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47.消えゆく希望

「ア、アルクの心臓が、動いてねえ…………」



ウィルは震え声で言った。

自分の足の上に倒れているその体を、ぎゅっと握りしめている。



それでもウィルはこの状況の中で、冷静に対処していた。

俺が現れた瞬間に回復薬を取り出し、アルクの傷口へと何本も注いでいたのだ。



しかしそれでも、血は完全に止まらない。


背中から深く切りつけられた傷は完全に塞がらず、まだ生々しく肉をさらけ出している。



俺はしゃがみ込み、治癒魔法を発動する。

しかし魔素のせいで、その手からは鈍い光が発せられるだけだ。これではかすり傷程度の治癒しかできない。


次に俺は上級魔法薬を取り出し、傷口に注ぐ。


何本か注ぐと傷口はやや塞がったが、その心臓はまだ動かない。



俺は自分でも不思議なほど落ち着いていた。

しかし同時に、頭の中が麻痺したような、どこか漠然とした感覚に襲われている。



「くそっ……………」



回復薬を使い切ると、俺はアルクの体を上向きにした。

そして、ハルトからの訓練で散々たたき込まれた心臓マッサージを行う。



「くそっ……………おい、起きろ………………」



俺は舌打ちしながら、マッサージを続け、人工呼吸をする。

それでもアルクは目を覚まさない。




その時俺はまた、ハルトの訓練を思い出す。

そしてアルクの胸に手を当て、魔法陣を生成する。そして、そこから風魔法で作り出した電流を流し込む。


しかし、それでも効果はない。



「くそっ、起きろって言ってるだろうが………………」



俺はまた心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。




「おい、しょこら、代わるよ………」



ウィルがそう言い、俺に代わって心臓マッサージを始める。



俺はウィルがそれを行うところを、また漠然とした感覚で眺めた。




これ以上講じられる措置はあるだろうか。

もしこれで心臓が動き出さなければどうなるだろうか。



どうなるかは分かり切っていたが、俺はその考えを頭から払い除けた。

しかしどう考えてみてみも、これで効果がなければ、アルクの命は絶望的と言える。



それは現実のこととは思えなかった。

これまではどんな事があっても、俺が何とかできたのだ。



魔法が正常に使えない今、しかし、俺は無力だった。



やがて、頭の中でせき止められていた何かが、急にあふれ出す。



俺は突然立ち上がり、アルクの胸倉をつかんで大きく揺さぶった。




「おいお前、いつまで寝てるんだ!!起きろって言ってるだろうが!!!」




しかしそれでアルクが目を覚ますはずはなかった。

俺が手の力を抜くと、その体はドサリと地面に倒れる。



ウィルは目を見開いて俺を見つめていた。


しかしハッとして、再び心臓マッサージを開始する。



「なあ、しょこら、お前………この短時間で、強くなっただろ」



ウィルは心臓マッサージをしながら、必死に俺に話しかける。



「そのまま、上階まで走っていけよ。魔物なんか全部、一撃で倒せるだろ。とにかく走って、地下10階層に着いたら転移魔法で、地上に出るんだ。それで助けを………よんで………」



ウィルは自分で言いながら、それに意味がないことに気付いている。

この深層に誰を呼びつけようと、アルクを治癒できる者はいない。ここでは誰も魔法が使えない。



「それなら、アルクを背負って上階まで走れば………」



しかしウィルはまたそこで言葉を止める。

心臓マッサージを続けなければ、上階に着く前に手遅れになる。



「くそ、どうすりゃいいんだよ…………!!!」



ついにウィルも、冷静さを保てなくなる。



「どけ。俺がやる」



そう言って俺はウィルに代わり、また心臓マッサージを始める。




「しょこら………」



ウィルは地面にへたり込み、頭を抱え込んだ。

その隣ではソフィアが大人しく目を閉じ、足を抱えて座り込んでいる。





俺は最初にその声を聞いたとき、ただの空耳かと思った。

この深層で、俺とウィル、ソフィア以外に、声を発する者などいないはずだ。



だから俺はその声を無視して、心臓マッサージを続けていた。



しかし、二度目にその声が聞こえた時、俺はやっと空耳ではないことに気付く。



俺は手を動かしながら、視線を上げる。


するとウィルも茫然として、声のする方を見つめていた。




「お前達。私に付いて来なさい」




それは人型の魔族だった。

頭に黒い角が二本生えた、緑がかった皮膚をしている男だ。

その髪はほとんど白に近い灰色だった。



一見すると魔王の配下の一員に見えるその男が、なぜここにいるのか分からなかった。

それに、なぜ俺達を攻撃せず、付いてこいと言っているのかも分からない。



俺とウィルは返事をせず、ただ男を見つめ返した。


すると、既に振り返って歩き出していたその男が、再びこちらに顔を向ける。



「その者を助けたいのなら、付いて来なさい」



男はそう言って、再び前を向き歩き始めた。



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