44.研究への視線
アルクとウィルは、バリアを纏いながら移動していた。
どうやらこの階層もかなり広いらしい。
しかもより複雑に岩壁が入り乱れており、行き止まりで引き返すこともしばしばだ。
ウィルは先程までと同じように、紙に経路を記録していた。
「ったく、ここはどんだけ広いんだ。これじゃしょこら達と合流できても、上階に行くのは結構大変だぜ……」
ウィルは紙を見つめて頭を掻きながら言った。
「そうだね……。でもとにかく、行くしかないよ……」
アルクも不安げに呟く。
途中魔物に遭遇すると、アルクが対処した。
バリアの中で魔法陣を展開しておき、バリアを解除すると同時に魔物に打ち込むのだ。
「悪いな、全然戦力になれなくて……」
巨大なコウモリのような魔物がドサリを地面に落ちるのを見て、ウィルが言った。
「ううん。ウィルの魔法陣がないと、僕は何もできなかったよ」
アルクは再び歩き出しながら、ウィルに向かって話しかける。
「ねえ、僕は、魔法陣は実戦でもすごく役に立つと思うよ」
ウィルは微かに笑ったが、首を振る。
「いや、それはお前もしょこらも、無詠唱魔法が使えるからだ。それに魔力量も多いしな。言っただろ、本来は二重に詠唱が必要なんだ。
それに魔術師は皆、生まれ持った属性での戦闘に長けている。わざわざ使い勝手の悪い魔法陣を使用してまで、全属性を使いたいと思う奴は少ない」
「そうなんだ……。でも僕はやっぱり、すごいと思うけどな」
ウィルはしばし無言になった。
そして再び、静かに口を開く。
「……ありがとな。お前らの役に立てただけで、研究してきた甲斐があったよ」
ウィルは、自らの研究について語り出す。
小さい頃から魔術に長けていたウィルは、物心ついた頃から、生まれ持った土魔法を無詠唱で操っていた。
好奇心も旺盛で、ほぼ毎日王宮図書館に通いつめ、魔術について勉強した。
魔術だけではなく、異世界や架空の種族、時空間転移など、ウィルは本で目にする様々なものに興味を持った。
周囲はその能力と勤勉さを褒めたたえ、神童だと持ち上げる。
当然のように魔術学校へと入学し、成績も常に首席だった。
そして、どうしても他の属性の魔法が使いたくて、たどり着いたのが魔法陣だった。
修学課程を飛び級で終了し、ウィルは自らの研究に専念する。
周囲もその才能を認めたが、中には魔法陣の研究を、全くの無駄だと見下す者もいた。
さらには王族であり、学長の息子であることで、後ろ指をさされることもしばしばあった。
「せっかく才能があるんだから、もっと別のことに使えば良いのに……」
「あれで研究費がもらえるなんて、完全に学長の身内びいきだな」
「いいよな、王族ってだけで、好き勝手できてさ」
しかし、最もウィルの研究を蔑視したのは、父親だった。
「何度も言っているだろう。いい加減、馬鹿な夢を見るのはやめたらどうだ」
父親は何度も、ウィルを諭そうとする。
父親は知っていたのだ。ウィルの最終目的は、戦闘用の魔法陣を作り出すことではない。
魔法陣を使って空を飛んだり、時空を飛び越えたり、完全なる夢物語のような魔法を、実現しようとしているのだと。
「でも、父さん、それは不可能じゃないんだ。研究を続ければいつかきっと……」
「もういい。やめるんだ」
父親は、ウィルの主張を遮った。
「研究費は出してやる。しかしその代わり教師の仕事を手伝え。もちろん無償でな。研究を止めたらきちんと給料を払ってやる」
ウィルに文句がある筈がなかった。
毎日忙殺されながらも、空いた時間で喜んで研究に没頭した。
「実はさ、お前らのおかげでユリアンが女王になって、俺は本当に感謝したんだぜ」
ウィルは歩きながら、アルクに向かって言った。
「親父は俺が研究を止めないもんだから、無理矢理王位継承権を継がせようとしてたんだ。兄貴は経営者の才能があるから、次期領主にするつもりだったらしい」
「そうなんだ……。ねえ、ウィル。僕はウィルの研究を、心から応援してるよ」
アルクがそう言うと、ウィルは笑った。
そしてアルクの背中をパアンと叩く。
「ありがとよ!しかしお前、あまり人をたぶらかすんじゃねえぞ」
「ええっ、どういう意味……」
バイイイイイイィィィン!!!
しかしアルクの言葉は、途中で途切れた。
何かが突然、バリアに激突してきたのだ。
それはバリアが大音量で振動するほどの衝撃だった。
「うわ、何だ!?」
二人は周囲を見回す。
するとそこには、複数の赤い目がギロリと光っていた。
それは複数の鳥型の魔物だった。小型ではあるが凶暴で、驚異的な速さで飛んでくる。
まともに直撃を食らうと、体が貫通しそうな勢いだ。
アルクは一瞬、バリアを纏ったまま突っ切ろうかと考えた。
しかし先ほどの衝撃からして、鳥の攻撃力は非常に高い。
数回攻撃を食らうと、バリアが砕け散ってしまいそうだ。
アルクは手の上に、ウィルの魔法陣を展開する。
そして自らのバリアを解除した。
「おい、アルク、大丈夫か……」
ウィルはバリアの中から声をかける。
自分が加勢しても、一瞬でやられると分かっているのだ。
「大丈夫。ウィルは、そこにいて……」
アルクはじわっと汗をかいている。
そして心の中で、自分に言い聞かせた。
『しょこらがいないんだ。僕が、ウィルを守らないと……』




