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8.ヒロインと関わりたくない

「……よろしく、悪役令嬢」


「……よろしくお願いいたしますわ、聖女ルチア・テラスモンド様」


 まさかの隣の席ですわ! 正確に言うと、反対隣は第一王子で、わたくし、挟まれておりますの。

 次期王妃みたいな者だろう、これくらいなんとかしてみてください、という学園の意図を感じますわ。


「……マルス・ルピテア王子」


 見張っていたはずですのに、するすると殿下の近くに行っていましたわ!


「ま、マルス殿下!!」


 殿下にすりすりなんてしたら、ルチア様が不敬になりかねません。慌てて、マルス様を推しよけます。


「あ……」


 自分の腕力を見誤っておりましたわ。殿下はそのまま5mほど平行移動なさいました。


「む、虫型の魔物がお足元におりましたわ! 思わずお守りしようとしてしまい、申し訳ございません!」


「ナリアンヌ嬢……」


 わ、わたくしの名前を呼びながら、殿下が戻って参ります。ばあやが誰の目にもとまらぬ早さでアイテムボックスから虫型の小型の魔物を取り出し、殿下のいらしたあたりに放り投げます。もちろん、ばあやによって天に送ってありますわ。



 戻っていらした殿下がわたくしの手を取ります。


「はじめて、僕のことを名前で呼んでくれたね? 今日は、記念日に制定しようか?」


「え? で、殿下……?」


 どういうことかわからず、周りを見渡します。不敬には、問われないという理解でいいのでしょうか? ふと見ると、聖女ルチア様が、虫型の魔物の死体と戯れていらっしゃいます。え? 思わずそちらに目を向けてしまいました。わたくしの視線につられて、皆様がルチア様の動向を見守ります。


「……これ、わたしの」


「は、はい。どうぞ差し上げますわ」


 頷いているばあやを横目に、虫型の魔物をルチア様にお譲りいたしました。


 満足げに抱きかかえて席に戻るルチア様に、空気が一瞬硬直いたしました。



「……ナリアンヌ嬢。僕を助けてくれたことを、礼を言うよ」


「もったいなきお言葉、ありがとうございます。殿下」


「……マルス」


「はい?」


「マルス」


「……もったいなきお言葉、ありがとうございます。マルス殿下」


 満足げに微笑んで席にお戻りになるマルス殿下を見て、わたくしは思いました。


 この空気の読めなさ加減。聖女ルチア様とマルス殿下は、お似合いかもしれませんわ。









「ということがございましたの」


「……相変わらず、聖女様はよくわからないな」


 お兄様と一緒にランチをいたします。

 年頃の高位貴族の令嬢がわたくし以外いないだけで、ぼ、ぼぼぼぼっちではございませんわ!


「ナリアンヌは、友人はできたのか?」


「……お兄様。高位令嬢で同級生の女子は、一人もおりませんのよ?」


「身分の差がなく、友人になれるのが学園のいいところだ、ナリアンヌ」


「ど、どなたも話しかけてくださいませんもの」


「公爵令嬢に話しかける神経があるのは、それこそ聖女様くらいだろう。自分から行かないと」


 お兄様の言葉に、頬を膨らませます。お兄様は簡単におっしゃいますが、難しいことですわ。


「自分から友人を作らないと、学園内のイベントでペアを作る必要がある時、あの聖女様と組むことになるぞ?」


「迅速に友人作りに着手いたしますわ!」











「……お兄様、アドバイスが遅すぎますわ」


 勇気を出して友人作りに励もうと決意した次の授業で、ペアを組むように先生に指示されましたわ。残った女子は、わたくしとルチア様。心配そうにマルス殿下が見つめてくださっておりますが、男子生徒と組むなど、婚約者でない者同士がそのようなこと……認められませんわ。


「悪役令嬢、よろしく」


「ええ、聖女ルチア様。よろしくお願いいたしますわ。ルチア様は、お好きなものはございますの?」


 今回の授業は、魔法薬の調合です。悪役令嬢で公爵令嬢のわたくしと聖女ルチア様にかかれば、一瞬で完成するものでした。余った時間、黙っているのも、と思い、ルチア様に話しかけます。


「さかな。とり。むし」


「校門の隣のお花も好んでいらっしゃいましたよね?」


 あれから校門を通るたびに、葉っぱに頬ずりするルチア様……と泣き叫ぶ神殿の関係者のお姿を拝見しております。


「花……?」


「ほ、ほら、校門のとなりのいつも頬ずりなさっている……」


「あぁ、またたびね。匂いがたまらないんだよね」


「……におい」


 ますますよくわからないお方でいらっしゃいますわ。

 現実逃避するように、本日のスケジュールを思い返します。この授業の後は、全校集会が……。入園最初の全校集会……? わたくしの脳裏になにかがかすめていきました。イベント。


「た、大変ですわ!」


 わたくしが小さな声を上げたときには、学校の緊急時に鳴らされる鐘が鳴り響いておりました。

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