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歩み寄りって大事ですよね

―すこしばかり昔の話をしましょうか。


ウィンチェスター家の子供は全部で4人。

長男、マイロ

長女、オリヴィア

次女、イブリン

そして三女、フィンリー


母親は三女を生んだ時点で40歳を迎えていました。


父親としては、もう一人男が欲しかったというのが本音ではありました。

ですが医師からこれ以上の出産は無理があるだろうと診断されてしまえば、愛する妻にこれ以上の負担は強いることはできない。そういったわけで諦め、長男の教育に全力を尽くす事にしました。

その後母親は身体を壊したこともあり領地で三女と共に過ごすことになったわけですが・・・


その僅か5年後、まあぼんくら、いえ馬鹿、いえ考えなしの馬鹿長男が死んだわけです。


さあ父親と祖父は困った、困った。

王家が間に入ったこの婚約を破棄するわけにはいかない。そんなことをしてしまえば己の家に泥を塗ってしまう。

正直養子を貰う手もありました、いや、普通なら養子をとる選択肢しか残っていないはずです。


―ですが、己の血筋に、直系の血筋に恐ろしいほどに固執する祖父と父にとってはその選択は天地がひっくり返ってもありえないものでした。

何をそこまでこだわるのかと思うほどですよ、祖父に至っては姦通をしていた前妻と、その間に生まれた子供全員を始末していますからね。本当に己の子供かわからないのならば処分するしかあるまいと言ったそうですよ。


・・・・あ、これ言ったらまずかったかな。まあいいや。

そんな祖父に育てられたので父もまあ似たような考えなわけです。


王家の顔を潰すわけにはいかない、だが直系の子でなくてはならない

追い詰められた二人は、なんとも可笑しい、悪魔みたいな考えを思いついてしまったわけです。

―三女を、次男にしてしまえばいいと

意味が分からないですよねぇ。私もわからないです。何を言っているのかわからねえと思うが俺もわからねえと言わんばかりですよ。あ、軽口はどうでもいいですか、はいすみません。

―話を続けますね。


思い立ってしまえば後は行動するだけ。

高官であった祖父にとって戸籍の書き換えはそう難しいものではなかったわけなのです。


―そうして、三女は次男となってしまったのだ。



「というのが私の過去でして。」


あっけらかんと話せば、エイヴェリーは呆然とこちらを見つめてくる。

話したらまずいかとも思ったが、まあバラしたところで利益を得られるわけでもない。

お互いが旨味を吸うためには黙っているのが一番だろうからバラすことはない、だろう。多分。まあバラされたらその時はその時だ。

しかし、もしこれがバレたらどんな罪になるのだろうか。偽証罪?書類の改竄って何の罪は何が当たるのだろうか。・・・まあいいや。


「跡継ぎはどうする予定だったんだ?」

「ああ、姉達から貰う予定みたいですよ。子供ができない理由をつけて養子として引き取るという筋書きらしいです。」

どこまでも自分勝手ですよね、こっちの都合なんてお構いなし。なんてヘラヘラ笑うとより一層エイヴェリーの眉間の皺が深くなる。


ああ、まあそれもそうか、勝手に子供ができないという筋書きを決められているのだ。そりゃあ腹も立つだろう。まあ、実際本当に子供が作れないことが判明したわけだが。


「いや、しかし本当に・・・・考えなしの阿呆の所業だと我が祖父、父ながら思いますよ。さすがあの馬鹿兄貴の祖父と父親なだけある。その理論でいくと私も馬鹿になりますがそれはさて置いて、

なんですか男装させるって。華奢な肉体に育ったらどうする予定だったんだか。」

まあそれでバレてないから問題なくここまで来れてしまったわけだ。


「お前は、それでよかったのか。」

「ああまあ、一回は抗おうとしましたけど、まあ無理でして。枯れ枝のごとくポッキリ折れちゃいました。

ま、過去なんてどうしようもないですし、死ぬ理由もないので・・、とりあえずは未来に向かって生きていく予定です。」

そんな言葉にもエイヴェリーは疑わしそうに見てくるので、割と猜疑心強めだなぁ、なんて思いながら言葉を続ける。


「まあでも割と本当に楽しいですよ。楽しい同僚達に囲まれていますしね。巨乳好きのロドイン、脚フェチのキリシュタインとか、お尻至上主義のデイビット、合法ロリ一択のアティカスとか・・・。」

なんとも愉快な仲間達に囲まれているので楽しいですよ、というような話をしているつもりだったが、明らかにドン引きした表情をし始めたので、口を噤む。


「まあ、私はこのように諦め、流されるように生きていますけど・・・、抗おうとする人を止める気はありませんよ。

―むしろ応援しますよ。ほら、世間一般では夫婦って尊重するものだし、それにほら、歩み寄りは大事でしょう。」


愛を抱けるかはわからない、だが、愛を抱けなくとも、良き隣人として歩んで行けたほうがいいのだろう。同じ屋敷に住むのだから物事を円滑に進めるためにも。


「他になにか聞きたいことはありますか?」

と問い、考え込むエイヴェリー様を見つめる。


・・・・しかし、顔がいいなこの人。

所謂今どき流行りの王子様系の薄い顔とは真逆、数十年前ならモテるの間違いなしみたいな濃さの顔だ。だが濃いだけではなく、そのパーツの一つ一つが整い、尚且つ調和が取れている。

