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29.ソフィアの強さ

次の日の授業は、実技と講義の二本立てだった。



俺達はなぜか初等部の担当らしく、今日もまた昨日の嵐の再来だった。

子供達は俺の姿を見ると喜び、すぐに尻尾をつかもうとする。



「ウィルの奴、一番キツい組を俺達に押し付けてんじゃねえだろうな……」

「ま、まあまあ、初等部が一番人手不足だって言ってたし……」


不平を漏らす俺を、アルクがなだめる。



しかし生徒たちは騒がしい割に、飲み込みは非常に早かった。

何度か練習を繰り返すと、すぐにほぼ全ての生徒が、ダミー人形に攻撃を当てる事ができたのだ。


最も、一人の生徒を除いてではあったが。



ソフィアは再びアルクに見守られ、皆から離れて練習していた。

しかし何度やっても、手のひらに水滴を作り出すことで精一杯だ。



「えっと、焦らなくていいよ。ソフィアのペースで、大丈夫だから……」


また泣きそうになるソフィアを見て、アルクは慌てて言った。




しかしその時、一人の生徒がソフィアに向かって声を張り上げる。


「おい、おまえ!まだそんな弱っちい魔法しか作れないのかあ!?」


アルクは驚いて振り向く。

すると他の生徒も、ソフィアを見て小さく笑い声を上げだした。



「王族なのに、ぜんぜん魔法がつかえなくて、かわいそうだね」

「わたし、生まれたときから、あれぐらいはできたよ」

「しっ、あんまり言うと、かわいそうだよ……」



こそこそ囁く声を聞いて、ソフィアはついに目に涙を浮かべる。

アルクは思わず立ち上がり、生徒たちに向かって言い返そうとした。



しかしその時、生徒たちは一斉に、ヒッと息を呑む。

背後からゴゴゴゴゴという物凄い威圧感を感じたからだ。



「………おい、お前ら………。調子こいてんじゃねえ、人の事馬鹿にする暇があったらとっとと練習しろ。俺からするとお前らは全員漏れなく雑魚だ」



俺は腕を組み、仁王立ちで生徒達をギロリと見下ろし言い放つ。


「は、はい、猫耳先生!!」


全員が姿勢を正し、元気に返事をして、再びダミー人形を攻撃し始めた。



「ざ、雑魚って……。でも、しょこら、ありがとう……」


アルクはぼそっと呟き、ソフィアに向き直った。


「えっと、気にしなくていいよ。成長の速さなんて人それぞれだし、それに……王族だからとか、そんな事も全然関係ない。ソフィアはソフィアだよ」



ソフィアの目からは、涙はこぼれなかった。

ただアルクを見つめ返して、小さくこくりと頷いた。




午後は教室での授業だ。

教師が教壇に立ち講義するのだが、俺達は講義に出てくる魔法を実演する役割を与えられた。



「魔法の基本属性は火・水・風・土・光・闇と以前言いましたね。勇者や魔族以外の人間が使えるのは火・水・風・土の四つですが、まれに光魔法を使える者も存在します。回復魔法・治癒魔法は光魔法の一種です。なおバリアや結界を作り出す防御魔法は特殊魔法の位置付けで、どの基本属性にも該当しません。発動には訓練と十分な魔力が必要です。ここで勇者様にバリアを見せていただきましょう……」



教師の話を聞きながら、猫の姿に戻った俺はほとんど寝ている。

アルクは全員に注目され、ガチガチに緊張しながらも、教壇の上で魔法を実演していた。



講義の間もソフィアは、一番端っこの席でぽつんと座っているだけだった。




「ああ、もうだめだ、疲れた……」


授業が終わるとアルクは、生徒がいなくなった教室の長机に突っ伏してため息をつく。

実技ではずっとソフィアにつきっきりだったので、アルクは俺を休ませるため、講義の助手のほうは全て引き受けたのだ。


「教えるのってすごく大変なんだね……」


アルクはそのまましばらく、顔を上げない。



俺が何となく教室内を見回すと、ふと、まだ端っこの席に座ったままのソフィアの姿が目に付いた。

気配を消しているので、全然気づかなかったのだ。



ソフィアは遠目に、アルクのほうをじっと見ている。

俺はアルクの頭を、右前足でちょんとつついた。



「え、どうし……」



アルクは顔を上げ、そしてソフィアの存在に気付く。

ソフィアが何も言わないので、アルクが声をかけた。



「えっと、ソフィア、どうしたの……?」



しばらく動かなかったソフィアだが、さっと立ち上がり、こちらに駆け寄って来る。

そして俺達の前でピタリと止まった。



「……………」

「………えっと、授業で何か分からないことが……?」


無言のソフィアにアルクが尋ねる。

すると、やっとソフィアがおずおずと口を開いた。


「………あの………もうすこし、練習したくて………」



アルクはパッと顔を輝かせる。



「うん、もちろんだよ!今から一緒にやろう!」



それから一時間以上、アルクはソフィアの練習に付き合った。

疲れていたにも関わらず、全くお人好しな奴だ。




ソフィアが寮へと小走りで戻る後ろ姿を眺めながら、アルクは言った。


「僕、ソフィアが、本当は魔法が嫌いなんじゃないかと思ってたんだ。でも、ちゃんと上達したいって気持ちがあったんだね。それに……」


アルクはそこでふと言葉を止める。


「それに何だよ」


「えっと、僕、どこかでソフィアを、前世の自分と重ねてたんだ。だけどソフィアのほうが、すごく強い。僕だったら、自分から周りに助けを求めることなんてできなかった……」




それからソフィアは毎日のように、アルクに練習をお願いするようになるのだった。



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