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16.ウィルとの対決

「ほら見ろよ、ここがうちの護衛隊の訓練所だ!」



ウィルはそのだだっ広い空間に俺達を案内した。


そこはヘイデン大公爵家の護衛隊兵舎にある、屋根が付いた屋内の訓練所だ。

かなりの広さで、半径100mはある。剣や盾、槍、弓、ダミー人形など、訓練に使用する装備が充実しており、しかもどれも上等品ばかりだ。


アルクのいたフレデール領や、シロヤマ領の兵舎とは比べ物にならない設備だった。



ウィルは模擬戦のためだけに、俺達を自分の家の領地へと連れてきたのだ。

最も、王都からは馬車で半日かかるので、移動にはコクヨウを利用した。



「ここなら今日一日、自由に使えるぜ!誰もいないから大丈夫だ!一応、建前上は勇者なんだし、俺に負けるとこを見られたら困るだろ?俺なりの気づかいってやつだよ」


ウィルはニヤっと笑ってそう言った。


「なっ……!!ま、負ける訳ないだろ!!そんなこと言って、本当は自分が負けるところを見られたくなかったんじゃないの!?」


「はあ?んなわけねーだろ、俺はこれでも魔術に関しては自信があるんだ!従魔契約がなけりゃ魔法を使えない誰かさんとは違ってな!」


「ぼ、僕は魔法に頼らなくたって、君の事なんて一瞬で倒して見せる!!」


「ほお、言ったな?俺が勝ったら大人しく、しょこらとの契約は譲ってもらうからな!」



「で、お前ら、さっさとしたらどうだ。」


俺はあぐらをかいて座り込み、頬杖をついていた。

全く、なんでわざわざそのためだけに、はるばる大公爵家まで来なけりゃならないんだ。



「おう、しょこら、お前も約束しろよ!俺が勝ったら、俺と従魔契約するって!」


ウィルが俺を指差してそう言った。


「もう分かったから、さっさとやれ」


面倒になった俺は力なく、手で追い払うしぐさをした。




「絶対負けない……絶対………」


アルクは剣をぎゅっと握りしめ、メラメラと目に炎を燃やしている。





そして二人は向かい合って立つ。


アルクは剣を構え、ウィルは何も手にしていない。

ウィルは武術はからっきしのようで、幼いころから魔術訓練に全力を注いできたらしい。



二人は睨み合ったまま、しばらくその場で静止した。



「始めろ」



俺が気のない合図をすると、アルクが瞬時に動き出す。



四百年前、ハジメと一緒に参加した闘技大会で、俺はアルクとも対戦した。

その頃に比べると、やはり契約のない今、アルクの動きはそこまで速くなかった。



それでも俊足でウィルの目の前に現れ、剣を振りかざす。

ウィルは攻撃する素振りを一切見せず、ただニッと笑ってアルクの動きを見ていた。



ビイイイイイィィィィン!!!!



アルクが思い切り振り下ろした剣が、何かに弾かれる。

アルクは反動で後方へと吹っ飛び、ドサッと地面に着地した。



ウィルは、空中に銀色に光る魔法陣を展開していた。

その魔法陣が盾のような役割を果たし、アルクの攻撃を防いだのだ。


それはこれまで、俺達が見たことのない魔法だった。



アルクが体勢を崩した隙に、ウィルがぶつぶつと素早く何かを唱える。

すると今度は、燃えるように赤い魔法陣がウィルの右手から展開される。


次の瞬間、魔法陣から放たれた火炎魔法が、瞬く前にアルクの現前に迫った。



「うわっ!!」



アルクは大きく右へとジャンプし、ぎりぎりでその攻撃をかわす。

しかし体勢を立て直す前に、ウィルは続けて青い魔法陣を展開する。


今度のそれは、水魔法だった。



勢いよく噴射された多量の水を、アルクは避けきれない。

咄嗟に剣を盾のように構え、自らの体を庇おうとした。


しかしその水が剣に直撃すると、アルクは体ごと数メートル後方に吹っ飛ばされた。



「い、いたた……。な、何て勢いだ。それに……」



尻もちをついたアルクは、よろよろと立ち上がりながら呟く。


「もしかして、君は……」



ウィルは得意そうに、またニッと笑顔を大きくした。



「へへ、すげえだろ!俺はもともと、土魔法しか使えない。だが他の属性の魔法も、魔法陣から作り出せるんだ!光魔法と闇魔法以外はな!」




なるほど確かに、ウィルの魔術はすごい。

幼いころ神童と呼ばれていたのは、嘘ではないようだ。



「ちなみに自前の土魔法なら、詠唱なしで使えるぜ!」



そう言ってウィルは手をかざす。

するとアルクが立つ地面が急に盛り上がり、アルクは急に地上10m程まで突き上げられる。

かと思えば急に土は崩れ落ち、アルクは地面に思い切り叩きつけられた。



ダアアアァァン!!



