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105.死闘

ラファエルがこれまで魔王代理を務めてきたのは、ロベルトのためだ。



俺との約束があったからでもなければ、本気でこの世界のことを気にかけていたからでもない。

ただロベルトが、兄とともにこの世界で生きることを望んだからだ。



しかしこれまで、小さな反乱が起きる度、ラファエルは正直うんざりしていた。



ラファエルにとってこの世界の住人など、取るに足りない矮小な存在だ。

そんな奴らに慈悲をかけ、わざわざ生かしておく必要性など実際どこにもなかった。



だがロベルトはラファエルと違って、無駄な殺生はしない。


だからラファエルはこれまで、なるべく犠牲者を出さないよう事態を収拾してきた。

ロベルトが望むなら、馬鹿馬鹿しい世界の存続のために力を割いた。




「だけどもう終わりだよ。じゃあね、下劣なゴミ虫共。」




ドガアアアアアアァァァァァァァァン!!!!





爆発音を聞きながら、ラファエルはまだ無慈悲な目を地上に注ぎ続けた。


耳を澄ませ、卑劣な魂の苦痛の叫びを聞き取ろうとする。




しかし数秒後、ラファエルはため息を吐いた。



「まったく、邪魔しないでくれるかな」



ラファエルは地上のある一点に向かって呟く。


そこには猫の姿の俺が立っていて、森の中の連中全員を覆う巨大なバリアを展開していたのだ。



爆発音と共に巻き上がった炎や砂塵が弱まると、ウィルとエレーナは恐る恐る周りを見回した。

周囲にはバリアが施され、負傷した者は一人もいない。



「ラファエルさん、だめだ、そんな事しちゃ……」


アルクが震えながら、頭上のラファエルを見つめる。


「お願い、一緒に協力して、ロベルト君達を助け………」




しかしラファエルはまた大きなため息をつく。


いつもの穏やかな調子は消え、どこまでも冷酷な声をアルクに浴びせかける。



「君も何か勘違いしている。僕は確かにこれまで、君達に慈悲をかけてきた。だが君達の命だって、本来僕にとってはどうでも良い。邪魔をするなら死んでもらう」



そう言ってラファエルは人差し指を上げる。



しかし次の瞬間、ラファエルは木の枝から瞬時に飛び退いた。




ドオオオオオオォォォォン!!!



ラファエルが飛び退くと同時に、木の枝が破裂した。

俺が火炎魔法で爆破したのだ。



「おい。やめろと言っているだろ」



今度は俺がラファエルに向かって冷酷に呟く。


それを聞いて、ラファエルは残忍とも言える笑みを浮かべた。



「いいねえ、かかってきなよ。異世界の勇者と、魔王代理との戦い。世界の終わりに相応しい演目じゃあないか」



ラファエルはそう言いながら、俺に向けてその手をかざす。


俺は思いっきりジャンプして、寸分の差で攻撃をかわした。




ドガアアアアアアァァァァァァン!!!!!!




俺が元居た地面は大きくえぐれ、地中が溶岩のように溶け出している。



俺は空中で体をひねり、両前足をかざす。

そこから熱光線が発射され、ラファエルの体を貫こうとする。



光の速度を避けきれず、ラファエルはバリアを展開する。

熱光線が直撃した瞬間、バリアは音を立てて崩れ落ちた。



その一瞬の隙にラファエルは飛び退き、今度は空に向かって手をかざす。

すると空から、炎の槍が地上に向かって降り注ぎ始めた。



「あ、危ない………!!!」



俺とアルクが同時に動き、再度全員にバリアを展開する。

二重バリアにも関わらず、大量の炎の槍に打たれてバリアにはみるみる亀裂が入る。



アルクが何とかバリアを再構築する間、俺はラファエルに向き直る。


今度は猫耳忍者姿になり、ジャンプして瞬時にラファエルの現前に現れた。




ダアアアアアアァァァァン!!!!!!!



