15.犬猿の仲
翌朝アルクは、俺を抱き枕にして眠りこけていた。
昨夜の言い合いの後、アルクはしばらく俺の言葉について考えていた。
やがて何かを理解したようで、そそくさとベッドに潜り込み、俺をぎゅと抱きかかえたのだ。
アルクはここ数日あまり眠っていなかったようで、一向に起きる気配がない。
俺はまた抗議のためブンブン尻尾を振り、身をよじるが、アルクは俺をがしっとかかえている。
くそ、また猫耳忍者に変身して、逃れるしかないか。
そう思った矢先、部屋のドアを誰かがコンコンと叩く。
返事を待たず、ウィルがそっと部屋の中を覗き込んだ。
「お、おお、猫の姿に戻ったんだな!それはそれで、いい……」
するとアルクがパッと目を覚ます。
ガバっと上体を起こし、俺を抱きかかえたまま、ウィルに警戒した視線を向けた。
「えっと、どちら様ですか……?」
アルクが尋ねると、ウィルはパッと手を上げ挨拶した。
「ああ、そういや自己紹介がまだだったな!俺はウィルギリウス。ヘイデン大公爵家の次男だ。よろしくな、勇者!」
しかしアルクは、ジトっと警戒の目を向け続ける。
ウィルが俺の耳を触っていたことを、いまだに根に持っているのだ。
「てかさ、猫の姿だったら、人間の言葉喋れないんじゃないか……?」
ウィルが俺を見ながら尋ねる。
実際その通りだった。俺とアルクはまだ再契約していないので、言葉が通じない。俺はウィルをテイムしている訳でもないので、今は誰とも話せなかった。
俺はアルクの腕から逃れるついでに、また猫耳忍者へと変身した。
「わあ!ちょっと、しょこら、あまりこの人の前でその姿を見せないで……ほしいな……」
「ええっ、なんだよ勇者、ケチな奴だな!俺はお前の救出にだいぶ活躍したんだぞ!」
「だって……こないだ、しょこらの耳を触ってたし…………」
「耳?ああ、あれ見てたのか!いやあ、良い感触だったな……」
「なっ……!しょこら、僕にも触らさせて!!」
「断る」
ウィルは人間の姿になった俺を、再び目を輝かせて見ていた。
「本当すげえな、自由に変身できるんだ……」
するとアルクは俺に後ろからガバっと抱き付き、ウィルから遠ざけた。
「すみません、あまりそんないやらしい目で見ないでもらえますか……」
いつも誰にでも優しいアルクにしては、冷たい物言いだ。
ウィルは対抗するように言い返す。
「いやらしいとは何だよ!てかお前な、俺に対してまず礼を言うべきだろ!俺の協力がなけりゃしょこらは、お前を救出できなかったんだぞ!」
「なんで勝手に呼び捨てにしてるんですか?しょこらさん、って呼んでください……」
「はあ!?お前、本当大人気ねえな……」
「おいお前ら、その辺にしとけ。で、アルク、さっさと従魔契約し直すぞ」
俺は呆れながら、アルクに向かって言った。
アルクは嬉しそうにパッと俺を見る。
「うん!いつでも良いよ!」
俺がアルクに手をかざし、魔法陣を展開しようとすると、ウィルが制止した。
「おい、待てよ。逆じゃないのか?普通は勇者が魔法陣を作るだろ……」
言いながら、ウィルははっとする。
「え?……まさか、お前ら……。え?勇者は、しょこらの方なのか?」
元々ウィルは、俺が従魔契約を解除してからも、膨大な魔力を有していることに疑問を感じていたらしい。
そして今目の前で行われている光景により、真実を理解したのだ。
隠しようがないので、俺はウィルを見て言った。
「ああそうだ。しかし他言無用だぞ。……俺の耳まで触ったんだ、このことは墓場まで持っていけ、いいな。」
俺の威圧するような視線を物ともせず、ウィルは興奮して言った。
「すげえ!猫の勇者とか、信じらんねえ!!くそ、ますます羨ましいぜ……」
アルクは、俺がウィルに秘密を洩らしたことが気に入らない様子だ。
「しょこら、この人、信用して良かったの?協力と引き換えに耳を触りたいなんて言う変態なのに……」
「お前な、さっきから聞いてりゃ、人を変態呼ばわりすんじゃねえ!てかそれを言うなら、お前のほうが余程変態だぞ!」
「なっ……ぼ、僕のどこが変態なんだよ!!」
「……おいお前ら、いいからもう黙れよ……」
俺はだんだん面倒になってきた。
こいつら、同じ部屋に置いておかない方がいいな。
するとウィルは、何かを思いついたように俺に問いかける。
「なあ、従魔契約しなくても、テイムしたら会話はできるはずだろ?」
「ああそうだ」
「なら、勇者……じゃない、アルクをテイムしてやれよ!そんで、俺と従魔契約してくれ!!」
「はあ!??ちょ、ちょっと何言ってるんだよ!!」
アルクが怒ってウィルに言い返す。
「しょこらは僕と契約するんだ!あなたみたいな変態とは……」
「お前、また変態って言いやがったな!てかそうだ、それなら俺と勝負しろよ!!」
「しょ、勝負って一体……」
「俺と模擬戦で勝負しろ、それで勝った方が従魔契約するんだ!それとも何だ、お前は俺より弱いのか?」
アルクはぐっと詰まる。
俺との契約がない今、アルクに残されたのはこれまで自力で鍛えてきた武術力だけだ。
しかもそれだって、契約の有無でレベルは異なるはずだ。
ある程度の強さはあるはずだが、正直勝てるか自信がないのだ。
「ほら、どうした、怖気づいてんのかよ?」
「くっ……そ、そんな事ない!う、受けて立ってやる!!」
「おいお前ら、勝手に話を進めるなよ……」
俺が呆れて口をはさんでも、聞いていないようだ。
二人は今や、互いにバチバチと睨み合っている。
俺はまた、はあっと大きくため息をついた。




