27.授業初日
「わああ、すごい!ねえこれ何!?なんで尻尾生えてるの!?」
「ねえ、耳さわらせて!耳さわらせて!」
「ぼくは尻尾がいい!尻尾さわらせて!!」
実技訓練を手伝う初日、俺は授業開始前からげっそりしていた。
ウィルが俺達に頼んだのは初等部の連中、それも10歳未満の子供達の実技訓練だ。
8歳から9歳程度の子供が数人、俺を取り囲んでわーわー騒ぎ立てている。
「ちょっと、みんな、落ち着いて……だ、だめ、尻尾は触らないで!」
アルクはわたわたと、子供達を落ち付かせようとする。
しかしどいつもこいつも、俺の耳と尻尾に興奮して言うことを聞かない。
俺はそのうち舌打ちをする。
「チッ……おいお前ら、ガキだからって好き勝手したら容赦しねえぞ。ちょっとは大人しくしやがれ……」
俺が腕を組んでゴゴゴゴゴゴと威圧的な視線で見下ろすと、子供達はなぜか喜び、再びキャーキャー騒ぎ立てた。
「こわーーい!!」
「うわああ、ころされちゃう!」
「にげろおおお!」
完全に面白がられている。
俺は大きなため息をついた。
そこへウィルが登場した。
俺の言葉を聞いていたようで、面白そうに笑っている。
「ったく、しょこらは、子供に対しても容赦ないんだな!」
「俺は子供は苦手なんだ。もっと年上の奴らの担当でも良かったんだぞ」
「はは、悪い。初等部が一番大変なんだよ、頼むぜ……」
ウィルがアルクの方を見ると、アルクも数人の生徒に取り囲まれ、手や服の袖を掴まれている。
「ねえ、勇者なんでしょ!魔法みせて!」
「光魔法みせて!ライトアローってやつ!!」
「全部みせてよ!火も水も土も風も!全部みたい!!」
「みんな、おおお落ち着いて……」
アルクがおろおろしていると、ウィルが大声で全員に声をかける。
「おいみんな、集合!今から実技訓練を始めるぞ!!」
ウィルが叫ぶと、全員素直にウィルの前に集まった。
実技は簡単なものだ。校庭に並べられているダミー人形に、魔法を打ち込んでいくというものだ。
ウィルは忙しいようで、俺達に段取りだけを説明する。
「ごめんな、俺は中等部の方に行かなきゃなんねえんだ!屋内の訓練所にいるから、何かあったら呼んでくれ!」
そう言って、さっさと姿を消してしまった。
「本当に、人手不足なんだね……」
アルクはウィルの後ろ姿を見送りながら言った。
やることは単純だった。
まず俺とアルクが見本を見せて、それから順番に子供達に実践させる。うまくできない者には、要領を説明してやるのだ。
「説明なんてできるかな。不安だ……」
アルクがぼそりと呟く。
最初にアルクが見本を見せる事となった。
子供達はまたワーワーと大声で騒ぎ、叫んでいる。
「がんばれ、勇者!」
「光魔法!光魔法やって!」
「ぜんぶ!ぜんぶみたい!!」
アルクは苦笑しながら、とりあえず要望に応える。
光魔法でライトアローを作り出し、ダミー人形を一瞬で貫いた。
子供達から、キャーキャーと歓声が上がる。
「すげー!!はじめてみた!!」
「もっかい!もっかいやって!!」
「他のもみたい!ぜんぶやって!!」
結局アルクは、全属性の魔法をその場で披露した。もちろん、闇魔法以外だが。
『しょこら、こんなんで、授業になってるのかな……』
喚き立てる子供達の声に邪魔されないよう、アルクは俺に念話で問いかける。
『まあ大丈夫だろ。重要なのはこのあとの実践だ』
しかしそれから、子供達は俺にも同じ要望を投げかける。
アルクが既に十分見本を見せたし、俺は面倒なので正直拒否したかった。
「えーー、みたい!みたいみたい!」
「同じのでいいから、みせてよ!」
「それか耳さわらせて!!」
「ああもう、うるせえな!」
俺は再びチッと舌打ちして、面倒なので魔法を連打した。
走りながら右手と左手で交互に炎、水、土、風を噴射して次々にダミー人形を粉砕した後、手を頭上に向けてライトサンダーを発動し、稲妻でまた数体のダミー人形を切り裂く。
最後に何本もの氷の矢を発射し、そこに並べてあった全ての人形を八つ裂きにした。
正直やり過ぎだが、俺の目的は単なるストレス発散だ。
ダミー人形は自動修復するので、壊れても問題はない。
しーんと静まり返った子供達は、次の瞬間、わあああああと大声で歓声を上げた。
「すげえ!猫耳すげえええー!!」
「わたしもやりたい!どうやってできるの!?」
「耳さわらせて!!」
それからアルクは全員を何とか落ち着かせ、ダミー人形の前に並ばせた。
「ほら、みんな並んで、順番にやってみて。人形に向けて、できる限りの力で攻撃するんだよ」
騒いでいた子供達は、ちゃんとアルクの言うことを聞いた。
一人目から順に、小さな手でダミー人形を攻撃していく。
ほとんどの生徒は、弱々しく風や土魔法を発射し、明後日の方向に飛ばすだけだった。
一番良くできる者でも、人形に僅かにかすっただけだ。
「どうやって的に当てるの!?教えてよ、猫耳先生!」
「ねえ、もっかい見本みせてよ、それ真似するからさ!」
「耳さわらせて!!」
俺が子供達の相手をしていると、アルクはふと、皆から離れたところにポツンと立っている女の子を見つけた。
女の子は遠巻きに皆を見つめて、騒ぐこともせず、静かに立っている。
アルクはその子の方へと歩いて行った。
「えっと……どうしたの?」
アルクがしゃがんで声をかけると、女の子は少しビクっとする。
質問には答えようとしない。
アルクはその子をじっと見つめた。
その髪は淡い灰色で、肩の下あたりまで伸びている。華奢で小柄で、まるで何かに怯えるように周囲の様子を伺っている。
アルクはその時、ふと思う。
その怯えた様子は、前世の自分の子供時代にそっくりだった。
周囲の子供達は、誰もその子に話しかけようとしない。
まるで存在を完全に認識されていないかのようだ。
「……えっと、君、名前は……?」
アルクが遠慮がちに尋ねる。
すると女の子は、恐々とアルクを見つめ返し、小さく呟いた。
「ソ、ソフィア……」




