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50.迷宮を去る

俺達はアルクが回復するまでの数時間、男の部屋に留まった。



主にウィルが、ずっと男と話し続けていた。

俺達には理解できない専門的な話ばかりだ。


「ここの魔力粒子の波長を小さくした上で、互いに分離しているのをもう少し連続的に分布させれば抵抗なく魔力を次の回路へと流し込めるから………それでこっちの回路を線形回路に変えてから……一定の速度を保つためには微振動から起きる抵抗を……」



やれやれ。聞いているだけで頭が痛くなりそうだ。



途中俺は、気になったことをジークに問いかける。


「おい。ウィルが今後もお前に会いに来て、研究を続けても大丈夫なのか。お前は人間の神やこの世の摂理やらについても知ってるんだろう」



ウィルがはたとペンを動かす手を止め、俺を見る。

そしてジークに目を向けた。



ジークはしばらく黙っていたが、やがて考えながら静かに口を開く。



「おそらく問題ない。研究をこの部屋に留めて置く限りはな。私は魔族なので、人間の神の影響を受けない。お前はただ私の研究を手伝うふりをすれば良い。

ただしそれを地上に持ち出すとなると話は別だ。無論、危険を顧みず、いずれ世間に向けて成果を発表しようがお前の自由だ。それはお前が判断すれば良い。


………研究者の知的探求心は抑えが効かない。私にはそれが良く分かる」



ウィルはその話を聞いて、ふっと笑った。




その頃、アルクは上体を起こし、部屋の中を不思議そうに見回している。

ソフィアは相変わらずアルクにくっついていた。



その時ソフィアが、両手をアルクに向けて差し出す。

そこには魔法陣が展開され、小さな噴水のように水が湧き出ている。


どうやらアルクに水を飲めと言っているようだ。



「お前、今は使えるようになったんだな」


俺はソフィアに向けて言った。

アルクとウィルとはぐれて、俺と二人きりになった時、ソフィアは水魔法を作り出せなかったのだ。


「え、そうだったの……?何でだろう……。最深部に落ちる前までは、ちゃんと使えてたのに……」


俺が説明すると、アルクは不思議そうに言った。




俺達の話を耳にしていたジークは、ウィルとの会話が一瞬途切れると、こちらに目を向ける。

そして、ソフィアの魔法の発動について、詳細を俺達に尋ねた。



俺達の説明が終わると、ジークはゆっくりと語り出した。



「……それは、稀に見られる症状だ。過去に迷宮を訪れた冒険者達にも、似たような者がいた。一種の精神的な問題だが、普段抑えつけられている魔力が、何らかの条件下でのみ解放される。

限定された時間や場所でのみ発動する者、極度の緊張状態でのみ発動する者、または逆に、精神が完全に弛緩した場合にのみ発動する者、などだ」


アルクはそれについて考える。


「ソフィアが魔法を発動できる条件……。場所や時間は関係ないと思うし、試験で緊張している時も大丈夫だった。僕と二人で練習する時だって……。一体何だろう……」



ジークは、じっとアルクを見つめる。


「………もしかして、魔法を発動する時、常にお前が一緒にいたのではないか」



アルクは驚いてジークを見る。


「え……そんなことは……。あれ、言われてみれば……。あ、でも、ルアンお兄さんがいた時も、魔法を使えたんだよね?」


ソフィアはこくりと頷く。



するとジークは言った。


「そのルアン兄さんというのは、今はいないのだな」

「は、はい……」

「ならばやはり、それだ。その子はルアン兄さんといる時にのみ、魔法が使えた。そして今では、兄のように慕うお前がいる時だけ、力を発動できるのだろう」

「そ、そんな……」



そう言われてみると、ソフィアは魔法の練習を始めてから、常にアルクと一緒だった。

最深部に落ちて初めてアルクと離れ、魔法が使えなくなったのだ。



するとソフィアが、それを裏付けるように言う。


「わたし………。ひとりで練習するときは、いつも、ぜんぜん魔法がつかえなかった……」



ソフィアは今までずっと、それを黙っていたのだ。

アルクと練習する時には問題なく使えたので、余計な心配をかけたくなかったのだろう。



「おいアルク、お前、ソフィアを嫁にしてやれよ」


ウィルが可笑しそうに笑って言った。


「お前がいねえと、ソフィアは魔法が使えないんだってさ」

「ええっ!いや、それはちょっと………って、そもそもソフィアだって嫌だよね」


アルクが焦って言うが、ソフィアは答えない。


ウィルは面白そうに二人を見ていたが、やがて言った。


「まっ、心配すんなよ。俺もその症状についてはどっかで読んだことあるぜ。なあジーク、精神的な問題なら克服できる余地はあるよな?」

「ああ。本人の努力次第だが」



アルクは少しほっとしたようだ。



俺は尻尾でパーーーーンと床を叩いた。

地面にあぐらをかき、膝の上で頬杖をつきながら言い放つ。


「おいお前ら、しょうもない事言ってないで、さっさと話を終わらせろよ。地上の奴らはおそらく混乱してるぞ。早く戻った方がいい」


「お、おお!待ってくれ、せめてあと20個ぐらい聞きたいことが……。他はまた今度でいいからさ……」


ウィルは焦って、ジークとの研究の会話に戻った。




やっとウィルが満足すると、俺達は地上に戻る事となる。

最もウィルは、とりあえず()()()()()()満足しただけだ。



「ジーク、また近いうちに来ていいか?……あ、えっと、しょこらも、いいか?」


俺がジロリと見つめると、ウィルは焦って俺にも許可を求める。


「またここに、連れてきてくれるか?なあ、頼むよ……」

「ったく、しょうがねえな」


俺はフンと鼻を鳴らして言った。

ジークもゆっくりと頷き、賛成の意を示した。


「やったぜ!ジーク、しょこら、ありがとな!!」


ウィルはまた顔を輝かせて言った。


「ちょっとウィル、あまり頻繁にしょこらを借りないでよ」

「お前な、借りるって、しょこらはお前のものじゃないだろ」

「何言ってるんだよ、しょこらは僕の……」


「いいから、さっさと乗れ」


俺は足元に赤い魔法陣を展開する。

ジークは少し興味深げに、それを見つめていた。



「助けてくれてどうもな」


俺が挨拶すると、他の三人も口々に礼を言う。


「本当にありがとうございました、ジークさん!」

「ジーク、またな!絶対近いうち来るからよ!」

「ありがとう………」



そして俺達は魔法陣に乗る。



ジークに向けて手を振りながら、真っ赤な魔法陣の光に包まれて、俺達は迷宮を後にした。



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