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56.宿での夜

「女王様って、もっと頭の良さそうな人だと思ってました」



部屋に入ってからも、リーンはずけずけと言う。


「だって、この国初の女の国王って、みんな騒いでました。よっぽどすごい人なのかと思ったんですけど……」

「ちょっと、あなたさっきから聞いていたら、本当に失礼じゃないかしら!?」



そこは畳の部屋だった。

人数が多くベッドでは収まり切らないので、畳の大部屋が充てがわれたのだ。


俺達は畳の上に布団を敷いて眠る事となる。



「あの、女王様だったら、この町の護衛隊にもっと補助金を出してもらえませんか?軍事支援金?っていうんですか?護衛隊の人達が皆、言ってますよ。国王がケチだから補助金をどんどん削ってきたって。この町は魔王領に近いですし、二百年に一度の魔王復活に備えて、常に兵力を鍛えないといけないんですから……」


リーンが物申すと、ユリアンも言い返す。


「ケチとは失礼ね、お父様は決してそんな偏屈な人ではないわ!シロヤマ領には十分な資金を供給してきたはずよ、魔王領に最も近いことはもちろん考慮されています!資金繰りが上手くできないのは領主側の問題ではないかしら」


「女王様、魔物の侵攻を見たことありますか?魔王が復活する前に魔物がたくさん押し寄せるんです、それを勇者と一緒に食い止めたのはシロヤマ領の護衛隊です。もちろん他の領地から応援も来てましたけど、一番尽力したのはここです、それで武器や装備もほとんど壊れてしまいました。その損害を補填するだけですごくお金がかかるんです」



リーンはまだ10歳なので、正式な護衛隊員ではない。

しかし自主的に兵舎で訓練し、仕事の手伝いをするうちに、ずいぶんたくましくなったようだ。



「おいお前ら。その辺にしてもう寝ろよ」



俺は横になり、肘枕をしながらリーンとユリアンに向かって言った。

人間の姿でなければ会話できないので、猫には戻っていないのだ。



二人は同時にこちらに目を向ける。

すると突然、ユリアンが話題を変えた。


「あの、しょこら様、一つお聞きしたいことが……」

「却下だ」

「ええっ!まだ質問すら言っていませんが……」



やれやれ。


女子達だけで話す機会はそうそうない。

おそらくこの機会を利用して、質問沙汰にされるだろうと思っていたのだ。


すると、ずっと大人しかったソフィアが、突然口を開く。



「あの……。しょこらさんは……。お兄ちゃんのこと、すき?」


ソフィアは以前、ダンジョンで俺に問いかけた質問を繰り返した。

しかし次の瞬間、ビクっと体を震わせる。



「お前な……。しょうもないことを聞くなと言っただろ」


俺がゴゴゴゴゴと冷たい視線を向けるも、しかし、ユリアンがまた口を出す。



「で、ですがしょこら様、それは私も聞きたいです!ほら、しょこら様もアルク様を想っていらっしゃるなら、私の出る幕などもうありませんし……」


「え?そうじゃなくても出る幕なんてなくないですか?」


「ちょっとあなたはお黙りなさい!!」


リーンはどこか、ユリアンの発言に突っ込むことが楽しくなっているようだ。

しかもソフィアはリーンと気が合うようで、リーンの言葉にこくこくと頷いている。



「それではしょこら様!私にはもう一つ、ずっとお願いしたいことがあったのです!アルク様には関係ないことですわ!!」


ユリアンが興奮して再び俺を見る。



「以前、ウィルがしょこら様のお耳を触っていましたね。わ、私も……」

「却下だ」

「ええっ、私ずっと我慢していたのですが……」



すると今度は、リーンもソフィアもユリアンに反論しない。

むしろ二人とも、俺に視線を向けた。



「……おい、お前ら……馬鹿な事は考えるなよ……」



俺はジトっと3人を見返す。



「それは私も触りたいです。お願いします」

「わたしも………!!」


リーンとソフィアが口々に言う。



そして女子3人は、じりじり俺に近づいて来た。






その頃、アルクとウィルも部屋で喚いていた。

そこは二人部屋なので、布団ではなく大きなベッドが一つ据えてある。


「もう、なんでウィルと二人で寝ないといけないんだよ……しかも同じベッドで……」

「それはこっちのせりふだ!お前、俺のこと襲うんじゃねえぞ」

「それこそこっちのせりふだよ!!」



しかしベッドに横になり、気分が落ち着いてくると、二人は普通に話し始める。


「ねえ、ウィル」

「なんだよ?」

「あのさ、ありがとう。その、僕の、友達になってくれて……」


ウィルはガバっと上体を起こし、アルクを指差して言う。


「おいお前、だから人をたぶらかすなって言ってんだろ!」

「たぶらかすって何だよ!僕はただ思ったことを言っただけで……」

「だからそれだよ!……ったく、でも何で、急にそんなこと言うんだよ」



アルクはしばし黙って、口を開く。


「僕の前世の話、前にしたよね。僕、前世でも今世でも、友達っていなかったんだ。……もちろんしょこらがいるけど、しょこらは家族だ。他にも、本当のお兄さんみたいな人もいた。でもその人は今はもういなくて……」


アルクは少し言葉を詰まらせる。


「それで、ウィルが初めてなんだよ。友達として心を開けられたのは。だから、ありがとう」

「お、おお……」


ウィルは再び体を横たえ、天井を見ながら言った。


「俺もだよ。研究を認めてくれた友達は初めてだ。お前のことは親友だと思ってるぜ」


ウィルの言葉に、アルクは暗闇の中で微笑む。



「研究といえばさ、聞きたいことがあったんだ。アルクがしょこらに対して、恋愛感情を抱いたのはいつからだ?」

「ええっ!!?」


今度はアルクがガバっと上体を起こす。


「な、なんで恋愛感情があるって、知って……」

「いや、逆になんでバレてないと思ったんだよ……」



アルクは顔を赤くして、再び横たわる。



「……いつからだろう。しょこらの事は、生まれた時からずっと好きだった。もちろん、最初は家族としてだった。だけど……」


アルクは自分の気持ちに想いを馳せる。


「……たぶん、初めて忍者の姿を見た時……。僕はすぐ気を失ったから、あまり覚えてないんだけど。あの時から、変わっていった気がする……」



ウィルはなるほどという様子で頷いた。


「やっぱそうだよな。最初はただの家族愛だったんだ。それが、自分と同じ種族になることで()()()()対象になる。お前にとってもそうだし、しょこらにとってもだ」


「え?しょこらにとっても……?」



アルクは暗闇の中で、ウィルに目を向ける。



「ああ。たぶんしょこらも、人間の姿になる時間が長くなればなるほど、お前を受け入れる感情が生まれたんだと思うぜ」


「でも、しょこらは僕のことを、そんな風には……」



するとウィルはニッと笑った。


「まあ、しょこらは絶対言わねえだろうから、俺が代わりに言っといてやるよ。しょこらもお前のことが好きだと思うぜ、()()()()意味でな」


アルクは茫然として、ウィルを見つめる。



隣でウィルが静かな寝息を立てだしてからも、アルクはしばらく眠れなかった。


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