表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/114

63.戦の始まり

その頃アルクは、水平線をじっと見つめていた。



後方ではファウンデン領の護衛隊が列をなして控えている。

海からほど近いその町に敵兵を侵入させないよう、何としても水際で食い止めるつもりだ。



『ウィル、これで、いいんだよね……』


アルクは念話でウィルに問いかける。


『ああ、きっと大丈夫だ。おいアルク、お前は強いが、くれぐれも気を付けろよ』

『うん。ありがとう』




俺が転送した書類を見た時、アルクとウィルは話し合っていた。

そこには計画の全貌が描かれ、バルダン帝国軍はアゼリア大陸北西部から攻め込んでくるとある。


しかしウィルは地図を広げ、その計画に違和感を持つ。



『正直、北西部から攻め込む利点が何もねえ。奴らは最短で王都を攻め落としたいはずだ。それならファウンデン領から攻め込むのが一番合理的だ。それに地形的にも、ファウンデン領東側から南までは山岳地帯が広がっている。西と南から侵攻して挟み撃ちにするのが一番手っ取り早い。奴らがそれに気づかないはずもない』


『じゃあこの計画書は、やっぱり偽物ってこと……?』


アルクが尋ねると、ウィルは頷く。

最も、念話での会話なので、実際頷いた姿が見える訳ではない。


『たぶんそうだろ。おそらく従魔であるしょこらが偵察に来ると踏んで、偽の情報を与えようとしたんだ。しかし何て言うか、罠にしちゃ単純なんだよな……。これを計画した奴は、あまり頭が切れる奴だとは思えない。あるいはそう思わせて、さらに裏をかかれるなんてこともあるかも知れねえけど……』



しかし、ユリアンもミーシャもウィルと同意見だった。


ミーシャはウィルの深読みをバッサリ切り捨てる。


『さらに裏をかく等ということはないでしょう。偽の計画書からは頭の悪さが滲み出ています。まだユリアン様の方が可愛らしいですよ』


『ちょっとミーシャ、あなたまた私を馬鹿って……』


『馬鹿とはいっていません、可愛らしいと言ったのです』



アルクは二人のやり取りを聞いて、小さく微笑んだ。



『だけど、具体的にいつ侵攻が始まるのかは、分からな……』

『おい。今日の正午に作戦開始だとよ。兵の数は一万だ』


アルクの念話に、俺が突然入り込む。


一瞬アルクは、何が起きたのか分からなった。


『ええっ、しょこら!?ぶ、無事なの!?今どこに……』



しかし俺は既に念話を切っていた。




俺はその頃、まだ船の中だ。

そしてロッセルに付き纏われていた。



「おいしょこら、お前は素晴らしい!私はずっと、あの臣下たちを叩きのめしてやりたかったのだ。私に従うフリをして、陰では私を見下しているから……」


「ああもう、うるせえな!お前一体誰の味方なんだ!そんなんじゃ計画はうまくいかねえぞ!!」


俺はイライラしながらロッセルに言い放つ。

もはや殴り飛ばして気絶でもさせなければ、こいつを()くことはできそうにない。



ロッセルは俺の腕にがしっとしがみ付いている。

俺はそんなロッセルを、ほとんど引きずりながら歩いていた。


「とにかくぶっ飛ばされたくなかったら放せ!」


「いやだね!私は決めたんだ、しょこらはこれから私の仲間になるのだ!しょこらがいればもう馬鹿にされることはない、それにどんな国だって支配下に置ける!これから二人で周囲をぎゃふんと言わせてや……………アイタッ!!」



俺はパーーーーーーーーンと、その顔に猫パンチ(人間の手だが)を食らわせる。


そしてゴゴゴゴゴゴと威圧感を纏いロッセルを見下ろした。



「なぜ俺がお前ごときの仲間にならなけりゃいけないんだ。逆だ。俺と手を組みたいならお前が俺の下に就くんだ。そしてアゼリア国への侵攻は諦めるんだ」



俺が言い放つと、ロッセルはまだ腕にしがみ付きながら答える。



「だめだ、侵攻はもはや止められない!だからしょこらが諦めて、バルダン帝国に来てくれ!いずれにせよそうなる運命なんだ、父上は勇者をバルダン帝国に引き入れたいんだ!だからしょこらを人質にして、勇者を手に入れる計画だったんだ。だけど俺は、勇者は父上に差し出すが、しょこらは渡さない!!」



まったく、どいつもこいつも、王族というのは本当に変人しかいないのか。



しかし次の瞬間、急に船に衝撃が走る。

巨大な何かに衝突したように、船全体が大きく揺れた。



「うわっ!な、何だ………?」


ロッセルは俺の腕を掴みながら、キョロキョロと見回す。


俺は腕を振り払い、船の甲板へと向かって走った。


「ああっ、しょこら、待ってくれ!!」



俺が走る後ろを、ロッセルが慌てて付いて来た。



甲板に出てみると、太陽は既に空の真上近くまで上っている。

あと少しで正午だ。バルダン帝国の軍隊が、アゼリア国への攻撃を開始する頃だ。



そして俺の目に、ひときわ巨大な船の姿が飛び込んでくる。


どうやら先ほどの衝撃と揺れは、この船が衝突してきたことが原因らしい。



俺に続いて甲板に上がったロッセルが、巨大な船を見て目を見開く。



「な、なぜ、ここに………」



するとその船から、一人の男が飛び移ってくる。

ロッセルと同じく二十台前半ぐらいの、茶色い髪の若い男だった。



目の前に降り立った男に向かって、ロッセルが話しかける。



「………ギルバート。どうして、ここにいる。この計画を父上から任されたのは私だ」



ギルバートと呼ばれた男は、ロッセルと同じ王族の衣装を身に纏っている。

おそらくロッセルの言っていた、優秀な従兄弟の一人だろう。



男はロッセルを見て、俺に視線を移す。

その目に興味深げな色を浮かべながら、ギルバートは口を開いた。



「お前一人に任せられる訳がないだろう。父上は私とデルバート兄上を応援に寄越したのだ。事実、現状を見るがいい。お前の偽の計画はとっくに見抜かれている。兵力を分けて挟み撃ちにすることすら読まれていた」



ギルバートはそう言って、大陸の方を指差す。

俺達が乗っている船はいつの間にか、陸地のすぐ傍まで侵入していたのだ。


俺とロッセルが目を向けると、ファウンデン領海岸には護衛隊が防壁を築き、がっちりと防衛線を張っている。


この距離からでも分かる。その先頭には、アルクが一人で立っている。



そして海上には、一体どこから現れたのか、何十隻もの船が並び、海岸を包囲していた。



ギルバートは再び口を開く。



「お前が用意した一万の兵など、ただの(おとり)に過ぎない。奴らが勝利を確信し、気を緩めたところに、我が軍と兄上率いる軍がそれぞれ、攻撃を開始する。延べ三万の兵士達が既に配置に付いている」



「そ、そんな………。父上はやはり、私のことなど、信用していなかったのか……」



ロッセルはがくりと膝をつく。


そんなロッセルを微笑を湛えて見下ろしながら、ギルバートは俺に向かって言った。



「さあ、私の船に来てもらおう。そいつから聞いたと思うが、お前は勇者をおびき寄せる人質だ。いや、正しくは猫質か。」



ギルバートはそう言ってほくそ笑む。



俺はハアっと大きくため息をついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