俺が思いっきり猫キックすると、ラファエルの体は吹っ飛ぶ。


数メートル先の巨木に激突し、木はズウウウウウゥゥンと音を立てて倒れた。



しかしよく見るとラファエルは、巨木に両足で着地していた。

激突した勢いのまま巨木を踏み台にして蹴りつけ、そのまま俺に向かってジャンプしてくる。



一瞬で俺の現前に現れたラファエルは、拳を振り上げる。



ドオオオオオォォォォォン!!!!!!!



今度はパンチを食らった俺が吹っ飛び、別の木に激突する。

一瞬でバリアと治癒魔法を展開していた俺は、無傷のまま再びジャンプした。




俺とラファエルの戦いを、アルクのバリアに守られた者達はただ茫然と眺めていた。


しかしそのうち、気を取り直した反逆者共が口々に声を上げる。



「いけ!さっさと勇者を殺せ!!」

「勇者を殺せなけりゃ、今すぐ弟をブッ刺すぞ!!」

「そうだ、魔王様のために、魔王代理は身を亡ぼすのだ!!」



その声を聞いて、ナーゴは唖然とする。

目の前の光景が信じられないと言うように、震えながら首を振った。



「おい、お前達………一体なぜそのような………我々は結束して、魔王代理を討ち取ろうと誓ったではないか………」



しかしナーゴの言葉を聞いて、ハゲは高笑いした。



「ははは!!お気楽なのはその名前だけにしてくれ、ナーゴさんよ!俺は勇者さえ殺せりゃいいんだ!!そんで和平をぶち壊して、以前のように闇商売で稼がせてもらうのさ!!」


「ああそうだ!お前は気づいていないだろうが、構成員のほとんどは旧獣神協会の出身だ。俺達は和平など望んでいない!!」


「ナーゴ、お前が魔王様のことを考えているのは分かっている。しかしお前のやり方はいつも手ぬるい。だから我々は独自に行動させてもらった」




「そ、そんな…………」


ナーゴは言葉を失い、ただ反逆者達を見つめた。




「ほら、もっとやりなよ!世界を壊したくなかったら、僕を殺すんだ!」


心から楽しんでいるような調子でラファエルが叫んだ。


「でなきゃ僕が君を殺すよ。大丈夫、君の大事なアルク君も一緒に殺してあげるからさ!」



ラファエルは今度は両手を横に広げ、手のひらを上に向ける。


すると突然空が曇り、風が吹き荒れる。



風魔法で作り出された嵐は、森の中に突風を巻き起こす。

すさまじい暴風は、吹き抜けるだけで人の体を貫くほどだ。



「く、くそっ………」


ぐらぐらと危うげに揺れるバリアの中、アルクは必死に両手を前方にかざし続ける。

何とか全員を覆うバリアを保とうとしているのだ。


木々はなぎ倒され、根こそぎ地面から吹き飛ばされる。

飛んで来る木々はバリアに突き刺さり、そこから大きな亀裂が広がった。



俺は何とか体勢を保ちながら、同じく空に向けて手をかざす。



ピシャーーーーーーーン!!!!!!



稲妻がラファエルめがけて落下した。



間一髪かわしたラファエルは体勢をくずし、地面に膝をつく。

広げていた両手が引っ込められると、猛烈な嵐はピタリと収まった。



間髪を入れず、俺はラファエルの現前に移動する。

そして再び右足を振り上げ、その横っ面を張り倒そうとする。


しかし予想していたラファエルは、左腕で俺の蹴りを受け止める。


そのまま左腕で俺の足を弾き飛ばし、同時に右手を俺に向けてかざした。




ドオオオオオオオォォォォォォン!!!!!!!!




俺とラファエル、二人が同時に火炎魔法を発射した。


何度目かという爆発音が響き渡り、俺達を中心に爆風が吹き抜ける。



そして周囲の森は完全に焼野原となった。




するとラファエルは急に力を抜いて、膝をついた状態から立ち上がる。

そして満足気に俺に向かって言った。



「ああ、とても楽しかったよ。最後に楽しませてくれてありがとう。ならそろそろ、終わりにしようか」



そう言うとラファエルは、パチンと指を鳴らす。



するとどこからか、空が唸りを上げるような、不穏な重低音が森を包み込んだのだった。



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