46.三頭竜
「ウ、ウィル、逃げて……」
アルクは三頭竜を見上げながら、震え声で言った。
「早く。僕がこいつを引き付けるから、早く……」
アルクは竜から目を離さずに、手のひらをウィルへ向けてバリアを付与した。
「早く、逃げて!!」
「そんなこと言っても、お前……」
ウィルも体を震わせながら、三頭竜を見上げる。
足手纏いになることは分かっているが、アルクを置いて逃げることはできなかった。
しかし二人が動かないうちに、竜の一つの頭が動く。
「危ない!!!」
アルクは咄嗟にウィルに向かって飛び掛かる。
二人は数メートル先の地面に共にドサリと倒れ込んだ。
その直後、二人が元居た場所に、ドラゴンのブレスが放出される。
強烈な炎は地面を数十メートルもえぐり取った。
岩は完全に溶岩となり、真っ赤な灼熱の色を放っている。
「いてて、おい、大丈夫か……」
「また来る、早く!!」
アルクはウィルを引っ張り上げ、即座にその場から離れる。
するとそこに、再び強烈なブレスが放出される。
アルクは咄嗟にドラゴンの視界から逃れるため、岩壁の陰へとウィルを連れて行く。
グウオオオオオオオオオオァァァ!!!
侵入者を見つけたドラゴンは興奮し、凄まじい咆哮を上げている。
その声は二人を戦慄させた。
「おい、これ、まじでやばいんじゃ……」
ウィルが息を切らせながら言うと、アルクは再びウィルに向かって言った。
「ウィル、お願いだ、逃げて。あのブレスはたぶんバリアで防げない。僕が相手するから、早く……」
「いや、そんなことできるわけ……」
「いいんだ僕は、ここで死んでも!ウィルには研究があるんでしょ!僕には何もない。もう建前上の勇者としての務めも果たした。しょこらには生まれ変わったらまた会える。だから……」
「お前、何言って……」
しかし二人の話は、それ以上続かなかった。
再びドラゴンがブレスを発射したのだ。
二人の姿を見失ったドラゴンは今や、三つの頭の全てからブレスを発射している。
どこへ逃げても炎からは逃れられない。
アルクはまた咄嗟に、ウィルを引っ張り走り出す。
二人が走り出した直後、隠れていた岩壁が炎で粉砕された。
アルクはドラゴンの足元に向かって走った。
自分とウィルに付与したバリアは、炎がかすめるだけでガラスのように崩れ落ちる。
アルクはただ無我夢中だっった。
バリアが崩れると再展開し、ウィルを引っ張りがむしゃらに走り続ける。
そして何とかドラゴンの足元、ブレスの攻撃範囲外へと滑り込んだ。
今や辺り一面が真っ赤に染まり、ドロドロとした溶岩が溶け出している。
ウィルは咄嗟に周りを見た。
二人が立っていた場所はもう、溶岩で通れない。
ドラゴンの足元をかいくぐり、逆方向へと進むしかない。
しかし、そのまま足下を通過させてくれる程、ドラゴンは生易しいものではなかった。
二人が足元にいることに気付いたドラゴンは、その前足で二人を踏みつぶそうとする。
まるで巨大な地揺れのように、二人の周囲の地面がガラガラと音を立てて崩れる。
「こ、このままじゃ踏みつぶされるか、また階下に落ちちゃう……」
アルクは必死で逃げ道を探す。
しかし何度も降り下ろされる前足を避けるのに精一杯だ。
するとドラゴンが今度は、前足を大きく振りかぶった。
鋭く尖った鉤爪をギラリと光らせ、二人に向けて振り下ろす。
もはや足場は崩れ、避けられる余地はない。
「だ、だめだ……!!」
ズシャッ………!!!!!
その瞬間、ウィルは目を閉じていた。
しかし自分の体に異常がないことに気付き、ゆっくり目を開ける。
そして、自分の上に覆いかぶさっているアルクの姿を見た。
「ガ、ガハッ………」
その鉤爪は、アルクの体を深く切り裂いていた。
アルクは血を吐き、苦痛の喘ぎ声を上げ、その場にバタリと倒れ込む。
「な……………そんな………………」
ウィルは恐怖で愕然とする。
目の前の光景が信じられなかった。
「そんな…………おい………………」
ウィルの足の上に倒れたアルクは、ピクリとも動かない。
咄嗟に回復薬を取り出そうとするが、ハッと顔を上げる。
ドラゴンはそのような隙を与えず、再び前足を振りかぶっている。
「も、もう、だめだ………」
ウィルは今度は目を閉じず、ただ茫然と降り下ろされる前足を見つめていた。
防御の姿勢を一切取らず、その攻撃を自らの胸で受け止めようとする。
ダアアアアアァァァァン!!!!!
しかしその時、三つある頭のうち一つが、急に地面に叩きつけられる。
ダアアアアアァァァァン!!!!!
ダアアアアアァァァァン!!!!!
それからは一瞬だった。
残った二頭も次々と地面に叩きつけられる。
その頭は叩きつけられた衝撃でほとんど破裂し、真っ赤な血が飛び散っている。
ほんの一瞬で、三頭竜は完全に息絶えていた。
ウィルはまだ茫然として、地面に着地する俺の姿を見つめている。
三頭竜の咆哮と地響きは、俺の耳にも届いていた。
その音を聞きつけた時、俺はソフィアを背負ったまま即座に音の方向へと走った。
そして竜を見つけると大きくジャンプし、空中から三つの頭を順に、猫キックで思いっきり叩きつけたのだ。
俺はその場に着いた瞬間に、状況を理解していた。
地面に着地した後、俺はアイテムボックスから耳栓を取り出す。
以前アルクがセイレーンによる精神干渉を受けた際、ハルトから常に持ち歩くようにと言われていた耳栓だ。
俺はソフィアに向き直り声をかける。
「おい。俺が合図するまで、絶対にこいつを外すな。目も絶対に開けるな。分かったか」
ソフィアは素直にこくりと頷いた。
俺はアルクの姿を、ソフィアに見せない方が良いと思ったのだ。
「悪い。遅くなった」
俺は再びジャンプして、ウィルの傍に降り立つ。
ウィルは生気のない目で俺を見つめ返した。
恐怖と混乱と絶望の中で、ウィルはやっと口を開く。
「ア、アルクの心臓が………動いてねえ………………」




