20.王女の素顔
ユリアンの話を聞いてから、俺達はあらゆる方法を試してみた。
全員で国王に直談判しようとしたし、ミーシャが捕らえられている別館に乗り込もうともした。
しかし何をしても全くの徒労に終わった。
そして俺達が王宮に留まっている間にも、門の周囲には抗議する人間が集まりつつあった。
今や派閥争いに関係のない町人達までもが、ミーシャの処罰を訴えている。
「奴は魔族だ!国王を操って実権を握り、人間の世界を掌握しようとしたんだ!」
「魔族が王宮にいるなんて世の末よ!」
「今すぐ処刑しろ!!打ち首にするんだ!!」
「どうしよう……。国王様も僕達に会ってくれないし……」
アルクは窓から外を眺めながら、困惑して言った。
ユリアンは部屋へと引き返し、ふさぎ込んでいる。俺とアルクとウィルは三人で外の様子を伺っていた。
「このままだと本当に処刑されちゃうよ……」
「まあ実際、お前を操ってたんだ。それは処刑に値する行為だし、根も葉もない噂じゃなくて事実なんだから厄介だよな」
ウィルも町人達の姿を見つめながら言う。
「てか、あいつを救うなんて本当にできると思うか?そもそもお前は被害に遭った張本人だろ。そこまでする必要あるか?」
「そうなんだけど、でも……」
「なんだ、本気でユリアンに惚れたのか?」
「そ、そんなわけないだろ!!」
ウィルがニヤニヤしながら問うと、アルクは慌てて否定した。
「そうじゃないけど、ただ……。大切な人を失う辛さは、すごく良く分かるし……」
アルクはそう言いながら、ちらりと俺の姿を見る。
「それに、例え魔族でも、心が人間なら、一緒に生きていけるはずだよ」
それはそうだ。
そもそも俺だって魔族なのだから。
その事実があるので、アルクはミーシャが魔族だと知っても、頭からその存在を否定したりはしないのだ。
俺ははあっとため息をつく。
面倒だが、最初からこうするしか方法はなかったのだ。
「仕方ない。とりあえずミーシャのところへ行って、話をするぞ」
「え、しょこら、もしかして……」
「転移魔法を使う。できれば王族の奴らには転移魔法のことは知られたくなかったが、ユリアンぐらいならまあ大丈夫だろ。恩を売っておけば口外しないだろう」
「やったぜ、またあれを見れるんだ!!」
ウィルが嬉しそうにぐっと拳を握った。
そして俺達はユリアンと共に、人目につかない廊下に立つ。
俺は以前と同じように、複雑で難解な魔法陣を床の上に展開した。
真っ赤に光る魔法陣を、アルク、ウィル、ユリアンはまじまじと見つめる。
「ま、まさかこんなことが、できるだなんて……。しょこら様は、人知を超えた方ですね……」
ユリアンがごくりと唾を飲み込んだ。
ウィルも改めて興奮し、魔法陣を見つめている。
「前は急いでたから、ゆっくり眺める時間がなかったが……。こうやって見ると、本当にすげえ。こんな複雑な魔法陣、今さらだがよく暗記できたな。愛の力だな……」
「下らないこと言ってないで、さっさと乗れ」
俺が言うと、全員が魔法陣に足を踏み入れた。
俺が魔力を注ぎ込むと、全員の体が一瞬宙に浮く。
そして俺達は、以前俺が捕らえられていた、あの小部屋の中へと転移した。
俺達が目の前に現れると、ミーシャはポカンと口を開けた。
「ユリアン様、それに、あなた達……。一体どうやって……」
しかしユリアンは答える前に、ミーシャにがばっと抱き付いた。
「ミーシャ!!大丈夫、ケガはない!?なにかひどいことをされたり……」
俺達三人も魔法陣から降り、ミーシャに向き直った。
ミーシャは鋭い目でその魔法陣を見つめ、そして俺を見つめた。
「なるほど。以前もそれを使って、宮殿に侵入したわけですか。全くあなたは本当に、興味深い人ですね」
いつもの不敵な笑みを浮かべて、ミーシャは俺を見る。
どうやら思ったより元気そうだ。
「ミーシャ、お願い、私達と一緒にここから脱出しましょう!」
ユリアンがミーシャの手を引こうとするが、ミーシャはそれを振り払う。
「ユリアン様、全くあなたは相変わらずですね。脱出してどうするのです。一生逃亡生活を続けるというのですか?」
「そ、それは、私がなんとかお父様にお願いして……」
「無駄ですよ。この騒動を収めるには、私が罰を受けるしかありません。実際それに値する行為をしたのです、全く自業自得ですよ。」
「だけど……」
食い下がるユリアンを尻目に、ミーシャは俺達に話しかける。
「あなた達、ユリアン様を頼みますよ。お分かりかと思いますが短絡的で考えの足りない人です。たまに馬鹿なことをしでかしますので、よく注意してください」
「な、ミーシャ、今はそんな話を……」
「あら、重要なことです。私はもうユリアン様の面倒を見られませんから。」
「おい。ユリアンがお前に傍にいてほしいと言ってるんだ。諦めるのか?」
俺が尋ねると、ミーシャは少し驚いて俺を見る。
「おや、あんなにひどいことをしたのに、慈悲をかけてくれるのですか。誠にお優しいですね。仕方ないでしょう、それしか方法がないのですから。
大丈夫、ユリアン様はこれでも芯は丈夫です。心のどこかで自分を悲劇のヒロインだと思い込み、陶酔しているのです。全く馬鹿ですがそのおかげで打たれ強いです」
「ちょっ、ちょっとミーシャ、何言ってるのよ!!」
ユリアンは顔を真っ赤にした。
しかし反論できないようだ。
「アルク様と既成事実を作ろうとしていた時だってそうです。自らの身を犠牲にしてまで父に奉仕する自分に酔っていたのです。既成事実の作り方すらまともに知らないくせに」
「なっ……だ、だからそのくらい私だって知って……」
ウィルは我慢できず、プッと吹き出した。
「はははははは!面白れぇな、お前ら!ユリアン、お前、そんな奴だったのか!全然知らなかったぜ!」
「ちょ、そ、誤解です!私はいつだって真面目で……決して自分に酔ってなど……」
ユリアンはミーシャの前では生き生きしている。
そしてその馬鹿らしさも増幅されていた。おそらくそれが素顔なのだろう。
「とにかく、ユリアン様を頼みますよ。あなた、何なら本当に婚約して差し上げてほしいですね」
ミーシャはアルクに向かって言った。
「惚れっぽい性格なので、たった数日一緒に過ごしただけで、あなたに想いを寄せているようですし」
「ほ、惚れっぽくなんかないわよ!ミーシャ、いい加減に……!」
ユリアンはまだ真っ赤な顔をして、わたわたと手を振っている。
アルクは少し赤面しながらも苦笑した。
「す、すみません、それはできないですけど……。ねえ、だけど、やっぱり一緒にここを出ましょう。王女様には、あなたが必要だと思うので……」
アルクが珍しく主張するが、ミーシャは首を振る。
そして微笑をたたえながら言った。
「残念ですが手遅れです。既にご存知かと思いますが、私は魔族です。そしてそれはもはや噂ではない。先ほど国王様にも、それが事実として知られてしまいました」




