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106.世界の終わり

「な、なにこの音………?」



アルクは戦慄しながら、その不吉な音に耳を澄ます。


それはゴゴゴゴゴゴという低い唸りとなって、完全に森を包み込んでいる。

徐々に唸りは大きくなり、それにつれて地面は揺れ出した。



「おい、あれを見るんだ………!」



エレーナが上空を向いて叫ぶ。



全員が空を見上げると、そこには小さな黒い塊があった。

既に日が落ちて暗くなった空に、異彩を放った一際真っ黒な闇がポカンと浮かんでいる。


それは徐々に増幅しているようで、焼野原となった森から、燃え尽きた葉や枝の残骸を吸い上げていた。



「あ、あれって、ブラックホール………」



アルクが絶望的に呟く。


「そんな………」



次第に膨れ上がる黒い塊は、さらに吸引力を増していく。

そのうち倒れた木々が浮き上がり、虚無の中へと引きずり込まれていった。



「やめて、ラファエルさん………!!」

「おいラファエル、止めるんだ!!」



アルクとエレーナの叫びは、ラファエルには届かない。


ただその細い目から黄金の瞳を覗かせ、黒い塊を眺めていた。



俺とアルクは再び、全員をバリアで包み込む。

しかし黒い塊の吸引力により、バリアは上部から、まるで皮が剝がれるように崩れて宙へと舞っていく。



「おい、ラファエル!これではロベルトも巻き添えだろう!」


エレーナが叫ぶも、ラファエルは黒い塊から目を離さず言った。


「心配ない。あれば僕とベル以外の物を全て飲み込むようにできている」



やがて吸引力は強まり、バリアは大音量を立てて粉砕される。

空へと飲み込まれる破片を見送りながら、俺とアルクは再びバリアを展開した。



「どうしよう、しょこら……」


アルクは必死にバリアを保ちながら言う。


「ラファエルさんを何とかしないと、このままじゃ………」



今やバリアは、アルクの力だけでは持ちこたえられなかった。

俺が力添えしなければ一瞬で崩れ去り、全員が黒い塊に飲み込まれてしまう。



黒い塊は巨大な雲のようになり、全員の頭上を覆っていた。



反逆者達は全員、恐怖に慄き何かにしがみ付こうとしている。

地面の枯草を掴み、あるいは互いの体を掴み合い、何とか空中に引き上げられまいとしていた。



「まったく、どれだけ足掻いても無駄なんだからさ、もう諦めなよ。大丈夫、これは僕が見せる最後の慈悲だよ。あれに飲み込まれると一瞬で死ねる。一抹の苦しみもない。とても簡単だ」



ラファエルは今や、元の穏やかな口調を取り戻している。



「あれは周囲を飲み込みながら巨大化し、やがて世界を飲み込む。本当にありがたいね、僕を崇拝する馬鹿共のおかげで、これだけの力を付けられたんだから」




やがて俺とアルクのバリアは、再び上部から粉砕された。

何とか再度バリアを構築するも、耐久時間はさらに短くなる。



「チッ、これだとあいつを攻撃する暇すらない」



俺は舌打ちして考える。


ラファエルを止められる者は、この世に一人しかいない。ロベルトだ。


しかしそのロベルトは縛り上げられ、目と口を塞がれている。

今はラファエルに語りかけることも、魔法を発動することもできない。



するとまたバリアが大音量を立てて崩れ落ちた。

そしてその瞬間、数名の反逆者達が地面から吸い上げられていく。



「うわあああああっ!!た、助けてくれ!!!」



フードが外れ、恐怖に慄いた表情が顕わになる。


その者達は涙目になりながら、成す術もなく真っ黒な虚空へと引きずり込まれていった。



俺とアルクが急いで再構築したバリアの中で、残った者達はなんとか耐え凌ぐ。

忌々しいことに、あのハゲもまだ無事だった。


俺は一瞬、ハゲの周りだけバリアを解除してやろうかと思ったが、緊急時なので無駄なことを考えるのは止めにした。



その代わりに俺は、残った反逆者達に向かって叫ぶ。


「おい、死にたくなかったらロベルトの縄を解け!!」



反逆者達は慌ててキョロキョロと見回す。

しかし反逆者の一人は、絶望したように叫び返した。


「だ、だめだ!俺達はやり方を知らない!あの縄は、縛った者でしか解くことができないんだ!あいつを縛った仲間はさっき吸い込まれちまった!!」



「ったく、使えない奴らだ」



俺はまた舌打ちをして、右手でバリアを保ちながら、左手を再度ラファエルにかざす。


しかしそこから発射された熱光線は呆気なく軌道を変え、黒い塊に飲み込まれる。



上空から雷を落としても、吸引に抗う風魔法を発動しても、無駄だった。

どうやらその黒い塊は、本当に世の中の全ての事象を文字通り飲み込んでしまうようだ。



「残念だね。あれを打ち消せるのは闇魔法だけだ。勇者に唯一操れない属性だよ。さあみんな、準備はいいかい?最後の仕上げにするよ」



ラファエルはまるで、料理を完成させるかのような物言いだ。


そして再び指をパチンと鳴らすと、黒い塊は突然数倍に膨れ上がる。




「う、うわああああ!しょ、しょこら!!!」



バリアが再び崩れ、黒い塊に吸い上げられる。


慌てて両手をかざし、バリアを再構築しようとしたアルクの体が宙に浮き上がった。



俺は右手でアルクの手首を掴んで引き寄せた。

そして同時に左手でバリアを再度展開する。



しかしもはや、それでは間に合わなかった。


作り上げた瞬間にバリアは崩れ、ついに全員の体が宙に舞う。



アルクを掴んでいた俺の体も浮き上がり、空中で旋回した。



「も、もう駄目だ…………」



アルクは力なく呟き、ぎゅっと目を瞑る。




しかしその時、俺の目はウィルを捕らえていた。



宙に舞いながら、縄で縛られていたはずのウィルの両手は自由になっている。


そしてその手は、ロベルトを掴んでいた。



ロベルトの縄に手をかけながら、ウィルは必死に早口で何事か呟いている。


そして次の瞬間、ロベルトを縛っている縄が解けた。




視界にその姿を捉えたラファエルは、興味深げに目を細める。




自由になったロベルトは、まだ目隠しされているにも関わらず、すぐに上空に手をかざす。



そしてその手から生み出された闇が、周囲一帯を包み込んだ。



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