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31.試験対策

「ごめんね、ソフィア!!僕が口出ししちゃったせいで……!!」



ノールが去った後、アルクはその場にしゃがみ込み、両手を合わせて頭を深く下げた。


「本当にごめん、僕もう一度、君のお兄さんと話して……」

「ううん、いい」



その小さな声に、アルクは顔を上げる。

ソフィアはじっとアルクのことを見つめていた。


「いいの。………あの、ありがとう………ございます………」



そう言い残してソフィアは、小走りでその場を去って行った。



「しょこら、どうしよう、僕余計なことしちゃった……」

「まあ口を挟まなくても、どのみち退学させられてたんだ。少し伸びただけいいだろ。それよりお前、どうせ試験勉強に付き合ってやるんだろ」

「う、うん。だって僕のせいだし……」



仕方ない。俺も人のことは言えないが、アルクもお人好しなのだ。

二週間後の試験まで、しばらく魔術学校での生活は続きそうだ。




俺達はその日以降も、ほぼ毎日初等部の授業に参加する。

そしてアルクはソフィアの練習に付き合った。


ソフィアは今や毎日欠かさず、アルクの元にやって来た。

そして魔法の練習をし、筆記試験の勉強すら、アルクの傍でするようになる。



勉強場所は、ウィルの研究室だった。



初めて俺達がウィルの研究室にソフィアを連れて行くと、ソフィアは怖がってなかなか入ろうとしなかった。

しかしアルクがなだめすかし、何とか部屋に足を踏み入れたのだ。



ウィルはソフィアを見て驚き、歓迎した。



「よお。ちゃんと話すのはほぼ初めてだな。よろしくな!……おい、俺は兄貴たちみたいに厳しくねえから、そんな気を張らなくていいぞ……」


ビクビクしてアルクの後ろに隠れているソフィアに、ウィルが声をかける。


「てかお前、すげえな。ソフィアがここに来るなんて、一生ないと思ってたぜ」


ウィルはアルクに向かって言った。



俺達はウィルにも、ソフィアの兄ノールの話を伝えていた。

ソフィアが学年上位三位以内に入るというのは、正直現実的に厳しい。しかしそれでも、できる限り対策するしかないのだ。



「ったく、ノールの奴も、俺の兄貴と一緒で頑固者なんだ。王族ってのは本当厄介だぜ」

「お前も一応王族だろ」


俺が言うと、ウィルは苦笑する。


「まあ一応な。でも俺はしょこらと同じで、お堅いのは嫌いだ」



ウィルは俺達に、試験内容について説明した。

半年に一度行われる試験で、筆記、実技、郊外での実地試験の3つに分かれているらしい。


「実地試験ってのは、具体的に何をするんだ」


俺が尋ねると、ウィルは何でもなさそうに答える。


「ああ、この町を出て南西に半日ほど進んだとこの山岳に、デカい洞窟がある。魔物がうようよいる。いわゆる迷宮、ダンジョンだ。そこで初級魔物を3体倒すだけだ」

「ダ、ダンジョンなんてあるの!?この世界に!?」



アルクが仰天して尋ねる。

これまで訪れた土地では、そんなものはなかったのだ。



「ああ。知らなかったか?ここアゼリア大陸にある唯一のダンジョンだ。そっか、お前らはフレデール領から北側しかほぼ行ったことないんだったな。歴史の授業でさ、大陸南部で生まれた勇者は、ダンジョンで鍛えたって話も聞いたことあるぜ」



そう言うとウィルは何かを思い出したように、ふと目の焦点が合わなくなった。



「でも、そんなとこで試験なんて、危険じゃないの?まして初等部の試験なのに……」

「ああ、ダンジョンは地下に行くほど魔物が強くなる。地下一階層ならスライムとかその程度だ。魔物がうようよいるから、森でやるより効率的に試験ができるんだ」



するとその時、ソフィアが突然小さな声を発した。


「………あの………。わたし、自信ない………」



皆が一瞬ソフィアを見つめる。

するとアルクが、ソフィアに問いかけた。


「ねえ、ソフィアは、学校を辞めたくない?」


ソフィアは小さく首を振る。


「やめたく、ない……。」

「なら、できるだけやってみよう。僕も、大した役には立たないかも知れないけどさ、力になるから……」



しかしアルクはそう言っておいて、ウィルに助けを求める。


「ねえ、ウィル。ソフィアが魔法をうまく発動できないのは、何か原因があると思う?」

「あ?ああ、うーん、そうだな……」



ウィルは少し考えながら言った。


「生まれつき魔力量が少なくても、それは鍛えたらある程度まで増えるはずなんだ。発動すら困難な状態なら、よく言われるのは精神的な問題だ。

自信のなさ、周囲からの重圧、緊張、精神的苦悩……。そういやノールは、ソフィアは水滴一つ作れないって言ったんだよな?」


「うん……確か、そう言ってたよ」


「でもお前の前では今は、水を滴らせることができる。ならやはり精神的な問題じゃねえか?厳しい家族から受ける重圧が枷になってるか、それとも……。……おいソフィア、本当にお前の気持ち分かるぜ……」



ウィルが言うと、ソフィアはウィルをじっと見つめ返した。

その目からは、最初の怯えはもはや消えている。




それから毎日俺達は、ウィルの研究室に集まった。

共にソフィアの勉強に付き合い、魔法の発動訓練をする。



「すごい、前よりたくさん水が出てるよ!この調子でいけば、ダミー人形に当てるところまでいけるかもしれない!」


試験の5日前、アルクは喜んでソフィアに言った。

今やその手からは、地面から水が湧き出るように、ゆっくりと水が流れ続けている。


ウィルはその様子を見て、顎に手を当てて考える。


「うーん、しかし攻撃を飛ばすにはまだ不十分だ。この調子だとちょっと厳しいな……」


するとソフィアは、たちまち不安げな顔をする。

しかしウィルはソフィアを見て、なぜかニッと笑った。



「へへ、焦んなって。俺がここ数日徹夜で練り上げた、新しい魔法陣を試してみねえか?」



そう言ってウィルは、一枚の紙を机から取り上げる。

そこには転移魔法ほど複雑ではないが、幾何学的な線が入り乱れた図形が描かれている。



「お前が勉強するとこ見てて思ったんだが、記憶力は良いだろ。だからこの魔法陣を覚えてさ、これを介して魔法を発動してみるんだ。少ない魔力でも少しは攻撃力が上がるはずだぜ。……たぶんな!」


「す、すごい!数日でよくそんなもの作れたね!君はやっぱりすごい人だよ、ウィル……」




アルクが目を輝かせて言うと、ウィルは照れくさそうに笑った。



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