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35.女の戦い

町中を歩き回っていると、ソフィアがふと、ある露店に目を止める。



それは射的の店で、魔法や小型ナイフを的に的中させると、景品がもらえるというものだ。

大小様々な的が並んでおり、遠くて小さい的ほど、もらえる景品も豪華になる。


景品は多種多様で、その多くは女性が首や腕、髪に飾るものだった。



じっと店を見つめるソフィアに気付いたユリアンは、ふと思いつく。

そしてソフィアに向かって言った。


「あら、ソフィア!あなた魔法を練習しているんでしょう。ここで私と勝負してみない?」



ソフィアは驚いてユリアンを見る。

そしてユリアンが掴んでいるアルクの腕をじっと見て、何とこくりと頷いた。



「えっと、ソフィア、大丈夫……?」


アルクが尋ねるも、既にユリアンとソフィアは、的に向かって並んで立っていた。


「全くユリアン様は、8歳の少女相手に、大人気ないですね」


ミーシャが笑いながら囁いた。



不穏な空気を漂わせながら、二人は的を睨みつけている。

二人が見ているのは同じ、一番遠くて小さい的だ。距離にして10メートルはある。そこに攻撃を的中させると、キラキラと輝く赤い魔石がはまった指輪が手に入るのだ。



俺はため息をつく。

まったく、なんてしょうもない戦いだ。



先に攻撃を開始したのはユリアンだ。

ユリアンが使えるのは、偶然にもソフィアと同じ、水魔法だった。


ユリアンはぶつぶつと詠唱し、次の瞬間、ビュッと勢いよく右手から水が放出される。


狙う的には届かないものの、その数十センチ手前まで、ユリアンの水は飛んで行った。



「アルク様、いかがですか!?私も魔術は得意ではないのですが、それでも攻撃の方向はきちんと制御できます。無詠唱魔法こそ使えませんが……」


「あ、ああ、うん、すごいね……」


アルクは何が何だか分からず、とりあえず返事する。


「さあソフィア、あなたもやってみてはいかが?」



ソフィアは的をじっと見つめた。

どう見ても一番遠い的は、ソフィアにとっては難しすぎる。


しかしソフィアは、その的に向けて真っ直ぐに手を突き出した。



ソフィアがぶつぶつと呟くと、その手に魔法陣が展開される。

それを見てユリアンは、少し驚いて目を丸くした。


そして魔法陣から、水が勢いよく放出された。

それはユリアンの魔法より数センチ遠く、的へ向かって伸びていった。



「な………」


ユリアンは少し面食らって、ソフィアを見下ろす。

ソフィアは思ったより飛んだ自分の魔法に、ユリアン以上に驚いているようだ。


「わあ、すごい……!すごいよソフィア、これまでで一番の威力だ!!」



アルクは思わず歓声を上げた。

ウィルも感心したように、小さく声を上げている。



アルクの一言がユリアンの闘争心に、さらに火をつけたらしい。


ユリアンはそれから次々と、立て続けに水魔法を発射し続ける。

それを見たソフィアも負けじと、魔法陣から水をどんどん放出した。



「ああ、もう少しなのに!!」

「えいっ、えいっ………!!」



途中二人は競うように、その他の的を次々と倒していく。

しかし待てど暮らせど、二人は目当ての的に攻撃を当てられない。



そして数十分後、二人はハアハアと膝に手をつき、息を切らしていた。


「な、なかなかやるわね……。でも見ていなさい、最後のあの的は私が……」

「だ、だめ、まけない……」


「あの、お嬢さん達、もうその辺に……」


一つを残し全ての的を壊滅させられた店主の男が、涙声で言った。




「おい、ソフィアの奴、この数十分ですげー上達してないか……」


ウィルが頭の後ろで手を組みながら、苦笑して言った。

実際、これまでアルクが付きっ切りで訓練した日々の何倍も、ソフィアは成長しているのだ。


「う、うん……。まあ、すごく良いことなんだけど……。僕との訓練って一体何だったんだろう……」



さらに数分後、ソフィアは最後の力を振り絞り、思い切り水魔法を発射した。

しかしそれは、的の僅か数センチ手前、ぎりぎりの所で落下してしまう。


ユリアンも同じく、既に魔力を使い切っていた。



「さあ、二人とも、そろそろこの辺で……」


アルクが声をかけるも、ユリアンはジロリとアルクを振り返る。


「いいえ、アルク様!これは女の戦いなのです!ここで決着を付けなければ……」

「ま、まけない……」


ソフィアもまだやる気のようだ。


「そうですわ、アルク様!どうか約束してください!この勝負に勝った者を、正式に交際相手として認めると!!」

「ええっ!?い、いや、なんで……」




スパーーーーーーーーーン!!!!




その時突然、大音量で最後の的が破裂した。

猫耳忍者姿になった俺が二人の間に入り、そこから水魔法を発射したのだ。


軽い一発で、的は呆気なく粉砕された。



ユリアンとソフィアは口を開けて、ポカンと俺の姿を見つめた。

俺はまた、ゴゴゴゴゴゴゴと威圧的な視線を二人に向ける。



「おいお前ら、いつまでこんな馬鹿げた遊びに付き合わせる気だ。これで引き分けだ、潔く諦めるんだな」



俺がプイっとそっぽを向いて帰ろうとすると、店主が俺を呼び止める。


「ああっ、猫耳の嬢ちゃん、景品の指輪を……」

「あ?いらねえよ」


俺はそう言い捨てて、再びスタスタと歩き出した。



「はい、ではここまでですね。ユリアン様、宿に戻りますよ。アルク様、ウィルギリウス様、ソフィア様、お付き合いありがとうございました。どうぞご機嫌よう」


ミーシャがパンっと手をたたくと、ユリアンも諦めたようだ。



結局ユリアンとソフィアは、両腕に収まり切らない程の景品を手にしている。

店主は最後の景品の指輪を、とりあえずアルクに手渡した。



「あの、アルク様、それはどうなさるのですか……?」


ユリアンが遠慮がちに尋ねた。

ソフィアもそれとなく、アルクの様子を伺っている。



アルクは少し困った笑顔を見せて答えた。



「これはしょこらが取ったから、しょこらのものだね……」



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