない。その代わりに女王が話があるんだとよ」
「女王………?」
そしてロッセルは、俺の背後から近づいて来る人影に気付く。
アルクもその人物を見て、驚いてポカンと口を開けた。
「こんにちは。アゼリア王国女王、ユリアン・アゼリアです。」
そこにはユリアンと、一歩下がってミーシャが立っていた。




