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60.船内へ

俺は甲板に降り立った後、ぐるりと周囲を見回した。



しかし見渡す限り人影はない。ただ海風が通り過ぎていくだけだ。


俺は船の中へと降りる階段へと向かう。

階段を下り、ジャンプして前足で扉を開けると、簡単に船倉に侵入することができた。



『ねえしょこら、大丈夫?』

『ああ』


アルクが不安げに念話で問いかけてくる。

俺は簡単に返事をした。



倉庫のような場所を抜けて廊下へと出る。

廊下には両側に部屋の扉が均等に並んでいた。


しかしそこにも人の姿は見当たらない。大きな船だというのに、船員はほとんどいないのだろうか。



しばらく歩き回っていると、やっと最初の人影が目に入る。

俺が歩いていると、いくつもある部屋の扉の一つから突然出てきたのだ。


各部屋の扉は廊下の壁から少しくぼんだ形で並んでいるので、俺はその陰へさっと身を隠した。



しかしその人物は、俺が来た方向とは逆方向へと向かって歩き出す。

俺は音を立てず背後から付いて行った。



それは男だった。

銀色の髪を揺らしながら、足早にどこかへ向かっている。



やがて男は船員が集まる会議室のような一室へと入って行った。

そこでやっと、他数人の船員達の姿も確認できた。


俺は男の後からサッと部屋に入り込み、中央に据えられた大きな木の机の下へと身を隠す。



頭上から、銀髪の男と思われる声が響いて来る。


「どうだ。今日の様子は」

「はい。かなりの高度を保ってはいるようですが、明らかにドラコンと思われる影が旋回しています。おそらく勇者か、そうでなくてもS級冒険者でしょう」

「よし。あと5分でここを離れるぞ」



どうやら俺達が偵察に来ていることは既にバレているようだ。

しかし攻撃もしてこない上に、またこのまま引き返すつもりらしい。



数人いた船員達はその部屋を離れる。

銀髪の男も元来た方向へと引き返していった。


誰もいなくなった会議室の中を、俺は歩き回ってみる。

ジャンプして机に乗ると、そこには書類が雑多に散らばっていた。



俺はそのうちの数枚にざっと目を通す。

そして転移魔法陣を展開し、俺達の宿屋の部屋に座標を指定し、その数枚の紙を転移させた。

質量の軽いものなら、自分が一緒に転移しなくともその物だけを転移させられるのだ。



俺は引き続き、船内をうろうろと歩き回る。


しかし、船長室と思われる部屋は空っぽで、先程の数人の船員以外には、誰も見つけることができなかった。



とりあえず今日のところはこれで良いだろう。

俺が転移させたあの紙に、おそらく必要な情報はほぼ書かれている。



俺が元来た廊下を戻り始めると、しかし、扉の一つが突然開く。


そして中から、あの銀髪男が姿を現した。





その頃アルクは、コクヨウに向かって話しかけている。


「ねえコクヨウ、しょこらは大丈夫かな。あまり念話で話しかけると、偵察に集中できないかな……」

「まあ大丈夫じゃろ。気長に待てい」

「コクヨウってさ、本当におじいさんみたいだよね……」



しかしアルクはだんだん不安になる。

30分以上経っても、俺が船の甲板に現れず、念話での報告もないからだ。


アルクが念話で問いかけようか迷っていると、その時、俺がアルクとコクヨウに念話を繋いだ。


『おい。お前らは先に帰ってろ。とりあえず宿にある紙を確認しろ』



俺はそれだけ言って、念話を切った。



『ええっ!?ちょっと、しょこら!?一体何が……』


アルクが驚いて尋ねるも、俺からの応答はない。


『しょこら?しょこら?ねえ、大丈夫?』



しかし俺はその頃、部屋の中にじっと座り込んでいた。

アルクの問いかけは俺の耳には届いていない。



「しょこらが帰れと言ったんだ。一旦帰った方が良いじゃろう」


コクヨウは従順に俺の言うことを聞き、陸地へと引き返し始める。


「ええっ、ちょっと待ってよ、コクヨウ!しょこらに何かあったなら、僕も船の中に……」

「帰れと言われたじゃろう。それなら帰るんじゃ」



反論するアルクを余所に、コクヨウは速度を上げて飛び続ける。


アルクが振り返って船のほうを見ると、船は既に姿を消していた。





俺はその頃、部屋の中にじっと座り込んでいた。

まったく、また黒曜石のお出ましなのだ。


しかし今回は、黒曜石の入った腕輪を取り付けられた訳ではない。


俺は猫の姿のまま、壁や天井が黒曜石で覆われた部屋へと放り込まれたのだった。




銀髪男が扉を開けたのは、まさに俺が部屋の前を通り過ぎようとした時だ。

まるで狙っていたかのように男は現れ、俺の姿をじっと見つめる。



男は俺を見ても、驚いた様子を一切見せなかった。



俺はその一瞬で考える。


おそらくこいつらは、勇者の従魔が黒猫であるという情報(実際は逆だが)を、すでに掴んでいた。

そして勇者が従魔を利用して船内を探るであろうことを、予想していたのだ。



そして、わざとらしく机上にバラまかれた書類。

もしかしたら、俺にわざと偽の情報を掴ませる目的だった可能性がある。



男は次の瞬間には、俺の姿を抱え上げていた。

そしてたった今開けた扉の中に、俺を放り込んだのだ。


男は俺を放り込む直前、耳元で小さく囁く。


「他国の艦船への不法侵入は大罪だ。逃亡すると状況は悪化する」



俺はため息をつく。

王宮の時といい、また不法侵入か。これだから国が絡むと面倒なのだ。



俺は部屋の中をちらりと見て、壁や天井が黒曜石に覆われていることを確認する。

そして扉が完全に閉じられる前に、アルクとコクヨウに念話を送ったのだ。



今頃アルクが喚いてそうだが、仕方ない。



俺はとりあえず捕まっておき、もう少し探りを入れてみることにした。


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