完成されたコース料理のような、そんな美しさな気がする。

その呪いって元の顔が良ければ良いほど、他人に見える顔が美しくなるんですかね?とうっかり口を開きそうになったがなんとなく地雷原でタップダンスをかましかねないような気がするのでお口はチャックだ。


「・・・お前は」

エイヴェリー様が意を決して口を開こうとすれば


「失礼します、若様

そろそろお時間だそうです。」

アディが声をかけてきた。

時計を見れば、もうすでに針は2周し、夕刻に差し掛かっていた。


「ああ、もうこんなに時間が経ってしまいましたか。話を遮ってしまい申し訳ありません。あ、聞きたいこと大丈夫ですか?」

「いや、結構だ。」

「そうですか。本日はいろいろお話しできてとても楽しかったです。また是非お話しできましたら嬉しく思います。」





ガタガタ揺れる馬車の中で両親が楽しそうに話しかけてくるのを適当に聞き流しながら、エイヴェリーはフィンリーのことを考える。


貴族としての基本的な心構えはできているのに、ポロリと大事なことを話してしまう。

―まるで破滅したってかまわない、どうでもいいと言わんばかりに。


ヘラヘラと楽しく生きているという割に、生きるための明確な理由を持ち合わせていない。

―享楽的に生きているようで、その実態は無気力そのもの


歩み寄ったほうがいいだろうと、こちらの望みを叶えるとは言ったが、自分の望みを一つも口にしなかった。

だから本当は聞く予定だった


「お前からの、俺に対しての要望は?」


もし、己の望みを恥ずかしいから言えないのであればそれでいい。アイツの同僚のように変態的な性癖を持ち合わせているなら、ドン引きはするがそれはそれでいい。


―だが、考えた上でないと言われてしまえば、

もし、本当に己の望みがない人間だったなら


―それは人として、あまりに・・・



ぽつん、ぽつんと雨が馬車の屋根に当たる音で意識が引き戻される。

「雨か・・・。」


小雨かと思っていたが、雨は勢いを増していき

薄気味の悪さを洗い流すような、滝のような勢いへと変わっていった。





フィンリーは眼をつぶり、椅子に腰かけながら雨音を聞く。


雨の音を聞くとあの日を思い出す

冷たい雨が背中に突き刺さるように降っていた、あの日のことを。




地面に転がり絶え間なく襲ってくる下腹部に走る激痛

呼吸もままならないほどの痛みに耐えながら地面を芋虫のように這いずる。

目の前の鬼のような父から距離をとるように、必死になって這いずる


「たすけ、たすけて、」

手を必死になって屋敷のほうへと伸ばすが

―パンッと木剣でその手は叩き落される。

叩き落された痛みで声にならない悲鳴が喉からあふれ出る。


「立て、まだ訓練は終わっていない。」


雨などよりも冷たい父の声が耳に届く。

もう立てない、もう無理だ、そう伝えるために首を横に振る


腹部へと鈍い衝撃が走り、思考も感情を抱くことすらも出来ずに、背中から後方へ吹っ飛ぶ。途中、地面に何度か叩きつけられ、最後に壁へと叩きつけられた。


「ぁがっ」

その衝撃で、限界を超え

「立て、お前はこの家の跡継ぎになるのだ。この程度で挫けてどうする。

ー立て。」

繰り返される父親の冷たい声を最後に意識は闇の中に落ちていった。



次に目が覚めれば真っ白な病室

目に入るのは幼いころから自分に仕えてくれているアディとトーマス。


アディとトーマスの目が真っ赤に腫れあがって、己の全身に包帯が巻かれていて・・・


そこからの思考はまるで奔流のように流れていく。

「フィンリー様の子宮は、破裂し・・・もう。」

「問題なかろう。」

医師からの言葉に父親と祖父の声が室内に響く

この家の跡継ぎになるのだ、己の身の全てを出すことなど当然だろうと、告げられる。

誰もそれに異を唱えるものなどいない。当然だ。前当主と現当主に逆らえばクビになってしまうのだろうから。


「むしろ丁度良かったじゃないか。どうせこれから先使わないんだ。」

その言葉は薄氷を踏むかのようにフィンリーの心を砕いていった。



最後の父と祖父の言葉が終わり、目を開ければいつもの執務室

ああ、雨の日はいつも思い出してしまう。

いや、いつもより鮮明に思い出していた気がする。エイヴェリー様と己の話でもしたからだろうか。


まあ、思い出したところで特に何かあるわけでもない。時間の無駄だろうと

欠伸をしながらアディの入れた紅茶を啜り、部下からの報告書へと目を落としていったのだった。






ここまでありがとうございました。続き思いついたら投稿します。


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