55.宿での戦い
「どうですかアルク様、似合うでしょうか……」
温泉に入った後、ユリアンが浴衣姿を披露する。
体が温まったからなのか、浴衣が照れ臭いのか、顔を赤くしてアルクに問いかけた。
「あ、ああ、うん……」
アルクは困ったように曖昧な返事をした。
リーンとソフィアも、同じく浴衣姿で現れる。
リーンは慣れているようだが、ソフィアは恥ずかしそうにもじもじしていた。
アルクとウィルも浴衣を着て、既に休憩所で寛いでいた。
「おいアルク、この黄色い飲み物、すげーうまいぜ!飲んだことあるか?」
「うん、知ってるよ、フルーツ牛乳でしょ……ってウィル、それは僕の分だよ!」
「まあまあ、もう一本買えばいいじゃんか!」
浴衣姿の女子達を前にしても、男二人は飲み物に夢中だ。
「へえ、そんなに美味しいのですか。私もミーシャに買っていこうかしら……」
ユリアンが笑いながら、アルクとウィルの間にずいっと入り込む。
ミーシャは風呂嫌いなようで、一人で部屋へと戻っているのだ。
「ちょ、いてーなユリアン、なんでここに入ってくんだよ……」
皆がわいわいしているところへ、俺が遅れて到着する。
ちなみに俺はものすごく不機嫌だ。
温泉に入る前、アルクとウィルに懇願されたのだ。
「ねえしょこら、お願い!一度でいいから浴衣着てみて、一生のお願い!!」
「なんでだよ、あんなもん着て何の意味があるんだ!」
「なあ、俺からも頼むよ、しょこら!たまには違う格好も見てえ……」
「ちょっとウィル、いやらしい目でしょこらを見ないでよ!」
「いや、見てねーだろ!それを言うならお前だって……」
「ああもう、うるせーな!!」
俺がそれを着ると言わないと、二人は喚き続けた。
そして温泉から上がり、結局俺は浴衣姿で皆の前に現れたのだ。
俺が尻尾をブンブン振りながら現れると、アルクとウィルはピタリと動きを止める。
そしてポカンと口を開け、しばらく俺の姿を見つめた。
二人の手から、手にしていたフルーツ牛乳の瓶が床に落ちる。
「しょ、しょこら………」
「お前………」
「なんだ。文句あるか」
俺がフンと鼻を鳴らすと、次の瞬間、二人が目の前にやって来る。
アルクに至っては、俺にガバっと抱き付いた。
「すごいよ、しょこら、すごく可愛い!!」
「す、すげえ、新鮮だ……。浴衣姿の猫耳……」
ウィルは俺の姿を上から下まで見つめた。
「ちょっとウィル、だからそんな目で見ないでって……」
「なんでだよ!てかお前こそ、人前で堂々と抱き着いてんじゃねえ!」
「おいお前ら、いい加減に……」
しかし残りの女子3人も、俺の姿をじっと見つめている。
ユリアンが唇を噛みしめながら言った。
「……そうですね、私、しょこら様には敵いません……」
「え?今更気づいたんですか?」
リーンがそう言うと、ユリアンはぎょっとしてリーンに言い返す。
「ちょっとあなた、女王に対して失礼じゃないかしら!?」
リーンはまるでミーシャのように、ずけずけとユリアンに物を言った。
しかしそれが逆に、ユリアンの心を開いているように見える。
「私、しょこらのあの姿、今日初めて見ました。普通は一目見たら、敵いっこないって気づきませんか?」
リーンが飄々と言う。
そう、リーンの前で変身するのは、今日が初めてだったのだ。
テイムもしていないので、俺とリーンが会話するのすら初めてだ。
「ちょ、ちょっとあなた、本当に不敬罪にしちゃうわよ……」
「え?それって権力の乱用じゃないですか?」
15歳のユリアンに、10歳のリーンは容赦ない。
ソフィアはアルクをじっと見つめていたが、ユリアンのように自己主張はしなかった。
俺達は全員で、大広間で夕食を取る。
もちろん全員刺身を注文した。
「おいしい……」
初めて食べるソフィアが、目を輝かせて言う。
「ミーシャ、これ、王都でも作れないかしら……」
「難しいですね。王都は海から離れていますし、新鮮な魚をそのまま運ぶ方法を考える必要があります。最も、川魚を使えばある程度は可能かも知れませんが」
「そうか、俺が魔法陣を応用して、数日間は持続する氷魔法を作り出せたら……」
アルクは皆のやり取りを見ながら、ふっと微笑む。
そして俺に念話で話しかけた。
『みんな集合できて良かったね、しょこら。ハルトさんもいたら、もっと良かったんだけど……』
『まあな』
部屋割りを決めるのには一悶着あった。
ミーシャは一人部屋に滞在すると主張した。
そして残りの者達に、好きに部屋割りを決めるよう言ったのだ。
そこから戦いは始まった。
「わ、私はアルク様と同じ部屋がいいです!ソフィアだってそうでしょう!?」
ユリアンの主張に、ソフィアが珍しく同調する。
「うん。おなじへやがいい……」
「年ごろの男女が同じ部屋で一緒に寝るんですか?普通は男女別じゃないですか?」
最も合理的な意見を言うリーンに、ウィルが横から口を出す。
「なあ、俺もしょこらと同じがいいんだが……。………だってさ、浴衣姿を拝めるのなんてもう一生ないかも知れないんだぞ!」
「ちょっとウィル!しょこらは僕と同じ部屋だよ、変態の君と一緒なんて絶対に……」
「誰が変態だよ!!」
「うるせえな、なら俺も一人部屋に泊まるぞ!」
俺がそう言うと、アルクとウィルは全否定する。
「「それはだめだ!!」」
ミーシャは俺達のやり取りを、面白がって見つめている。
こいつ、こうなる事が分かってて、わざと身を引いたようだ。
しかし結局、部屋は男女で分かれる事となった。
そうすることでしか収拾が付かなかったのだ。
「ああもう、なんでウィルと二人なんだよ……。……ウィル、変な事しないでよ」
「お前なあ、本気で俺を何だと思ってんだよ!」
アルクとウィルは文句を言いつつ部屋に消えた。
ユリアンとソフィアも、すごすごと隣の部屋へと入る。リーンもその後へと続いた。
俺はハアッとため息をつき、最後に部屋へと入って行った。




