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26.秀才か変態か

魔術学校に着いた初日、ウィルは俺達に校内を案内した。



「さすがに今日からいきなり手伝ってくれとは言わねえよ!ざっと案内するからさ、あとは適当に見て回れよ。学長も承知してるから大丈夫だ」


ウィルはそう言って、俺達を色々な場所へと案内した。


校舎こそ小ぢんまりしているが、その敷地は広大だ。生徒が授業を受ける本館があり、屋内と屋外の実技訓練所があり、学生専用の図書館がある。そしてウィルが大半の時間を過ごす研究室があり、食堂や寮があった。



「俺は飛び級で高等部過程を既に終えた。だから今は研究と、あとは初等部生の教育のために学校に残ってんだ。」


ウィルは何でもなさそうに言った。


俺達が校内を歩き回る間にも、様々な生徒がウィルに声をかけていく。



「ウィル!研究の調子はどうだ?」

「あ、ウィル先生!こないだ教えてもらった魔術、少しできるようになりました!」

「ウィルせんせいだ!!ねえ、またあの魔法みせてよ!!」



同い年ぐらいの者もいれば、まだ幼い子供もいる。

皆がウィルに好意を示し、同時に敬意を払っているようだ。



俺は猫の姿のまま、ポンとウィルの足に前足を置く。


「おい。すまない。俺は正直、お前のことを誤解していた」


アルクも俺に合わせて頷く。


「おい、お前ら、俺のことを一体なんだと思ってたんだよ……」


「何って、もちろん、ただの変態だよ」


「お前なあ!!」


アルクはウィルの反応を見て、愉快そうに笑った。




研究室に戻ると、ウィルはドサリと椅子に腰かけた。

そして俺達には、狭い空間にあと二つ、辛うじて置かれている椅子を勧めた。



「お前、ここで転移魔法の研究をしてるのか?」


俺が尋ねると、ウィルは思い切り伸びをしながら言う。


「ああ。でもそれはほぼ趣味みたいなもんだ。主な研究はこないだ模擬戦で見せた、魔法陣による魔法生成だ。魔法陣が操れるようになれば、俺がやって見せたみたいに、持って生まれた属性以外の魔法も使えるようになる」


「でもさ、それって、すごいことだよね。ウィルはもっと、有名になってもいいぐらいなのに……」



アルクがまた関心して言ったが、ウィルは苦笑する。



「いや、すごいと言っても、正直実用的じゃないんだ。魔術を学ぶ者は、大半がその能力を生かして冒険者とか、王宮や貴族の護衛の任につく。だけど見ただろ、魔法陣は全く実戦向きじゃない。」


ウィルは机に雑多に積まれた紙の一枚を拾い上げる。


「便利には違いないが、日常生活で全属性の魔法が必要になることなんて、ほぼないからな。だから研究費の無駄だって言われることもあるんだぜ」


「そ、そうなんだ……」



それでもウィルは、魔法陣の可能性を信じているという。

戦闘に限らなくとも、魔法陣一つで空を飛べたり、水の中で生活したり、それこそ空間転移ができたり、実現したいことは山ほどあるようだ。



「夢みたいな話だけど、すごく大変そうだね……。生きているうちに全部実現するのは、難しいんじゃ……」


アルクがそう言うと、ウィルは目を輝かせて返事をする。


「もちろんだ、研究は何世代も引き継がれて成果が表れるもんだ!俺が少しでも研究を進めて、それがいつかの未来で、すげー魔術の実現に結び付くなら、そんな嬉しいことはねーだろ?

例えばさ、もし時空を操る魔術が完成したら、未来人が研究を続けた俺に、礼を言いに来てくれるかもしれないぜ!……まあ、ありえない話だけどさ、夢見る分にはいいだろ?」



ウィルは少年のように目をキラキラさせている。

全く、本当にただの猫耳フェチではなかったのだ。



「それに今後は、魔法陣を発動させるための魔力量を極限まで減らす研究も進める。そうすれば生まれつき魔力に恵まれなかった者でも、ある程度の魔法が使えるように……」



熱心に話し続けるウィルの姿を見て、今度はアルクが苦笑する。


「ねえ、ウィル」

「なんだよ」

「君、僕のことをライバル視してたと言っていたけど、そんな必要全然ないよ。君は僕の何十倍もすごい人だ」



それを聞いて、ウィルは小さく笑顔を見せた。




「で、俺達は具体的に何をするんだ」


ウィルが一通りの説明を終えると、俺はウィルに問いかける。


「ああ。主に実技訓練の指導だな。まさか教壇に立って講義しろとはさすがに言わねえよ。まあ、それも助手ぐらいの役割はしてもらうと思うが」


「僕、正直言って、教師としての才能全然ないよ。大丈夫かな……」



アルクは、リーンの訓練を思い出す。

リーンは喜んでいるものの、アルクができる事といえば、実際に技を見せるぐらいだった。



「大丈夫だって、正直、全属性の魔法が使えるってだけでありがたい。実際にやって見せることのできる教師が少ないんだ、俺だって魔法陣なしで使えるのは土魔法だけだしな。ましてや光魔法なんて、本物を間近で見る機会なんてそうそうないね」


「そう……。まあ、やって見せるぐらいなら、できると思うけど……」


アルクがまだ不安そうに呟く。



「おい、俺も実技に参加するんだろ。猫のままで大丈夫なのか」


俺が尋ねると、ウィルは少しすまなそうに答える。


「ああ、それな。できれば生徒たちの質問にも答えてやってほしいし、猫耳忍者のほうで……」


俺はため息をつく。

まあ、そうだとは思っていた。



「あとさ、しょこらには他の事にも、ちょっと力を貸してほしくてだな……」

「なんだよ」



ウィルは何となく、また目を泳がせる。



「えっと、変身した時の姿について調べたいんだ。耳の部分が皮膚とどう繋がってんのか、骨はどうなってんのか、あとは猫の時と人間の時とで、感情の変化はあるか、それから……」



するとアルクは、突然バッと俺を抱きかかえる。



「やっぱりだめ……ただの変態だ……」


「お前なあ!!これはれっきとした、変身魔法の研究で……!!」



やれやれ。



とにかく俺達は翌日から、初等部の授業へと参加する事となったのだった。



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