23.国王の宣言
「おいしょこら、お前すっげーカッコよかったぜ!!」
執務室から離れると、ウィルががばっと俺の肩を組みながら言った。
「しかしヒヤッとしたぜ!お前、一歩間違えれば不敬罪で捕まるところだぞ!!」
「ちょっと、あまりしょこらにくっつかないで……!!」
アルクは焦って、ウィルを俺から引き剥がそうとする。
しかしウィルはニヤっと笑ってアルクに言い返した。
「へん、嫌だね!お前はいつもくっついてるから良いだろ、たまには譲れよ!俺だってしょこらが好きなんだ!」
「なっ、というか君、さっきもどさくさに紛れてしょこらのこと好きとか言ってたよね!?」
「おう!だって事実だからな!」
「いいから、いい加減離れて……」
「おいお前ら、うるさいぞ」
俺はため息をつきながら言った。
しかし今まで我慢してやってた分、国王に思い切り意見して俺はスッキリしていた。
「これであの阿呆の王が、何かしら手を打てばいいんだが」
「あ、阿呆って……。でも、国王様、考え直してくれるかな……」
すると、俺達の会話を聞いていたユリアンが、ぴたりと立ち止まる。
そして俺に向かって声をかけた。
「あ、あの、しょこら様!」
「なんだよ」
「あの、本当に、ありがとうございました。私達のために、ご自身の秘密まで打ち明けて、お父様を説得していただいて……」
説得というか、ただ暴言を吐いただけだが。
「あの、私、もう一度お父様とお話してきます!!」
そう言ってユリアンは、くるりと振り返り、国王の部屋へと戻って行った。
「ユ、ユリアン、大丈夫かな……」
「さあな。あとは任せときゃいいだろ」
そもそもこれは王室の問題だ。俺達が口を挟むまでもなく、本来はユリアンや国王が対処すべきことなのだ。
結局その夜俺達は、宮殿に滞在する事となる。
俺とアルク、そしてウィルで、それぞれ部屋が充てがわれた。
やがて夜が明ける。
俺とアルクはウィルと合流するが、ユリアンは部屋にいなかった。
そして窓の外を見ると、民衆が王宮の門の外をぐるりと取り囲んでいる。
「う、うわ、皆集まってる……。あの人達、ミーシャの処刑を見に来たのかな……?」
アルクが不安そうに言う。
ウィルも顔を曇らせて外を観察していた。
「ったく、物好きな連中だよな……」
俺達は宮殿内を探し回ったが、ユリアンを見つけることはできなかった。
そのうち、処刑の時間が近づいて来る。
俺達は外に出て、王宮の庭の隅から様子を伺った。
門の周囲では民衆がざわめき、大声で叫んだり、野次を飛ばしたりしている。
「さっさとあの魔族を連れて来い!」
「俺達の目の前で、その首を斬るんだ!!」
「魔族が王宮にいるなんて、安心して夜も眠れないわ!」
するとその時、宮殿の正面扉が開いた。
そこにはアゼリア国王と、その隣にユリアンの姿があった。
「ユ、ユリアン……」
アルクが心配そうに、遠目から二人の姿を見つめる。
するとそこへ、別館から兵士達に連れられたミーシャも姿を現した。
縛られてはいるが、その顔は恐れる様子がなく、全く平然としている。
ミーシャの姿を見ると、民衆のざわめきは一層大きくなる。
国王とユリアンは庭の中央へと歩いて行き、そこで足を止めた。
そして国王が、また拡声器のような魔道具を手にする。
国王が手を上げると、周囲は静まり返った。
「……皆の者、まずは此度の件、国王である私から謝罪する。誠に申し訳なかった。」
拡大された声で、国王は民衆に向けて謝罪した。
町人はざわめき、再び叫び出す者もいる。
「今回の騒動について、まずはきちんと説明しよう。そもそもの始まりは、私が勇者を次期国王に据えようとしたことだ。それはあくまで国王としての一存であり、そこにいる執事、ミーシャの意図とは一切関係がない」
ミーシャは少し目を開いて、国王を見た。
「彼女が魔族であることは事実だ。だがしかし、彼女は闇魔法を扱えず、魔族から追放された身だ。今回の騒動とは何の関係もない。単に、折悪く魔族であることが露見したせいで噂に尾ひれがつき、濡れ衣を着せられたのだ。……嫌、私のために、濡れ衣を自ら被ったのだ」
民衆のざわめきは一層大きくなった。
口々に、国王に向かって何かを叫んでいる。
「そんなこと、信じられるか!」
「闇魔法が使えなくても、魔族は魔族でしょう!」
「なら国王が責任を取れ、今すぐ王位を降りろ!!」
その声に応えるように、国王は話し続ける。
「最もだ。危険はないにせよ、魔族を王宮に置くことで、民に多大なる心配をかけた。そして今回の騒動の原因も全て私にある。したがって、私は、本日をもって王位を退く事とする」
民衆の声がピタリと止まった。
ミーシャは口を開けて、国王の姿を見つめた。
「ええっ、退くって……じゃあ次の国王は誰に……?」
アルクも驚いて、国王を見つめている。
しかしその隣にいるユリアンに目を向け、ふと思い当たる。
「も、もしかして……」
どうやらユリアンは、昨日俺が言い放った言葉を本気にしたようだ。
「そして、次期国王には、ここにいる我が第一王女、ユリアンを任命する事とする」
国王の言葉に、周囲は一瞬、完全に静寂に包まれる。
しかし次の瞬間、一層大きなざわめきが王宮を覆った。
「だけど、王位は男系男子に限られてるはずじゃ……」
「女性の国王なんて、聞いたことがないわ」
「大公爵家に王子たちがいるじゃないか!なぜわざわざ王女に……」
国王は手を上げて、再び町人達を制した。
「これまでわが国は、古いしきたりに囚われていた。王位は代々、男系男子が継承するものだと。しかしそうしなければならない理由は何もない。女子であろうとその責務を十分に全うできるはずだ。前例がないのであれば、これが最初の前例となる」
ウィルは国王の言葉を聞いて、小さく口笛を吹いた。
「そして我が国はユリアン女王の下、そういった無意識の偏見に囚われない、新しい国家へと生まれ変わることを誓おう。女性であろうと男性であろうと、機会は平等に与えれられる。そして、例え種族が異なっても、同じ心を持つ者であれば、共生していける国家を作るのだ」
国王がミーシャに目を向ける。
ミーシャはまだ、茫然として国王を見つめていた。




