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103.逆鱗

日が暮れる頃、ウィルとエレーナはラファエルの元にたどり着いていた。



転移魔法でウエストリアの隣町まで転移した二人は、そこから西に向かった。

ウエストリアとミッドフォレストを抜けて、やっとガエルダの町へと到着したのだ。



「へえ、大変な事になったんだね。まったく懲りない奴らだよ」



営舎の中で、ウィルとエレーナはラファエルに事情を説明した。


話を聞いても、ラファエルは全く動じなかった。

まるで日常茶飯事とでもいうように平然としている。



「ああ。だからさ、一緒に王都まで転移して、ソフィアを探してくれねえか……」



ウィルが頼み込むと、ラファエルはフッと笑った。


「わざわざ王都まで行かなくても、探知範囲を広げたらここからでも探知できるよ。ああ、大丈夫だよ、ソフィア君の居場所が分かったら君達を送り返してあげるからさ」


「こ、ここから探知……?そんなことできるのか………?」


ラファエルの言葉にウィルは茫然とする。


「ああ。最も、そこまで広範囲の探知が可能になったのは、僕らの崇拝者が増えてからだけどね。少し集中しなければいけないから、ちょっと黙っててね」



それからしばらく、ラファエルは無言になった。

元々閉じられているように見える目だが、おそらく今は実際に閉じているようだ。


その腕には相変わらずロベルトが抱っこされている。



ほんの十数秒で、ラファエルが再び目を開けたような雰囲気がした。


そして再びフッと笑いながら言う。


「ソフィア君らしき魂は、ウエストリア南部を通って移動中だ。どうやら奴ら、ソフィア君を連れてガエルダに向かって来ているらしいね」


「な、なんだと……。もしやラファエルとロベルトを討つためか?」


エレーナが困惑した表情を見せる。



「そうだろうね。しょこら君達も後からこちらへ向かっているようだ。良かったね、わざわざ王都まで戻らなくて済むよ」



ウィルとエレーナは顔を見合わせる。

そしてエレーナはラファエルに向き直って言った。



「では、私達がソフィアを救出しに………」



しかしその時、誰かが営舎内に駆け込んできた。

猫族部隊の隊員の一人だ。



「ラファエル様、大変です!!」


隊員はウィルとエレーナを見て、一瞬驚いて口をつぐむ。

しかし再び焦ったように話し始めた。


「反逆者共が町中で暴れ出しています!奴ら、どうやら各地からガエルダに集結しているようです!!それに森の方からも別部隊が近づいて来ています、そっちは人質を連れているようで………」



「そんな……奴ら、もうガエルダまで来ているというのか………町の被害状況はどうなんだ?」


エレーナは絶句しながら隊員に問いかける。


「住人達が数名負傷しています!まだそこまで大きな被害は出ておりません。ですが早く食い止めなければ……」


「……そうか。おいラファエル、町の方を頼めるか。私はウィルと共に森へ向かおう」



エレーナの言葉が聞こえていないのか、ラファエルは隊員の顔をじっと見た。

そしてやれやれとため息をつく。



「まったく。じゃあ、ベルはこの二人を森の中まで転移させてくれるかい?ソフィア君をうまく助けてあげて」


ロベルトはこくりと頷き、ラファエルの腕から降りた。



「さあ二人とも、早く行きなよ。僕も町の方が片付いたらそっちに向かうからさ」



そう言うとラファエルは、ヒヤリとした一瞥を隊員に向けた。




その頃、ナーゴと共に王宮から転移した俺達は、西へ向かって進んでいた。


俺達はどうやら特別扱いのようで、王宮の転移魔法陣については、あっさりと使用許可が下りたのだ。



ウエストリアの南側を西へ向かって進みながら、アルクはナーゴに声をかける。


「あの、ナーゴさん………」

「なんだ。これ以上無駄口を叩くなと言ったはずだ」

「は、はい………」



アルクはこれまで何度も、ナーゴを説得しようと試みていた。

しかし魔王への忠誠心が高すぎるせいで、魔王代理を討つというナーゴの意志は固いようだった。



「おい。ちなみにお前の仲間達はどのくらいいるんだ。本当に信用できる奴らなのか」


今度は俺がナーゴに向かって問いかける。


「もちろんだ。協会の者達は、私の指示の下でしか動かない。人数まで教える訳にはいかないが、構成員は獣人領と人間領の各地に潜伏している。人間の中にも、魔王代理に反発している者はいるのだ。力が強大すぎるからな」



俺は黙って考えた。

国王によると、反乱分子の中には、そもそも人間と獣人の和平を望んでいなかった者達がいる。


純粋に魔王のために動いているナーゴとは、動機が異なるはずだ。

そうなると構成員全員が、大人しくナーゴの言うことを聞くとは限らない。



どこか不穏な予感を抱えながら、俺達は西へ向かって歩き続けた。





その頃、ラファエルは一人ガエルダの町で、反逆者共の相手をしていた。


先発の集団はそこまで大きくなく、大した人数ではない。

猫族部隊が出動するまでもなく、ラファエル一人で呆気なく方は付いていた。



ラファエルは人差し指をくいっと上げ、魔法で散々痛めつけた反逆者達を縄で縛り上げる。



「ラファエル様!よかった、無事奴らを抑えられたんですね………!!」


先程営舎に駆け込んできた隊員が、ラファエルに声をかける。


「それでは、ラファエル様も森へ行かれますか?私もお供しま………」



ラファエルは突然、右手で隊員の胸ぐらを掴み上げた。

宙に浮いた隊員は足をバタつかせ、苦痛の声を上げる。



「ラ、ラファエル様、なぜ………」

「お前も反逆者の一人だろう。僕とベルを引き離すのが目的か?」

「そ、それは………」



ラファエルは今やうっすらと目を開け、黄金の瞳で隊員を睨みつけている。

氷で貫かれるような視線は、それだけで人の命を奪えそうなほどだ。



ラファエルはドサリと隊員を地面に落とす。



「ベルに手を()()()()()()だけで、死に値するんだよ。これまで生き長らえたことに感謝するんだね」



そう言ってラファエルは、人差し指を再び上げた。



その瞬間に、隊員の目は虚ろになる。



既に絶命したその瞳は、何も見てはいなかった。


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