表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/114

34.息抜き

試験前日、魔術学校に思わぬ来客があった。



その日は授業がなく、全生徒は明日の試験に向けて、それぞれ最後の追い込みをしていた。

俺とアルクは例のごとくウィルの研究室で、ソフィアの勉強に付き合っている。


「学年三位以内というのは、正直難しいけど……。でもソフィアの頑張りを認めてくれたら、お兄さんだって気が変わるかもしれないし。できるだけ、やり切ろう」



アルクはソフィアを励ましていた。

その日までにソフィアは、動き回る人形に何度か、攻撃を的中させることができていた。



試験1日目は筆記と実技、2日目が実地試験だ。

ソフィアは筆記試験の最後の追い込みをしている。



するとその時、誰かが研究室の扉をたたいた。

来客に身に覚えのないウィルは、少しぎょっとして扉に目を向ける。


「え、誰だ……?まさか兄貴じゃねえだろうな……」



ブツブツ呟いて扉を開けると、しかし、そこにいたのはなんとユリアンだった。

もちろんその後ろに、笑顔のミーシャも控えている。


「ユ、ユリアン!どうしてここに……?」


アルクも驚いて、椅子から腰を浮かせる。

ユリアンはアルクの顔を見て、にっこりと微笑んだ。



「お久しぶりです、アルク様。しょこら様、そしてウィル。あら、あなたは……」


ユリアンはソフィアに目を向ける。

しかしソフィアは怖がって、さっとアルクの後ろに身を隠した。


「あなたはソフィアですね。ご無沙汰しております。お元気ですか?」


しかしソフィアは答えない。

するとミーシャも後ろから口を開いた。


「お久しぶりです、皆さま。今日はユリアン様が女王になられて初めて、ヘイデン領を訪問しまして。視察がてら、魔術学校に寄ったのですよ。というのはもちろん建前で、アルク様に会いにきただけですが」


「ちょ、ちょっとミーシャ、あなたまた余計なことを……!!」

「あら、事実ではありませんか。しかし残念ですね、今はソフィア嬢と仲良しのようですよ」

「そ、それは……私はそのようなことは気にして……」



二人は相変わらず元気そうだ。

ソフィアは何となく警戒して、アルクの服の裾をつかんでいる。



「ああ、で、お二人さん、用事はそれだけか……?」


ウィルが呆れたように問いかける。


「悪いがここは狭くてだな、人間三人と猫のしょこらで一杯だ。用がないならこれで……」


「あら、ウィルギリウス様。もちろん用はありますよ。ユリアン様はアルク様とお出かけになりたいのです。少しお貸しいただけますか」


「ええっ、でも僕は今、ソフィアの勉強を……」


アルクが拒否の姿勢を見せると、ミーシャがアルクにニコッと笑いかける。


「あら、筆記試験の勉強ならアルク様なしでも問題ないでしょう。もしくは全員で出かけませんか。ユリアン様はお忙しくて、今日しか時間がありません。試験前日に詰め込みすぎるよりは息抜きした方が、本番で力を発揮できますよ」


「いや、そんなわけ……」



しかし突然、ソフィアがガタっと立ち上がる。

そして小さな声で、はっきりと言った。


「わ、わたしも、いきます……」


「え………」


アルクが呆気に取られていると、ソフィアはそのまま、扉へと向かって歩いて行った。


「あら、嬉しいわ、ソフィア。こうして一緒に出掛けるのは初めてじゃないかしら」


ユリアンは歓迎してにっこり微笑むが、その笑顔がどこか恐ろしかった。



二人が部屋を出て行くと、ウィルは小さく口笛を吹く。


「おい、ユリアンといい、アルクお前、意外と人気なんだな……」

「ああ。こいつはたまに男女問わず、人をたぶらかすぞ」


俺が応じると、ウィルはぎょっとして、腕で自分の体をガバっと抱きしめた。


「ええっ、お前、まさか俺のことも狙ってるんじゃ……」

「な、なんでそうなるんだよ!!」


アルクは思わず叫び返した。


そして結局、アルクは猫の姿の俺を抱え上げ、ユリアンとソフィアの後を追ったのだった。




ヘイデン領で一番大きな町は、例によってヘイデン町と呼ばれている。

大公爵領だけあって、非常に大きくて活気のある町だ。


結局ウィルもついて来て、俺達は五人と一匹で、ぞろぞろ町を歩いていた。



「しょこら様は、人間の姿にならないのですか?そのままだと私とお話ができませんが……」


ユリアンが俺をじっと見つめる。

俺は面倒なので、とりあえずプイッと顔を背けておいた。


するとなぜかソフィアも、俺のことをじっと見つめている。

しかしさすがに、話しかけてはこなかった。



「で、あの、ユリアン、一体どこへ……」


ユリアンは今や、アルクの腕をつかみ、皆の前をずんずん歩いていた。

ソフィアへの対抗心からか、一切遠慮がなくなっている。


「あら、アルク様は町を見物するのが初めてでしょう。私がご案内して差し上げます」



数歩遅れて付いて行く俺達に、ミーシャが飄々と話しかける。


「すみませんね。ユリアン様は相変わらず頭の足りない方でして。それに恋する少女というものは得てして、自分の想い人が同じように自分を想っていると妄信するものです。婚姻はせずとも、アルク様の心は自分に向いていると信じ込んでいます。まあいずれハッキリ断られるまでは、見守ってやってください」


「ちょっとミーシャ!あなたまた何か余計なこと言ってない!?」



何かを察したユリアンが、離れたところから叫んだ。



そんなユリアンの姿を、ソフィアはじっと見つめ返していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