64.戦力差
アルクは、突然目の前に現れた何十隻もの船を見て、唖然としていた。
ついさっきまで、水平線上には何もなかったのだ。
それが、正午になると同時に船が目の前に現れ、海岸を完全に包囲している。
周囲の隊員達もざわざわと騒いでいる。
「奴ら、一体いつの間に!どうやって姿を隠していたんだ!?」
「目くらましの魔法でもあるのか?それに物凄い数だ……」
「おい、怖気づくな、俺達には勇者様がいるだろ!」
しかしアルクも、内心恐怖に震えていた。
剣を引き抜き、何とか震える手を止めようとしている。
すると、横一列に隊列を組んだ軍艦から、兵士達が次々に姿を現す。
そして全員が手のひらやステッキを、陸地に向けてかざした。おそらく魔術部隊だろう。
「攻撃が、来る………」
アルクは小さく呟いた。
次の瞬間、魔術部隊から、大量の火炎魔法が発射された。
ゴオオオオオオォォォォォ!!!!
それは安々と陸地へと届き、アルクの立っている場所へと向かう。
アルクの背後で、隊員達が息を呑んだ。
しかし先制攻撃は、アルクの築いた結界により弾き飛ばされる。
アルクは、海沿いに巨大な結界を作り上げていたのだ。
四百年前に俺とハジメと三人で、魔物群の侵攻に備えた時のように。
バルダン帝国の魔術部隊は、予期せぬ事態にたじろぐ。
しかし続けて二発目の攻撃を仕掛けてきた。
アルクの築いた結界は、即席で作り上げたものだ。
攻撃を受ける度に脆くなり、おそらくそのうち崩れ落ちるだろう。
しかしその前に、魔術部隊の魔力が底をつくはずだ。
敵はおそらく先制攻撃で壊滅的な被害をもたらす企みだったのだ。
それが一切通用しないことで、戦力を大幅に削がれているはずだ。
「勇者様、さすがです!我々だけでは、最初の攻撃だけで甚大な被害が出ていたでしょう……」
「油断しないで、もう結界はもたない。次の攻撃が来る!」
アルクが言うと、次の瞬間、結界は大きな音を立て崩れ落ちる。
それとほぼ同時に、敵艦隊からは剣や槍を携えた兵士が次々と現れ、船から飛び降りる。
兵士達は浅瀬を走って突進してくる。
全員がウオオオォォォと大きな雄叫びを上げていた。
アルクは誰にも聞こえない程の、小さな声で呟く。
「しょこらに何かあったら、絶対に許さない」
そしてアルクは両手をかざす。
次の瞬間、先程の魔術部隊総員での攻撃を遥かに上回る、火炎魔法が発射される。
ゴオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!
炎は敵兵全体を一瞬で包み込む。
それは本当に一瞬だった。船の外にいた兵士達は全員、その場に倒れて動かなくなる。
誰一人として、陸地に足を踏み入れる事すらできなかった。
船上に残っていた魔術部隊は、その光景を見て恐怖する。
「ゆ、勇者の力を、甘く見ていた………」
「一万どころじゃない、数万の兵を相手にできるんじゃないか……」
「だめだ、撤退しなくては……」
ファウンデン領の護衛隊も、ただ唖然としてアルクを見つめていた。
同じころ、大陸南側から侵攻してきた敵兵も、ユリアンの命令で派遣された騎士団により討ち返されていた。
そちらは勇者不在なので、西側ほど簡単に方は付いていない。
しかし騎士団長の指揮の下、戦局は有利に運んでいた。
戦いが始まる前、ウィルがアルクに向かって説明していた。
『アゼリア大陸には、他国に比べて魔力を持つ者が格段に多い。それに魔力の量や質だって全然違う。たぶんそれは、この国に魔王が存在することが関係している。魔王に対抗するため自然と人間が進化したのか、神がわざとこの国の人間に魔力を多く配分したのかは分からねえが、とにかく他国からすると脅威なんだ。
だからこそバルダン帝国は、周辺諸国を統合して兵力を極限まで高めて侵攻して来るはずだ。それにおそらく勇者を自分の国に引き入れようとする。けどたぶん、勝負にならねえよ。侵攻の失敗は目に見えている。……だからと言って、油断は禁物だぞ!』
そしてウィルの予言通りに、事は運んでいた。
しかし、敵兵をほぼ一掃し、勝利を確信した時、騎士団長は怪しい気配を感じ取る。
そして海上から、さらなる伏兵が押し寄せる波を見たのだった。
俺はその頃、ギルバートの船に乗り移っていた。
そして奴の胸糞悪い笑顔に向かって問いかける。
「さっき話していたお前の軍隊ってのは、全員この船で待機してるのか」
するとギルバートは、俺を見てまたフッと笑った。
「そんな事を知ってどうする気だ。所詮何もできまい。まあいい、教えてやろう。伏兵は既に、先陣部隊の背後に船を近づけている。我々は魔術により船の姿を隠すことができるのだ。陸地の奴らは、急に船が現れたんで大騒ぎしているだろう。
魔術において我々はアゼリア国の人間には敵わないが、それでも日々進化している。少ない魔力量でも使用できる隠蔽魔法や拘束魔法、魔力探知などの技術はアゼリア国を凌ぐだろう」
『おい、まだ伏兵がいるぞ。気を付けろよ』
俺はとりあえず、アルクに念話を送る。
するとギルバートは、俺の様子を見て再び微笑んだ。
「お前、今念話を使っただろう。念話によって生じる微量の魔力さえ、我々の魔道具で探知できる。大方、勇者に伏兵のことを伝えたのだろうが、無駄だ。兄上率いる倍以上の兵が、守りの弱い南側へと向かっている。西側の目的は領土への侵略ではない。第一目的は、勇者を手に入れることなのだ」
「そうか。情報感謝するぞ」
バキイイイイイイィィィィィィィィ!!!!
俺は次の瞬間、ギルバートの頬に思いっきり猫キック(人間の足だが)を食らわせた。
ほくそ笑んだギルバートは吹っ飛び、ビターーーンと甲板に投げ出される。
よく見たら歯と血が飛び散り、本人は完全に白目をむいて気絶していた。
俺はフンとギルバートを見下ろしながら言う。
「悪いな。お前のことは気に食わないので手加減しなかった」
俺がふと気配に気づき振り返ると、ロッセルが自分の船の甲板から、俺の姿を見つめている。
目を輝かせ、満面の笑みで俺に向かって両手を振っていた。
どうやらギルバートがぶっ倒されたのが嬉しいようだ。
俺は船内を駆け回ってみたが、そこには他に人影はなかった。
海上を見ると、先行したロッセルの軍隊は壊滅し、ギルバートが率いる(はずだった)第二部隊が姿を現している。
俺は再びアルクに念話を繋いだ。
『おい。ここは任せていいか。俺は南側に行く』
『うん。しょこら、奴らに何もされてない?』
『当たり前だ』
そして俺は、誰にも見られていない事を確認し、転移魔法を展開する。
地図で確認した通りに座標を合わせ、南海岸へと転移した。




