24.収束
結局その日、ミーシャは解放された。
民衆は国王の言葉に、すんなりと納得した訳ではなかった。
しかし国王が辞任し、責任の所在が明らかになったことで、ミーシャの処刑を断行する必要はなくなったのだ。
「まっ、これから大変だと思うが、何とかなるだろ!」
ウィルは楽観的にそう言った。
アルクもとりあえず、処刑がなくたったことに胸を撫で下ろした。
「本当によかった。これで、ユリアンはこれからも、ミーシャと一緒にいられるよね……」
「まったく、最初からこうすれば良かったんだ。男しか王位を継げないなんざ、勝手な思い込みだ。頭の固いジジイめ」
「ちょっとしょこら、国王様に向かってジジイは……」
「もう辞任したんだから王じゃないだろ。ただのジジイだ」
俺がそう言うと、アルクもウィルも笑った。
俺達が話していると、背後にミーシャが現れた。
縄は解かれたが、執事の任を解かれることはなかったのだ。
ミーシャはじっと俺達を見つめた後、口を開く。
「あなた達が、国王様を説得したのですね」
「説得なんざしていない。ただイラついたから思ったことを言ったまでだ」
俺がフンと答えると、ミーシャはニコッと笑う。
「本当にあなたは面白い。全く予測のできない人だ。しかし心優しいのですね、魔族のわりには」
どうやらミーシャは、ユリアンから俺の話を聞いたらしい。
「フン、俺には血なんか関係ない。それに魔族なんか、ただの阿呆の集まりだろ」
「それは同感ですね」
ミーシャは猫の姿の俺の前に、膝をついた。
「あなたには無礼を働きました。ここに謝罪します。この御恩は一生忘れませんよ」
「それはどうでも良いが、とにかく転移魔法のことは口外するなよ。力が知れ渡ると面倒だ。あと闇魔法は今後使用するなよ」
「もちろんですとも」
そしてミーシャは、俺達の前から去って行った。
数日後、王宮でユリアンの戴冠式が行われる。
王宮の前には再び民衆が埋め尽くし、新しい女王の誕生を、おおむね歓迎していた。
派閥争いに必死だった大公爵家や上位貴族も、結局ユリアンが王位を継ぐことを受け入れた。
権力がどちらかの派閥に移らず、そのまま王家に留まることが、結局誰に取っても平和的な解決方法だったのだ。
俺とアルク、ウィルはまた特別に宮殿内に招かれ、門の内側でユリアンに王冠が載せられる姿を眺めた。
ユリアンの後ろで、ミーシャはいつもの笑みを浮かべている。
「本当に、良かった。二人がずっと一緒に居られて……」
アルクは目を輝かせながら、ユリアンとミーシャを見つめていた。
「良かったな、もう無理矢理婚姻させられる事もなくなるぞ!」
ウィルが二カッと笑うと、アルクも苦笑する。
その夜、俺達はまた宮殿に滞在した。
俺は宿屋の方が気楽だし、帰ると主張したのだが、ユリアンがどうしてもと懇願したのだ。
ユリアンは俺達を部屋に招き入れ、改めて礼を言った。
王位継承を宣言して以降、ユリアンは非常に多忙だった。俺達に改まって話をする機会が、今までなかったのだ。
「しょこら様、アルク様、そしてウィル。三人とも、本当にありがとうございました。改めて、今回の騒動に巻き込んでしまった事、謝罪します」
ユリアンはペコリと頭を下げる。
「私はあの日、しょこら様から言われた一言で目が覚めました。これまでお父様のために尽くそうと願いながらも、自らが王になることなど、考えてもみませんでした。私は本当に偏狭でした」
ユリアンは顔を上げ、俺達を見てにっこりと笑った。
「これからは女王として、民のために務めます。まだまだ未熟者ですが、きっとこの国を、もっと良い国にしてみせます。誰にとっても住みやすい国に」
「そんなにかしこまってないで、少しは力を抜いたらどうです?」
ミーシャが突然、ひょいとユリアンの背後から顔を出して言った。
「友人達の前でぐらい、いつもの馬鹿な娘に戻ったって良いでしょう」
「なっ、ミーシャ、あなた本当に不敬罪にしちゃうわよ!!」
「おや、言ったではないですか、これは不敬ではありません。ただの愛情表現ですよ」
アルクとウィルは、二人のやり取りを見て笑った。
するとミーシャはアルクに目を向ける。
「アルク様、どうです、女王の婿になるおつもりは?もはやあなたが王になる必要もない。今度こそ引きこもり生活を保障しますよ。しょこら様も一緒に王宮に住めます」
「いや、まだ諦めてなかったんですか!もう勘弁してください……」
アルクが弱々しく言うと、今度はウィルとユリアンが笑った。
その夜アルクは、猫の姿の俺を抱き枕にした。
暗闇の中でぎゅっと俺をかかえ、匂いを嗅いでくる。
「おい、あまり締め付けるなよ」
「ごめん。でも、やっと落ち着いて眠れるから……」
アルクはしばらくの間、俺の姿を見下ろす。
「ねえ、しょこら」
「なんだよ」
「あの、ありがとう。あの日、僕を助けてくれて。ちゃんとお礼を言ってなかったから……」
アルクは俺が、転移魔法を使ってアルクを連れ出した日のことを言っているのだ。
「ごめんね。僕のせいで捕まった上に、あんな複雑な魔法まで覚えてくれて……」
締め付けるなと言ったのに、アルクはまたぎゅっと腕に力を入れる。
「本当にありがとう」
「分かったから、ちょっと離せ」
「いやだ」
「………」
「うわあああっ!!!」
俺はまた、猫耳忍者に変身する。
反動でアルクの腕は無理矢理振りほどかれた。
「ったく、さっさと寝ろよ」
俺はそう言って眠ろうとしたが、どうやら逆効果だったようだ。
アルクは再び、がばっと後ろから俺に抱き着いた。
「おい……」
俺が呆れて声をかけると、アルクは急に尋ねる。
「しょこら、あのさ……。もしも僕がウィルだったら、しょこらは同じように受け入れてた?」
ちょっと何を言っているのか分からない。
「どういう意味だ」
「えっと、だから……。もし勇者として生まれたのがウィルで、しょこらがウィルと一緒に旅をしてたとしたら…………」
やれやれ。こいつはどうしていつも、馬鹿な妄想ばかりするんだ。
「そんな架空の話をしても仕方ないだろ」
「そうだけどさ。なんかしょこら、ウィルとも仲が良いし、気になっちゃって……。ねえ、どうなの?」
「知るかよ、そんなこと」
俺がそう言うとアルクは急に、腕にぎゅっと力を込める。
「ねえ……しょこらは、僕のだよね?」
アルクが静かに言う。
「今さら何言ってるんだ。さっさと寝ろ」
俺はフンと鼻を鳴らして、そのまま眠りについた。