地面に直撃したアルクは、しばらく立ち上がれない。

痛みに小さく呻き声を上げている。



「う……。く、くそお、体が思うように、動かない……。でも……」



アルクはまた、よろよろと立ち上がる。

そして剣を再び構えなおした。



「ほら、どうした、その程度かよ?このままだと俺が勝っちまうぞ!」


ウィルはそう言って笑い、再びブツブツと何かを唱えだした。



すると今度はアルクが動く。

ウィルの詠唱が終わる前に、何とか射程距離へと近づこうとしている。


だが間に合わず、ウィルは緑の魔法陣から、今度は風魔法を発射した。



勢いよく旋回する風がアルクに向かって放出される。



しかしアルクは、魔法陣が出現してから攻撃が放たれるまでの僅かな瞬間に、方向転換していた。

真っ直ぐウィルに向かって走っていたアルクは、今はウィルの左側に回り込む形で疾走している。



風魔法はアルクが元居た場所を、ただ通り過ぎた。



「おっ、避けられたか。ならこれで……」



ウィルは再び手をかざす。

詠唱時間が不要な土魔法を再び繰り出そうとしているのだ。



しかしそれを読んでいたアルクは、大きく地面からジャンプしていた。

そして剣を思い切り、ウィルに向かって投げつける。



ガイイイイィィィン!!



ウィルは剣をさっと交わし、剣は床に思い切り突き刺さった。


「うおぉっと!おい、武器を捨てるとか、むちゃくちゃだろ!」



しかしアルクは聞いていなかった。

地面に着地すると、続けて刀を引き抜き、射程圏内へと入ったウィルの足元をさっと払った。



「うわっと!!」



今度はウィルが体勢を崩す。


そしてアルクは、ウィルに体勢を立て直す隙も、詠唱する暇も与えず、地面に倒れたウィルの喉元に刀の切っ先を突き付けた。




アルクは息を切らしながら、ウィルに向かって言った。


「君の魔法は、すごい。だけどしょこらやハジメさん程じゃない。すごく遅い」




ウィルはポカンとしてアルクを見返した。

そしてなぜか、プッと吹き出す。



「ははっ、分かったよ、俺の負けだ!やっぱ勇者として魔王を倒しただけのことはある。俺なんかじゃ全然敵わねえか……」


ウィルは地面に座ったまま、右手を差し出した。

アルクはにこっと笑い、その手をつかんで引っ張り立たせる。



「あーあ、魔法が使えないなら、もしかしたらと思ったんだけどな。まあいいや。安心しろよ、元々従魔契約なんて、冗談のつもりだったからよ」


「え……、そ、そうなの?」


アルクが目を丸くすると、ウィルはまたニッと笑った。


「ああ!いや、まあ、全くないと言ったら嘘になるけどさ……。だって俺が夢見た猫耳だしよ、それにお前のことは何て言うか、幼い頃からずっと勝手にライバル視してたんだ。魔法なら俺のほうがすげーのにって……」



ウィルは自分の右手を見下ろした。



「だから、一度お前と戦ってみたかったんだ。でも、魔法以前の問題だったよ。俺は研究に没頭していて、実戦経験なんてほぼないからな。悪かったな、付き合ってもらってよ!」


ウィルはそう言って、手でアルクの背中をバアンと叩いた。


「ちなみにお前、もっと自信持てよ!しょこらの奴、お前が思ってるよりお前のこと好きだと思うぞ!」



アルクは驚いてウィルを見て、そしてまた小さく笑った。



「おいお前。余計な事言ってんじゃねーぞ」


俺は二人に近づき、ウィルをジロリと睨みながら言った。


「なら、アルク、さっさと契約し直すぞ」




それから、俺とアルクの従魔契約は無事完了した。

アルクの魔力もレベルも、ちゃんと契約解除前まで戻っている。



契約の様子を見ていたウィルが、再び口を開く。



「これで元通りだな!……でもさ、しょこら、俺のこともテイムしてくれねえか?猫に戻っても話せるようにさ。それと……」


「なんだ」


「えっと、猫の姿に戻ったら、ちょっと抱っこして良いか?」



するとアルクは、急に俺にガバっと抱き付いてウィルから距離を取った。



「やっぱりだめ……あまりしょこらに近づかないでもらえますか?」


「な、なんでだよ!それぐらいいいじゃねえか!」



俺はため息をついた。



そしてその後、ウィルとのテイムも無事に完了したのだった。


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