41.ウィルの魔法陣
「え、どういうこと……?」
アルクがウィルに問いかける。
「どうして、20階層より下なんて……。というか、ダンジョンは20階層までしか発見されてないって……」
「ああ。だがここは少なくとも20階層だ。あるいはそれよりも下だ」
壁の植物を観察していたウィルは、俺達の方へと戻って言った。
「おい、なぜそんな事が分かるんだ」
俺が尋ねると、ウィルは壁の方を振り返る。
「授業で習ったんだよ、あの苔みたいなやつはグレーモスって言って、過去に20階層に到達した者によって発見されたんだ。19階層から上には存在しない」
「そんな……。でも、たまたま上階まで繁殖してるなんてことは……」
「その可能性は低いな。言っただろ、ダンジョンは下層部に行くほど魔素が濃くなる。ここの植物は魔素を養分として繁殖するんだ。19階層から上でこの植物が発見されてないのは、繁殖に十分な魔素濃度がないからだ」
それから俺達は無言で歩を運ぶ。
「ねえ、方向はこっちで合ってるの……?」
アルクが恐る恐る尋ねると、ウィルは頷く。
「ああ。地面は上層に向かって緩やかに傾斜してるはずだから、それは間違いないはずだ……」
「おい、止まれ」
その時俺はまた、猫耳で何かが動く音を捉える。
そして念のため、全員にバリアを再度付与した。
「な、何か聞こえるの、しょこら……」
バイイイイィィィィン!!!
「うわああっ!な、何!?」
アルクが思わず叫ぶ。
ウィルも同時に叫び、ソフィアは恐怖で声が出ないようだ。
何かが攻撃してきたが、バリアにより弾かれたのだ。
俺はそいつの姿を捉えようとするが、どうやら動きがかなり速い。
サッと俺達の目の前を横切ったかと思うと、次の瞬間には姿をくらましている。
「おいお前ら、バリアの中でじっとしてろよ」
「しょこら、僕も戦うよ!」
俺とアルクはバリアを解除し、ウィルとソフィアに向かって再付与した。
周囲はしーーんと静まり返り、しばらく何も動かない。
すると俺の耳がピクッと動く。また何かが近づく音を捉えたのだ。
「おい、後ろだ!」
俺は瞬時にアルクの背後に移動し、アルクの背中を狙っていたそれを、思い切り猫パンチした。
するとそれはバラバラと砕け、地面に崩れ落ちる。
「ええっ、速すぎて何も見えなかったよ!一体何が……」
俺達がよく見ると、それは砕け散った骨だった。
またスケルトンのような魔物が現れたのだろうか。
しかし攻撃の雰囲気からして人間の形をした骨ではなく、おそらくそれは動物の骨だ。
「おい、気を付けろよ!聞いたことがある、下層部にはスケルトンウルフがいる。すげえ速さで、しかも群れで行動するんだ。あと、早くその骨から離れろ!!」
ウィルが思わず叫んだ。
すると次の瞬間、俺達の目の前で、砕け散った骨が再生し出したのだ。
「う、うわ、こいつ生き返るよ!ねえ、物理攻撃は効かないんじゃ……」
しかし考える間もなく、それはみるみる再生する。
そして同時に、辺り一帯に同じ殺気を持つ者達が近づき、俺達を取り囲んでいた。
それは本当に一瞬だった。
何十体ものスケルトンウルフがまるで瞬間移動のように動き、俺とアルクを次々に攻撃してくる。
俺は猫パンチと猫キックで、アルクは剣で応酬するが、速度が速い上に数が多すぎる。
俺もアルクももちろん、最初は火炎魔法を発動しようとした。
しかし魔素とやらのせいか威力が格段に弱まり、ウルフたちは火を浴びても一切動じなかった。
光魔法も試してみたが、同じように効果はない。
「うわあっ!!!」
その時一匹のウルフがアルクの右腕に、深々と噛みついた。
アルクは急いで振り払おうとするが、その隙にもう一匹が左腕にガブリと噛みつく。
「ぐああぁっ……」
アルクは痛みに悲鳴を上げる。
俺は即座にアルクの元へジャンプし、その2匹を粉々に砕いた。
しかしいくら倒しても、しばらくすると奴らは復活した。
バリアが有効なのが唯一の救いだが、これでは埒が明かない。
何とかしてこいつらを一掃しなければ、ここで永遠に足止めされる。
「おい、ウィル!お前の魔法陣とやらを今すぐ教えろ!!」
俺はウィルに向かって叫んだ。
「それを通せば、少しは魔素の干渉を防げるんだろ!」
ウィルは驚いて目を見開くが、すぐにローブのポケットを探り、小さな紙とペンを取り出した。
思いついたらすぐに書き留められるよう、いつも持ち歩いているのだろう。
俺は負傷したアルクを背負い、ウィルとソフィアの元へとジャンプする。
そしてアルクをそこに下ろし、代わりにウィルから紙をひったくる。
「これは火炎魔法の魔法陣か?」
「ああ、そうだ。他のも書いとくよ、しょこら。……頼んだぜ」
俺は三人に再度バリアを付与してから、紙を一瞥する。
転移魔法陣ほど入り組んだ図形ではない。
一瞬でそれを記憶した俺は、詠唱して魔法陣を展開する。
そしてそこから、猛烈な火炎魔法を思い切りぶっ放した。
グオオオオオオァァァァァァァ!!!!
スケルトンウルフ達は一瞬にして炎に包まれる。
そして苦痛の咆哮を上げた後、次々と倒れて消し炭になった。
俺はくるりと振り返り、三人の元へと向かう。
アルクの両腕は深く切り裂かれ、血が大量に流れ出ていた。
ソフィアはそれを凝視して、ガタガタと震えている。
ウィルはそこに回復薬を注いでいた。
「ごめんな、治癒魔法ってのは光魔法の一種なんだ。言っただろ、俺の魔法陣は光魔法と闇魔法だけは使えない……」
それでも回復薬の効果で血は止まり、傷は塞がったようだ。
しかし魔法で治癒した時のように、完全に傷跡が消える訳ではない。
「いたた……ごめんウィル、ありがとう……」
アルクが体を起こして言うと、ウィルは首を振る。
そして俺に向かって言った。
「しょこら、まじでありがとな。悪いな、戦力になれなくて……」
「何言ってるんだ。お前の研究がなけりゃ、俺達は全員死んでたぞ」
俺がそう言うと、ウィルは少しポカンとした。
「うん、ウィル、君は本当にすごいよ……」
アルクも俺に続けて言った。
ウィルは喜んで笑うかと思いきや、なぜか少し涙目になっていた。




