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104.無慈悲な愛

ウィルからの念話が飛んできたのは、俺達がウエストリア南部を通り過ぎた頃だった。



『反逆者の奴ら、ガエルダの町で暴れ始めたぞ!今ラファエルが相手してる。俺とエレーナはソフィアを助けに森に来て………うわっ!??』



そこでウィルの念話は突然途切れた。


『ちょ、ちょっと、ウィル!?一体何が………!!?』


アルクが必死に呼びかけるも、応答はない。

どうやら念話が使えない状態になったようだ。



「おい。一旦仲間をガエルダに集結させて、全員で魔王代理を討つんじゃなかったのか」

「ああ、そうだが……なぜだ?」


俺が尋ねると、ナーゴは怪訝な顔をする。

どうやら何が起きているか把握していないらしい。



「今、俺の仲間から念話で連絡があった。ガエルダで反逆者共が暴れ出したらしいぞ」

「な、なんだと!?そんな筈はない、私はそのような指示はしていない……!!」



やはり獣神協会の奴らは、ナーゴの指示に従ってはいないのだ。


とにかくウィル達に何が起きたのか確かめる必要がある。


「しょこら、どうしよう………」

「仕方ない。転移魔法で移動するぞ」



協会の奴らに良いように使われないよう、転移魔法のことはできれば知られたくはなかったのだ。

しかし今は手段を選んではいられない。



俺が地面に真っ赤な魔法陣を展開すると、ナーゴは目を丸くしてそれを凝視した。



「な………魔王代理以外にも、転移魔法が使える者が………」

「おい。お前も連れてってやるからさっさと乗れ。何が起きているのかお前の目で確かめろ」



俺がそう言うと、ナーゴはじっと俺を見つめ返す。


そして無言のまま、転移魔法陣に足を踏み入れた。





「うわっ、何すんだよ!?」


森に転移し、俺に念話を飛ばしていると、何者かがウィルを後方から捕らえた。


同じくエレーナとロベルトも捕らえられ、後ろ手に縛られている。



森で待機していた反逆者達の動きは非常に素早かった。

まるでウィル達が来ることを予想していたかのようだった。



「やったぞ、予定通り弟の方を捕らえた。しかしこの二人はなぜここにいるんだ?」

「気にすんな、弟さえ捕らえればこっちのもんだ!」



フードを被った反逆者達は口々に言いながら、ロベルトを特別厳重に縛り上げる。


後ろ手に手首を縛られた上、ほぼ体中に縄を撒きつけられ、身動きを封じられていた。

さらには目隠しをし、テープで口を塞ぐほどの徹底ぶりだ。




「おい、ロベルト、大丈夫か………」



しかし、ウィルが声をかけようとすると、反逆者の一人が短剣をウィルの喉元に突き付ける。


「おい、勝手に喋るんじゃねえ。ちょうど良い、お前らも追加の人質になってもらうぜ」



ウィルはそれでぐっと黙り込む。

再度念話を繋げようとするが、それはもはやできなかった。


ちらりとエレーナに目配せすると、エレーナも動揺した表情でウィルを見つめ返す。

そしてその視線を、ウィルの左後方へと向けた。



ウィルがエレーナの視線を辿ると、そこにはソフィアの姿があった。


同じように縛られ、反逆者によってその縄を掴まれている。

ソフィア本人は眠らされているようだった。



ウィルはエレーナを縛っている縄をじっと見つめながら考える。



「ロベルト程の力があれば、こんな縄、魔法でどうにでもなるはずだ。それができないってことは、おそらくこの縄にも魔力を封じる効果があるんだ。現に念話も使えない。………くそ、思い出すんだ、ジークが言ってたことを………」




ドオオオオオォォォォォン!!!!!



しかしウィルの考えは、突然周囲に響き渡った爆音により遮断された。



「な、何だ!?一体何が………」

「きっと奴だ、兄の方が出てきたんだ!」

「怯むな、予定通に行動しろ!!」



ウィルとエレーナ、そして反逆者も含む全員が、キョロキョロと周囲を見回す。


すると全員の頭上から、聞きなれた声が響き渡った。



「君達、僕は前に言ったよね?ベルに手出ししたら、それは世界の終わりを意味するって」



全員が見上げると、木の枝の上にラファエルが立っていた。


黄金に輝く冷酷な瞳を地上に注いでいる。



ラファエルが人差し指をくいっと上げると、地面の一部が爆発した。

そこにいた反逆者数人は吹っ飛び、炎に包まれ悲鳴を上げる。



「おい、ラファエル………!!」


ウィルが思わず叫ぶも、ラファエルは聞いていない。

ただ全員を見下ろし、次の攻撃を発動しようとする。



「待つんだ!貴様、これ以上暴れると、こいつら全員の命はないぞ!!」



その時、反逆者の一人が頭上に向かって叫ぶ。

ロベルトやウィル、エレーナ、ソフィアの方を指差しながら、反逆者は再び叫んだ。



「もうすぐ勇者がここに来る!こいつらの命が惜しければ、勇者を殺すんだ!!」

「なっ………!?なんで勇者を殺すんだよ!?お前らの狙いは魔王代理じゃねえのかよ!?」


ウィルは思わず叫んで問いかける。



すると反逆者の一人が、突然フードを頭から外した。

その頭はスキンヘッドで、動物の耳は付いていない。


それは前回、俺達がこの世界を訪れたときに出会った人間のハゲだ。



「フン、俺にとっちゃ、誰が魔王になろうと知ったこっちゃねえ!俺はあの勇者も、勇者が成立させた和平とやらも、何もかも気に食わねえんだ!!魔王代理には、何としてもあの勇者を殺してもらうぞ!!」


どうやらそのハゲは、勇者に対して個人的な恨みがあるらしいとウィルは察した。


すると他の反逆者からも同調の声が上がる。



「旧獣神協会が潰されたのも、魔王代理がのさばっているのも、全てあの勇者が原因だ。この機会に報復してやる」


「ああ。魔王代理が勇者を殺したとなれば、もはや魔王代理を崇拝する者もいなくなるだろう。そうすれば奴の力は弱まる。魔王様の立場が脅かされることもなくなる」


「そしてそれは、獣人と人間の新たな争いの火種となる。和平協定もぶち壊せるって訳だ」



どうやら反逆者達は、各々別の目的を持っているらしい。


勇者を殺したい者、魔王の立場を守りたい者、和平協定を壊したい者。



「そうか。お前らは利害が一致しているから、協同しているのか……」


エレーナが歯を噛みしめながら言う。




しかしラファエルは、そのやり取りをつまらなそうに聞いていた。


反逆者達が話し終えると、相変わらず冷たい眼差しを向けながら言う。



「君達、何か誤解してないかな。僕はね、ベル以外の命なんて正直どうでも良いんだよ。ベルに危害を加えるような世界は、僕がこの手で壊す。残念だったね、今日が世界の終わりだよ」



そう言うとラファエルは、ロベルトに向かって手をかざす。

するとロベルトの周囲にのみ、強靭なバリアが展開された。



「おい、ラファエル………」

「ラファエル、待つんだ………!!」



ウィルとエレーナが口々に叫ぶも、ラファエルは無慈悲な目を二人に注いだ。




「悪いね、しょこら君の仲間達。」



ラファエルは人差し指を上に向ける。




ドガアアアアアアァァァァァァァァン!!!!




そして森の中に、凄まじい爆発音が響き渡った。


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