14.気持ちの代弁者
俺とアルクとウィルは、宿屋の部屋へと転移していた。
アルクを執務室から連れ出した後、廊下に出現させていた魔法陣に飛び込み、転移して戻ってきたのだ。
俺は肩に担いでいたアルクを、ベッドの上にドサリと下ろした。
しばらくの間、部屋の中はしーんと静まり返る。
何となく不穏な空気を読んだウィルが、気を遣ったように言う。
「あ、えっと、ここは二人部屋だよな。俺は別の部屋に泊まるから……。あ、しょこら、また明日、転移魔法を見せてくれ」
そう言ってウィルは、部屋を出て行った。
残された俺達は、しばらく無言だった。
俺は腕を組み、ベッドに座ったアルクをじっと見下ろす。
アルクは目線を下に向けているものの、何か言いたげな顔をしている。
「言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ」
俺がそう言うと、アルクはバッと顔を上げた。
そして俺を見つめたあと、表情を変えずに問いかける。
「……しょこら、どうして僕を助けたの?」
どうやらあの時の会話以降、まだ機嫌を直していないようだ。
「どうしてって、助けなくて良かったのかよ」
「もちろん、助けてくれて感謝してるよ!だけど……」
アルクは、膝の上に置いた手をギュッと握りしめる。
「しょこらは、僕が王女様と結婚しても、構わないんでしょ。それならわざわざ助けなくたって……」
俺はハアッと大きなため息をついた。
本当に、一体いつまで根に持っているんだ。
「お前な、いい加減にしろよ。俺が言ったことをいちいち気にして、いつまでも子供みたいに拗ねてんじゃねえよ!」
俺がイライラして怒鳴ると、アルクもまた叫び返す。
「そりゃあ気にするよ!僕だってどうてもいい人の言葉なら気にしない!だけど、しょこらは僕に取って、どうでもいい存在じゃないんだ!!」
いつもの控え目な態度とは打って変わって、アルクは憤りと悲しみを込めた目で俺を見た。
「それに、僕がいなくなってすぐ、さっきの男の人を仲間にしてたじゃないか!契約まで解除して、しょこらにとって僕は、その程度の存在だったってことだろ!!」
アルクは少し息を切らして、俺をじっと見つめ返す。
「僕はしょこらが好きなのに、大好きなのに、しょこらは僕のことが好きじゃないんだ。僕のことなんで、どうでも良いんだ……」
「お前、俺が好きでもない相手と、旅を続けると思うのかよ」
「そりゃもちろん、相棒として認めてくれてたってことは分かってる!!だけどそういうのじゃないんだよ、僕が言ってるのは……そういうのじゃないんだ……」
アルクはそう言って膝を抱え、腕の中に顔を埋めた。
そして小さく鼻をすすり上げる。
「もういいよ、しょこら、さっきの人と契約しなよ。僕は、家に戻るから。」
そう言ってアルクは、無言で涙を流し続けた。
俺はまたため息をつく。
これまでにも、アルクが馬鹿な想像をして、勝手な決断をすることはあった。
ハルトが現れ、自らが四百年前の勇者だと、俺達に打ち明けた後のことだ。
あの時アルクは、俺に従魔契約を解除して、ハルトと契約した方が良いと言った。
そしてハルト自身にも、そうするように頼んだのだ。
知識も経験もあるハルトの方が、俺の相棒にふさわしいと思い込んだからだ。
しかしあの時はハルトが、俺の代わりにアルクに伝えてくれた。
アルクの申し出を、思い切り笑い飛ばしながら。
ハルトがここにいたら、また腹を抱えて笑い、同じことを言っただろう。
「あははははははは!何を言い出すかと思えば、そんなこと考えてたの!しょこら君だってアルク君のことが大好きなんだからさ、そんなこと言ったらまた怒られちゃうよ!」
だがハルトはもういない。俺の代わりにアルクを説得してくれる人間は、他にはいない。
俺はどうしても自分で説明するしかないが、その手のことは全く苦手だった。
俺が何も言わずに立っていると、アルクがまた口を開く。
「しょこらはきっと、僕以外の人でも、同じように受け入れたんでしょ……」
俺はまた、大きなため息をつく。
こいつはどうしていつも、はっきり言わないと分からないんだ。
俺は腹を立て、アルクの頭をぐいっと持ち上げ、その胸ぐらを掴んだ。
「お前な、言葉にしなくたって、そのくらい普通分かるだろ!!」
「わ、分からないよ!しょこらが何を考えてるのか、僕には全然分からない!!」
「言っただろうが、好きでもない奴と旅なんかしないって!それにウィルにも、お前を連れ戻す手助けをしてもらっただけだ!!」
「だ、だけどあの人に、耳だって触らせてたじゃないか!僕にだって触らせてくれたことないのに……」
「そんなしょうもないこと気にしてどうすんだよ!」
「しょうもなくなんかない!!それにあの人、この部屋に泊まったんでしょ!!ふ、二人で同じ部屋で寝るなんて……」
「それを言うならお前だって、正気を取り戻したくせになんですぐ戻らなかったんだ!王女に連れられて、またのこのこ宮殿まで引き返しやがって!!」
「だってそれは、しょこらとあの男の人を見て、怖くなったんだよ!!」
アルクは胸ぐらを掴まれながら、負けじと叫び返す。
「結局、僕の代わりなんて、いくらでもいるんだ!!しょこらにとって僕なんて……」
「お前、ハルトが言ってたこと忘れたのかよ!!」
俺がそう言うと、アルクは一瞬言葉に詰まる。
俺がいつの話をしているのか、すぐには分からないのだ。
「実地訓練の初日の夜に、ハルトがお前に言っただろ!!その時の言葉をよく思い出せ!!」
俺はポイっとアルクの胸ぐらを突き放し、そっぽを向いた。
そして猫の姿へと戻り、さっとベッドに飛び乗って丸くなる。
「疲れたからもう寝るぞ」
しかし、従魔契約をしていないアルクの耳に、それは単なる猫の鳴き声として響く。
アルクは涙を光らせながら、ポカンとした表情で俺を見つめていた。




