113.候補地
旅を再開して数日後、俺達はエド町の郊外にいた。
たまたま、エド町北部に出没した上級魔物の討伐依頼があったからだ。
俺達が設置した魔道具が魔物を察知し、ウィルが作った例の地図に表示させた。
情報を得たユリアンが、念話で俺達に現地へ向かうよう依頼したのだ。
『本来ならシロヤマ領内の冒険者ギルドに依頼するところですが、あいにくA級以上の冒険者が出払っているようでして……』
それで俺達が駆り出されたという訳だ。
転移魔法ですぐ現地に向かった俺達は、巨大なミノタウロスを一瞬で討伐した。
「しょこら、なんか、また強くなったんじゃない………?」
地面に横たわるミノタウロスの巨体を見下ろしながら、アルクが苦笑して言う。
実際、猫耳忍者に変身するまでもなく、俺の軽い猫パンチ一発でそいつは呆気なく死んだのだ。
「ラファエルと戦ったからな。それでまたレベルが上がったんだろ」
ラファエルが言っていた通り、俺にはもはや本気を出せる相手はそうそういない。
しかしラファエルと戦った時はそれなりに本気だったのだ。
「そういえば、しょこらとラファエルさんはどっちが強いんだろうね」
「さあな。物理攻撃はおそらく俺の方が上だが、魔力は奴の方が上回ってるんじゃないか。実際あの黒い塊は俺にはどうする事もできなかった」
「そうか。そうだね。そう考えるとラファエルさんだけじゃなくて、ロベルト君だってすごいよね……」
俺達は魔物討伐を冒険者ギルドへ報告し、念話でユリアンにも報告する。
ついでに周囲の村を見て回ろうかと話しているところへ、たまたま通りかかった数人の護衛隊員が声をかけてきた。
「勇者様!しょこら様!エドにいらしてたんですね!」
「聞きましたよ、新居を構える予定なんですよね?」
「どこに住まれるのですか?もしよかったらこの町に……」
「え、ちょっと待って、何でそれを知って……」
アルクが困惑して尋ねると、隊員達はまた口々に話し出す。
「こないだリーンにそう話しておられたでしょう!それを俺達の仲間が聞いてたんですよ!」
「今じゃ町中で噂になってますよ!」
「ええっ!?町中って……」
すると、俺達の話を聞きつけた周囲の町人までもが、次々に声をかけてくる。
「勇者様!勇者様がこちらに住んでくだされば、私達もとても嬉しいです!」
「この町の一等地の土地が売りに出されていますよ!」
「勇者様のお家となると、新しい観光名所になるでしょうね!!」
「か、観光名所………」
アルクは絶望的に繰り返す。
自宅を観光名所なんかにされたらたまったもんじゃない。
曖昧な挨拶を返し、アルクは慌ててその場を離れる。
人混みを抜け出し、町の中心部を流れる川の畔まで出ると、そこでほっと一息ついた。
以前ハルト達とも来たことのある川原だ。
「ったく、物好きな奴らが多いな。この調子だとどこに家を建てても同じだぞ」
「そうだね。やっぱり人目に付かない場所のほうが……」
アルクはそこまで言って、ハアっと大きくため息をつく。
「もういっそ、森の中に住んだ方がいいんじゃ……」
俺はそれについて考えてみた。
森の中は本来、人間が住める場所ではない。魔物がうようよいるからだ。
しかし裏を返せば、そこなら物好きな連中が押し寄せてくることもないということだ。
「悪くないな。森の中に家を建てるか」
「ええっ!?でもさすがに危険なんじゃ……」
「毎日結界を張れば問題ないだろ。それにそこら辺の魔物なんざ、どうせ雑魚ばかりだ」
「でも………」
アルクはしばらく黙って考え込んだ。
しかし考えるうちに、不可能ではないと思い始めたようだ。
「確かに、いろんな人に見られるよりはいいかも知れない。それに僕、正直ご近所付き合いとかも苦手だし………誰もいない森に引きこもる生活も悪くないかも………」
別に引きこもるとは言っていないんだが。
まあしかし、そうと決まれば話は早い。
あとはどの森に住むかを決めれば良いのだ。
「ここの近くだと黒霧の森だけど、魔王領に近いから、上級魔物が頻繁に出るよ。しょこらにとっては雑魚だろうけど、さすがに止めた方が……」
考えを巡らせていたアルクは、ふと思い当たったように言う。
「ねえしょこら、四百年前にハジメさんと旅した時に、小さな森を抜けたよね。あの森はまだあるかな?」
四百年前、俺達はベラルディで闘技大会に出て、それから北上してミストラルへと向かった。
ミストラルでは魔王の配下が、怪しい煙草を使って人々を洗脳していた。
そのミストラルからさらに北上した際、俺達は小さな森を抜けたのだ。
森の中には川があり、そこで鮭を捕まえて三人で食べたこともある。
「確かにあの森は魔物が少なかったな。それに鮭もいる」
翌日俺達はコクヨウに乗り、ミストラル北部の森を目指して飛び立った。




