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59.偵察

「いやだ……本当にいやだ……想像以上に厄介な頼み事だ………」



その夜、アルクは宿屋で頭を抱えていた。


「まだお見合いの話の方がマシだったよ……それなら断れば済んだのに……」


アルクはベッドに座り込み、ブツブツと繰り返す。


「しょこら、どうしよう……」



ナタリーの頼みというのは、主に二つだ。

バルダン帝国軍艦を偵察する事と、有事の際に護衛隊に協力することだ。


この世界では空を飛ぶ手段がないので、ドラゴンで空から敵を観察できる俺達は、まさにうってつけなのだろう。


しかし有事の際に協力するというのはつまり、戦になれば共に戦うということだ。



ナタリーは、アルクにすぐの返事を要求しなかった。

ただ考えてほしいとだけ伝え、その後夕食に俺達を招いた。しかしアルクは夕食は断り、すぐに宿へと戻ったのだ。



「僕、戦争なんて絶対嫌だよ。もし人間相手に戦うことになったら……」


アルクはまだ頭を抱えて、ブツブツ呟いている。



俺はハアっとため息をついた。


「ろくでもない話だが、どのみち侵攻が起きたら協力せざるを得ないだろ。それなら最初から、敵の情報を知っておくに越したことはない」



俺がそう言うと、アルクは顔を上げた。


「うん、まあ、確かにそうだね……」



そう、俺もアルクもお人好しなのだ。何かあれば嫌でも協力することになる。

結局俺達には、断るという選択肢はなかった。





翌日、俺達はウィルと共に、ジークの部屋を訪れていた。



俺達がファウンデン領主の話をすると、ウィルは何度か頷いた。


「ああ、そりゃ、勇者に助けを求めて来るだろうな……。なんたって勇者一人で、一万の兵に匹敵するなんて言われてんだ。まあちょっと大げさかも知れねえけどさ。で、やっぱり引き受けるのか?」


「うん……。だけどウィル……本当に戦争が起きたらどうしよう………」



アルクが不安げに言うと、ジークがアルクをじっと見つめて言った。


「おそらく、そうすぐには侵攻して来ないだろう。バルダン帝国も、勇者の存在は知っているはずだ。……ファウンデン領主がお前を偵察に向かわせるのは、わざと勇者の存在を見せつけて、牽制する目的もあるのかも知れない」


ジークは相変わらず、ゆっくりとした話し方をする。



「牽制……僕にそんなことできるかな……」

「フン、何なら頭上から雷でも一発ブチ込んでやりゃあいいだろ」


俺がそう言うと、ウィルは笑った。ジークも静かに笑みを浮かべている。



「そうだぞ、お前にはしょこらがいるんだから、あんま気を張るなよ!何かあったら俺も協力するからさ!……って、何ができるか分かんねえけどさ……」


「うん。ありがとう、ウィル………」



そして俺達は次の日に、早速偵察に向かう事となった。




翌日、俺達はコクヨウに乗り、海上を真っ直ぐに飛んでいた。

船から発見されないよう、なるべく高度を上げて進む。


「領主さん、僕達が協力するって言ったら、すごく喜んでたね……」


アルクは水平線を眺めながら言った。


「でも、ただ空から船を眺めるだけで、有益な情報が得られるかな……」

「いざとなったら俺が潜入すればいい。猫だから万が一見つかっても怪しまれないだろ」

「ええっ、でも、危険じゃないかな……」



飛び続けるにつれ、陸地はどんどん遠ざかる。

そして俺達は、ある程度の見当を付けて海上をぐるぐると旋回した。


「船の姿はまだ見えないね……しばらく探したら出てくるかな……」



するとしばらくして、俺達の前に一隻の船が姿を現した。



俺もアルクも、その船が近づいて来る事にすら気づかなかった。

奇妙なことにその船は、急に霧が晴れたかのように、目の前に現れたのだ。



「なんだか妙だな。あれがバルダン帝国の船か」


俺が見下ろしながら言うと、アルクも頷く。


「うん。いつの間に来ていたんだろう……。でも、旗が見えるから、間違いないよ」



遠くからでも、バルダン帝国の国旗は確認できた。

黒地に金色の大陸が描かれ、さらにその上で金色の剣と杖が交差している。


それは木造の、帆が3つ付いた巨大な船だった。



船はしばらく海上を行き来していた。


ここからアゼリア大陸はかなりの距離がある。

奴らは一体ここで、何を調査しているというんだ。



「すごく大きな船だね。この世界には大砲がなくて良かったよ……」

「大砲ってのは前に言ってた武器か」

「うん。この世界には魔法があるから、そういう武器はいらないんだと思うけど……」



この世界にはアルクの前世にあったという、大砲や銃などの武器は存在しない。

そのため遠距離からの攻撃は弓などの飛び道具か、魔法攻撃に頼ることになる。


俺たちがしばらく観察していると、そのうち船の姿は消えた。

現れた時と同じように、突然霧に包まれるようにその姿は見えなくなった。




「結局、あまり何も分からなかったね。船の上に人が出てくる訳でもなかったし……」


夕食を終えて宿へと戻りながら、アルクが言った。


「ただ姿を現して、何もせず消えちゃった。船の中から、外を観察してたのかな……」

「さあな。やはり明日は俺が中に侵入してみるか」


俺がそう言っても、アルクは返事をしなかった。





翌日俺達は、再び海上を飛んでいた。


すると昨日と同じように、その巨大は船はどこからともなく現れる。



「おい。ここから見下ろしていても埒が明かない。俺は中に偵察に行くぞ」


しかしアルクは、やはり返事をしない。


「おい、聞いてるのか」



するとアルクは急に俺を抱え上げ、ぎゅっと抱きしめた。


「おい、何やってるんだ……」


俺が呆れて言うと、アルクは不安そうにつぶやく。



「だって外国の船だよ、中にどんな危険があるか分からないでしょ。しょこら一人で行ってほしくないよ。もし捕まったりしたら……」


「お前、俺が捕まると思ってるのか」


「そりゃあ、しょこらは強いけどさ。ねえ、やっぱり僕も一緒に……」


「それこそすぐ捕まるだろ。いいから離せ、捕まっても転移魔法で脱出すりゃいいんだ」


「でも、また魔法が使えないような状況になったら……」


「つべこべ言ってないで、とりあえず離せ!」



俺はアルクの振りほどくため、猫耳忍者に変身する。

そしてコクヨウの上で立ち上がり、船めがけて飛び降りようとした。


「ちょっと、しょこら!!」



アルクは俺の腕をがしっと掴み、引き留める。


「お願い、無事に戻ってきてね。約束だよ」

「ああ。じゃあ行ってくるぞ」



俺は一瞬で猫の姿に戻り、船めがけて大きくジャンプした。

かなりの高度からの落下だったが、俺は難なく船の甲板にヒラリと着地する。




アルクは俺が降り立つのを、上空から不安げに眺めていた。


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