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5.不可侵の領域

アルクが姿を消した後、俺は王宮内を探し回ることができなかった。



使用人は俺を抱え上げた後、そのまま宮殿を出て庭を突っ切り、門の外へ俺をポイッと放り投げた。

俺が振り返って門に入ろうとしても、またも不敵な笑みを浮かべて立ちはだかり、通そうとしない。



別の入り口はないかと外壁の周りをぐるりと歩いてみたが、どこの門にも門衛が立っていて、俺が近づくと手にした槍を向けてくる。

どうもあの使用人から指示され、俺を妨害しているように思えてならない。



俺はアルクに念話で話しかけてみるが、反応はない。

やれやれ、本当にまた精神支配でもされているのだろうか。



思い当たる事といえば、一つだけだ。

アルクが少し飲んだあの飲み物に、何かしら精神に作用する薬でも混入されていたのかも知れない。


それにしても王女が触れた途端に効果を発揮するというのは、妙なものだった。



明るいうちは全く近づけそうにない。

俺はため息をつき、とにかく暗くなってから出直そうと考えた。





やがて、日が沈む。


俺はカラスのムックを久々に呼び出し、事前に偵察させた。

すると、宮殿の正面向かって左側の棟、第一王女の部屋の中に、アルクの姿を発見したとのことだった。



「にしても、久しぶりダナ!俺のこと、忘れたかと思ってたゾ!」


ムックがカーカーと抗議する。


「悪いな。確認ご苦労だった」

「おうヨ!」


役目を終えたムックは、バサバサっと羽を広げ飛び去っていった。



俺は改めて、正門へと近づく。

そこには昼間と変わらず、やはり門衛が二人立っている。


さすがに王宮の門衛を気絶させるのはまずいだろうか。



面倒だが俺は外壁を左側へと回り込む。

そして猫耳忍者へと変身し、そのジャンプ力を生かして高い外壁を難なく飛び越えた。


俺の姿は暗闇に溶け込み、誰にも気づかれることはない。



スタッと着地して見回すが、壁の内側には見張りはいないようだ。

俺は俊足で走り、正面向かって左の棟に向けて大きくジャンプする。



バイイィィン!!!



しかし俺の体は、結界により弾き飛ばされた。

考えてみると当然だが、王宮の建物には結界が施されているのだ。



ちなみに、俺やアルクやハジメが魔物群の侵攻に備えてしていたように、何もない空間に結界を張るには膨大な魔力が必要になる。

それよりは建物の形に添って結界を施す方が少ない魔力で済むし、時間もかからない。


俺達ほどの魔力を持つ者は王宮にもいないので、結界は建物に沿って張られているのだ。



俺は再び地面に着地して考える。

おそらく結界は夜の間は解除されない。とするとまた朝まで待つしかないが、明るくなると人目についてしまう。


やれやれ、一体どうやって忍び込もうか。


最大威力で魔法攻撃を噴射すれば、結界は破れるだろうか。

しかしそれでは宮殿中の者が集まってくるだろう。



宮殿に忍び込むのは、思った以上に厄介だ。


俺は再びムックに念話をつなぐ。



『おう。悪いが再度、部屋の様子を確認してくれ。近づけなくて状況が分からん』

『まかせとケ!!』


近くにいたムックはすぐに飛んできて、カーテンの僅かな隙間から、王女の部屋の窓を覗いた。

そして思わず言葉を詰まらせる。


『ああ、アレは……』





その頃アルクは、王女の部屋にいた。

未だにその瞳からは光が失われ、ボーっと焦点の合わない目をしている。


椅子に座っているアルクに、王女が声をかける。



「アルク様、お待たせいたしました。さあ、どうぞこちらへ……」



王女が右手を差し出すと、アルクは従順に自分の右手をその上に置く。

王女はアルクの手をぎゅっと握り、ベッドへと誘う。


王女の趣味なのか、その部屋はカーテンもベッドシーツも、何もかもがピンク色だった。



アルクは一切の抵抗を見せず、(くう)を見つめたまま、ベッドに横たわる。

そして仰向けに倒れたまま、動かなくなった。



アルクよりも体の小さな王女は、意を決したようにピンクのドレスを脱ぐ。

その下に身に着けているのはピンクではなく、白いレースの肌着だった。




そして王女は自らもベッドに乗る。

四つん這いになり、アルクの体の上へと移動した。



「申し訳ございません、アルク様。私はこうすることでしか、お父様のお役に立てないのです。」


王女はどこか悲し気にささやく。


「……王女と初めて契りを交わした者は、とりもなおさず、王族の一員となります。既成事実を作ってしまえば、もはや逃れる術はありません。私の身勝手な願いでご迷惑をお掛けすること、お許しください」


そして王女はアルクの白いシャツのボタンを上から外し始めた。




その時アルクが、僅かな呻き声を上げる。

王女はピタリと手を止め、アルクの顔を見た。


その瞳は虚ろで、体は動いていない。しかしその呻き声は、どこか抗議の意を示しているようだ。



王女は気の毒そうにアルクに向かってささやいた。



「アルク様、どうか受け入れてください。私はここで引き返すつもりはありません。……この宮殿内には誰も入り込めません、あなたを助けられる方はいないでしょう。


宮殿の警備はこの世界で最も厳重です。それこそ、転移魔法でも使えない限り、侵入することも、脱出することも不可能です」




アルクはその言葉を、遠い意識の中で耳にしていた。



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