21.告白
「そ、そんな……」
ユリアンが言葉を詰まらせる。
「だけど、お父様は一体どうやって、ミーシャが魔族だと確認したの?」
「王族には代々伝わる魔道具があるのですよ。水晶のような形で、手をかざすと闇魔法を持つものを検出できる。微弱ながらも魔力を持つ私は魔族だとあっという間に露見しました」
まったく、そんな便利なものがあるなら、なぜ闇魔法以外を検出できる魔道具がないのだ。
それさえあれば、アルクが一歳の時にあの大層な鑑定の儀式を受ける必要もなかったのだ。
「何百年も昔、魔族が人間に扮して王族に取り入ろうとした事件がある。それがきっかけでその魔道具が開発されたのです。しかしこれまでの数百年、その水晶の出番はなかった。魔王が力を取り戻す前に、王宮まで近づける程の力を持つ魔族などそういませんから。」
ミーシャは何でもなさそうに説明する。
「それがようやく今回、役に立ったという訳ですね。しかし魔族だと知られた以上、国王様だって私を生かしてはおきませんよ。そんなことしたらそれこそ、王の座が危うくなります」
「そ、そんな、でも……」
ユリアンはまたポロポロと、涙を流し出す。
それを見つめていたミーシャは、やれやれとため息をついた。
「ユリアン様。あなたもいい加減、目を覚ましても良い頃です」
「ど、どういうことよ……」
ユリアンは小さく鼻をすすりながら尋ねる。
「本当に分からないのですか?あなたが森で私を発見した時、私はあなたにも闇魔法を使った。だからあなたは私のような得体の知れない者を、王宮へと連れ帰ったのです」
ミーシャはユリアンに、鋭い視線を向ける。
「それからも私はあなたの信頼を得るため、常日頃からあなたを操っていました。つまり利用していたのですよ。今回もそうです、そこの勇者が次期国王となれば裏で実権を握るのは私だと言ったでしょう。所詮それが目的です。私はあなたの友人などではありません。分かったなら、さっさと出て行ってください」
ミーシャはわざと突き放すような言い方をした。
それでもユリアンは食い下がる。
「いくら私が馬鹿だからって、そんなこと、信じる訳ないでしょう!」
ユリアンはわなわなと体を震わせている。
しかしその時、部屋の外で物音がした。
誰かが階段を下りて、こちらへやって来る。
「あなた達、ここにいる事を見られたらまずい。さっさと戻りなさい。転移魔法のことは口外しませんよ。その代わりユリアン様を早く連れて行ってください」
ミーシャは俺達に向かって言った。
「おい、見つかったら本当にやばいぞ。一旦ここは離れよう」
ウィルがそう言い、俺達は仕方なく、再度魔法陣へと足を踏み入れた。
部屋に戻ってから、ユリアンはソファにへたり込み、さめざめと泣き出した。
両手で顔を覆い、手の間から小さく声を漏らす。
「どうしましょう、私には、どうすることも……」
その後俺達はすぐに、ミーシャの処刑が決まったと知らされる。
明日の朝、民衆の前で斬首刑が執行されるという。
そこまでして国王が処刑を急ぐのは、そうしなければ怒り狂う町人達を鎮めることができないからだろう。
「な、そんな……そんな急に……」
アルクはあまりのことに、言葉を失う。
「だってそんな、ミーシャは誰かを殺めた訳でもない。命を奪われる程の大罪なんて、犯してないじゃないか!」
アルクが必死に訴えるも、ウィルはふさぎ込んで言う。
「いや、魔族ってことを隠して王宮に入り込んだだけで大罪だ。それなら本来死刑は免れない。だけど正直、胸糞悪いよな……」
「じっとしていても仕方ない。国王のところへ行くぞ」
俺がそう言って立ち上がると、皆驚いて俺を見る。
「だけど、しょこら、国王様は僕達に会ってはくれないよ……」
「知るか。なら無理矢理扉を蹴破るまでだ」
俺が先陣切ってずんずん歩き出すと、あとの3人は慌てて俺の後を追った。
そして俺は国王がいる執務室の前に立つ。
扉の前には兵士が二人いて、案の定俺達を制止する。
「ここは誰も通せない。例えユリアン王女様でもな。悪いが引き返して……」
パーーーーーン!!!
兵士が言葉を終えないうちに、俺はその頬を思いっきり猫パンチ(人間の手だが)する。
そして呆気に取られたもう一人の兵士の顔も、同じように張り倒した。
兵士達は吹っ飛び、床に倒れ込んで気絶した。
「おおおおい、しょこら!お前、まずいぞ、下手したらお前まで捕まる……」
ウィルが焦って、扉に向けて足を振り上げる俺を後ろから羽交い絞めにする。
しかし俺はその腕を無理やり振りほどいた。
「フン、もうこれ以上、お堅い王宮のやり方に合わせてられるか!元々俺はそういうのが大嫌いなんだ」
そして俺は、思い切り扉を蹴破った。
バアアアアアァァァァン!!!!
アルクを救出した時と同様、扉は壁にぶち当たり、木材の破片がバラバラと落ちる。
そして国王は同じ椅子に腰かけ、またもや目を丸くして俺のことを見た。
俺達が4人でどかどかと部屋に入ると、しかし、国王は特に咎めなかった。
「……其方達、ミーシャのことで来たのであろう」
国王は静かに口を開いた。
俺は敬語を使うことすら疎ましいので、礼儀など一切構わず国王に向かって言う。
「おう。その通りだ。明日の処刑は止めにしろ。あいつは何の罪も犯していない」
俺が威勢よく言い放つと、国王は少し面食らったようだ。
そして意外なことに、小さく笑みを漏らした。
「王である私に向かって、そのような物言いをする者は初めてだ。だが構わん。其方達の言い分を聞こう」
「あいつは確かに魔族だ。だが奴の魔力は弱すぎる。精神操作できる程の力はない。アルクの奴は俺が囚われたと勘違いして、ここに留まっていただけだ」
「しょこら……」
アルクは心配そうに、後ろから俺を見つめる。
「魔族だからという理由だけで処刑する必要はないだろう。それに奴はミーシャの唯一の友人だ。お前が娘と十分に対話できない間、誰が娘を支えていたと思ってるんだ」
ユリアンは俺の言葉を聞いて、またポロポロと涙を流した。
後ろから小さく、俺の名前を呼ぶ。
「しょ、しょこら様……」
国王は俺の話を聞いて、ゆっくりと頷く。
そして机の上にひじを突き、組み合わせた両手の向こうから、俺の目をじっと見つめた。
「其方は勇者アルクの従魔の、あの黒猫だそうだね。誠に心優しい者だ。しかし残念ながら、魔族である事を隠していたのは事実だ。それ自体が大きな罪であり、民衆は怒り狂っている」
「隠さざるを得ない世の中のほうが罪だろう。魔族だと素直に告げていたら、お前はミーシャを早々に処刑していたんじゃないのか」
俺がそう言うと、国王はまた少し目を大きくした。
しばらく無言で考えていたが、また俺をまっすぐに見る。
「其方の言う通りだ。訂正しよう。我々にとっては、魔族であるという事実自体が、罪なのだ」
「ただ種族が違うことが、罪なのか?」
「残念だが、その通りだ」
「なら俺のことも処刑するか?」
国王は意味を図りかねたようで、黙って俺を見つめ返す。
俺の後ろで、アルクが呻き声を上げた。
「俺は魔族だ。それ自体が罪だというなら、俺のことも処刑したら良いだろう」




