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17.ヘイデン家での滞在

「なあ、いいじゃん、今日ぐらいうちに泊まってけよ!」



訓練所を出た俺達に向かって、ウィルが懇願した。


「別に王都に戻る必要なんてないだろ?ならもうちょっとゆっくりしてけよ、部屋なら余ってるからさ!」



確かに、すぐに王都に戻る必要はない。

しかし俺は宮殿に不法侵入した上に部屋の扉を蹴破り、アルクを連れ戻したのだ。

今や指名手配されていてもおかしくない状態だ。後始末をしておかなければ、今後何かと厄介そうだ。


なお、ウィルは国王達に姿を見られなかったので、問題はないはずだった。



「どうする、しょこら。王都に戻った方がいいかな?」


アルクが俺に問うと、ウィルは片方の眉をくいっと上げた。


「何言ってんだ、お前は戻れよ。俺が誘ってるのはしょこらだけだ」


「なっ……しょ、しょこらだけここに置いてくわけないだろ!そんなこと絶対させないよ!!」


「まあまあ、冗談だって。ムキになるなよ」



アルクとウィルの小競り合いは続いた。

しかし結局その日、俺達はウィルに押され、ヘイデン大公爵家に滞在する事となったのだった。




「父親は仕事でいつもいねぇし、気楽にしてくれよ。変な礼儀とかも不要だからさ!」


ウィルは嬉しそうに、俺達を屋敷へと案内した。




それは宮殿程ではないにしろ、馬鹿でかい屋敷だった。


グレーの石造りの3階建ての建物で、屋根は真っ青だ。

屋敷の前にはだだっ広い庭に噴水が付いており、色とりどりの花が咲いている。


やはり王族の家だけはある。

それこそアルクの小さなフレデール伯爵家とは、比べ物にならない。




「なあ、いいじゃんか、同じ部屋で寝ようぜ!それかお前だけ別の部屋に行けよ!」


「なんでだよ、しょこらは僕と一緒に寝るんだ!君こそ自分の部屋に戻りなよ!」


「俺だってもっとしょこらの話が聞きたいんだよ、今までお前の救出ばっかで、まともに話せなかったんだ!誰のせいだと思ってんだよ!」


「ぼ、僕が捕まってなかったら、そもそもしょこらが君を相手にすることなんて……」


「おいうるさいぞ。いっそ俺を一人にしてくれ」



口を開けば言い争いをするアルクとウィルに、俺は呆れて言った。

まったく、仲が悪いのか、もしくは逆に良いのか分からない。



しかし結局、俺達は三人で客室で寝る事となる。

ベッドは二つあるので、俺とアルク、そしてウィルが一つずつ使うことにした。

俺はもちろん、猫の姿に戻っている。



「にしてもお前、ほんと情けない奴だよな!外で俺達を見掛けたんなら、なんですぐ声かけなかったんだよ?」


ウィルがベッドに寝そべりながらアルクに問いかける。


「それは同感だな」


俺がウィルに合わせると、アルクが焦って弁解した。


「そ、そんな、しょこらまで……。だってさ、あの時、君がしょこらの耳を触ってて……それに……」


アルクはその時のことを思い出しながら言った。


「なんだか、あの執事に触れられた時、変な感じがして……。何だか逆らえなくなって……」



アルクはそこでふと無言になる。



「今考えると、どうかしてたと思う。だって、例えしょこらが僕から離れても、僕は王女様と結婚なんて絶対しようと思わないのに、あの時もなぜかペンを取っちゃって……」



言われてみると、その通りだった。

自信を失っていたとはいえ、婚姻届けに署名までしようとしたのだ。



「やっぱお前、何かに操られてたんじゃねえの?」



ウィルが何気なく言った一言で、俺は考え込んだ。

もしかしたら、本当にあのミーシャとかいう奴が、何等かの方法で精神操作していたのかも知れない。


生誕祭では、アルクは明らかに洗脳されていた。


それはアルクが口にした飲み物のせいかと思っていたが、町中で俺とウィルを見掛けた時も、婚姻届けに署名しようとした時も、アルクは何も口にしていない。



ミーシャは何か、特別な力でも持っているのだろうか。

それこそ、闇魔法を使う魔族のように。




俺が考えを巡らせていると、急に体が浮かび上がった。

ウィルが猫の姿の俺を抱え上げたのだ。


「なっ、ちょっと、なに勝手に……」


アルクがガバッとベッドから起き上がる。


「いいじゃねえか、ちょっとぐらい!お前、あまり独占欲が強いと嫌われるぞ!」


「そ、そんな、大きなお世話だよ!とにかく返して……」



俺はまたため息をつく。

それ以上考えるのをやめ、俺達は皆眠りについた。





翌朝、俺達が広間で朝食を取っていると、一人の男が現れた。

男は同じく席に着き、俺達の姿を順に見つめた。



「あ、えっと……」


アルクが焦って、自己紹介をしようとする。

また人見知りを発揮して、しどろもどろになっていた。



「よお、今日は家にいたんだな」


ウィルが軽く挨拶をする。

どうやらそれはウィルの18歳の兄で、シドリウスというらしい。


その兄はウィルと同じ、真っ青な髪を持っている。

ウィルの髪があらゆる方向にピンピン飛び跳ねているのに対し、兄の髪は真っ直ぐだ。


「シドだ。よろしく」


シドはアルクに向けて挨拶をした。

俺は猫の姿なので、挨拶は不要だと思ったらしい。



「あ、えっと、アルクです。こっちはしょこら……」


アルクが俺の分まで自己紹介をした。


「アルク……」


シドがその名をつぶやき、そしてはっとする。


「まさか、あの勇者か?」

「えっと、はい……」



シドは静かに、鋭い視線をウィルに向けた。

ウィルはパンをかじりながら、ウっと少し喉に詰まらせる。


「お前、なぜ勇者がここにいるんだ。今王都で起きている騒ぎを知ってるだろう。いらぬ噂が立ったらどうするつもりだ」


「大丈夫だって!ただ友達になったから、招待しただけだ……」


「友達ねえ……」



シドははあっとため息をつく。

見たところ真面目で、融通が利かなそうな雰囲気が漂う男だ。


ウィルは頭をぼりぼりと掻いた。どうやら兄のことが苦手らしい。



「あの、王都での騒ぎって……」


気になったアルクが口を挟むと、シドがアルクに視線を向ける。


「君、一昨日の夜、王宮から抜け出したんだってな。今や王都ではひどい騒ぎだ。国王が勇者を無理やり後継者に仕立て上げようとしたって批判されている。その首謀者となったのがユリアン王女の執事だとされて、昨日捕らえらえたよ。」


「えっ、あのミーシャって人が……!?」



アルクは思わず、椅子から少し腰を浮かせる。



「ああ。反対派や民衆からの反発は今や抑えがきかない。噂に尾ひれがついて、あの執事は魔族だとか騒いでる奴もいる。あの調子だと処刑されても不思議じゃないな」


「え………」



アルクは不安げな表情を見せる。

そして数日前、ユリアン王女が話していた言葉を思い出す。




「そんな私に取って、ミーシャは唯一の友人です。もしミーシャがいなくなったら、私も今のアルク様のように、途方に暮れるでしょう」



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