39.自然の摂理
結局俺達はソフィアを連れて、5階層まで降りることになった。
ソフィアはこっそり俺達の後を付けてきていたのだ。
俺達が魔物を一掃しながら進むせいで、すぐ後ろを何の危険もなく付いて来られたらしい。
「ソフィア、何かあったら、絶対しょこらや僕の言うことを聞いてね」
ソフィアはまたアルクと手を繋ぎながら、こくりと頷いた。
5階層にたどり着くと、高等部の試験の終盤だった。
生徒が数人ずつの組に分かれ、一組につき一体の中型ゴブリンを討伐しているようだ。
俺達が近づくと、ウィルは驚いた顔をした。
「お前ら、ここまで来たのかよ!てか心配し過ぎだろ……。え、俺って模擬戦のとき、そんなに弱かった?」
そう言いながらもウィルは、俺達に礼を言った。
「まあありがとな。でも心配すんな、この組で最後だ。これが終われば地上に帰る」
やがて試験が終わり、俺達は皆地上へ向かう。
俺とアルク、ウィル、ソフィアは、最後尾を共に歩いていた。
「言っただろ、別に危険はないって。てかなんでソフィアまで……」
「いつの間にか付いてきちゃって……。でも本当によかった、ウィルが無事で……」
アルクの一言に、ウィルはまた苦笑した。
しかしその時、俺の猫耳が、何かの音を捉える。
それは低い唸り声のようで、洞窟のどこからか響き渡ってくる。
「……おいアルク、念のため全員にバリアを……」
俺がそう言いかけるも、次の瞬間、それは起こった。
ドガアアアァァァァン!!!!!
「きゃあああ!い、一体何!?」
「うわあ、壁が崩れるぞ、気を付けろ!」
「な、何か聞こえる!あの声は何だ!?」
生徒達はパニックになり、全員が腕で頭を覆っている。
引率している教師たちは、大声で全員に呼びかけた。
「皆地上に向かって走れ!落ち着け、そのまま進むんだ!!」
教師たちは一斉に、生徒に向けてバリアを展開した。
生徒達は叫びながらも、速足で地上への階段へと走り出す。
「しょこら、一体何が……うわっ!!」
その時アルクの目の前に、何かの大きな足が降り下ろされた。
アルクはソフィアの手を掴み、急いでバリアを展開する。
「おいウィル、どこだ!」
「こ、ここだ、大丈夫、無事だよ……」
俺が見回すと、ウィルは地面に尻もちをついていた。
何かが地上に降り立った衝撃で、体勢を崩したのだ。
俺は少し離れたウィルにバリアを施し、やっとその何かを見上げた。
そいつは見たことのない巨大な魔物だった。
どうやら壁を突き破って俺達の行く手を塞いだらしい。
体長は6-7mはある、巨大な猿人系の魔物だ。その大きな二本足で、岩場を崩しながら飛び回っている。
「な、なにこれ、巨大な猿……」
アルクが目を見開いて魔物を見つめた。
いつの間にか俺達は、生徒や教師達とはぐれていた。
俺達4人以外は全員無事に、上階へと避難できたらしい。
俺は思いっきりジャンプして、猿に猫パンチを食らわせようとする。
しかしその猿は再び、急に大きく飛び上がった。
ドガアアアアァァン!!!
大音量を立ててそいつが着地したのは、ウィルの目の前だった。
ウィルは思わず腕で頭を覆うが、バリアのおかげで怪我はない。
グオオオオオオオォォォォ!!!
ウィルの目の前で、巨大猿が大きな雄叫びを上げる。
赤い目を光らせたそいつは腕を振り上げて、ウィルを攻撃しようとする。
しかし次の瞬間、急に洞窟内が揺れ出した。
まるで地震のように、俺達の足元がガタガタと揺れている。
するとその巨大猿の足場が大きく崩れ、猿は地下の階層に向かって落下していく。
その巨体は何階層もの地面突き破り、やがてその姿は見えなくなった。
「お、落ちた……猿が……」
アルクが愕然として、地面に空いた巨大な穴を見つめる。
すると急にハッとして、アルクは穴を回り込み走り出した。
「ウィル!!!」
ウィルは崩れた足場に手をかけ、穴の淵にぶらさがっていた。
猿もろとも落下するところを、ぎりぎりのところで岩場にしがみついたのだ。
アルクは右手でウィルの腕をがしっと掴む。
俺はソフィアを抱え上げ、ピョンとジャンプしてアルクの横に降り立った。
俺も同じく右手でウィルの腕を掴んだ。
ソフィアは自分で俺の背によじ登り、俺に背負われる形になる。
「わ、悪い……」
ウィルは息を切らしながら言った。
「ごめんな、お前ら……」
俺とアルクは一緒にウィルを引っ張り上げる。
何とか地面によじ登り、ウィルはハアッと大きな息をついた。
「てか、あんな魔物が出るなんて、聞いたことねえぜ。一体何が起こってんだ……」
「それより早く出た方がいい。ここはまだ危険だ」
「ああ、そうだ……って、うわっ!!?」
その時、再び地面が揺れた。
不安定になっていた足場は、大音量を立てながら崩れ落ちる。
「だ、だめだ!うわああああ!」
アルクが叫ぶが、崩壊は止められない。
今やゴゴゴゴゴゴと地響きが起こり、洞窟全体が揺れている。
そして俺達は、深層へ続く大きな穴へと落ちていったのだった。




