はじまりの村
──時間は平等に経っている。オレがそれを実感する日になろうとは、この時はまだ痛感していなかった。
※ ※ ※ ※ ※
それをまず気づいたのは、ハゥヤ・ヲーキンという若い男だった。
[はじまりの村]に住む彼は、村一番の早起きで、日の出とともに目を覚ます体質ゆえ起きるとまず村を見て回る役割を担っている。
いつも通りハゥヤは目を覚まして着替え、異常がないか村を見て回ろうと外に出る。
すると普段は感じない気配というか空気を感じた。それはハゥヤが以前感じた空気、不吉ななにかが来るときの気配だった。
いつもならまずは村の外周をまわるのだが、今朝はまず物見台に行き登って辺りを見回した。
ハゥヤは目も良い。
北の方に見慣れない一団を見つけ、それが何なのか分かると慌てて降りて村中を走り回りながら叫んだ。
「大変だー、ノマドが、ノマドが来てるぞーー、武装した大勢だぞー、起きろー、逃げろー」
何人かがそれで目を覚ますが、にわかに信じられなかった。
なぜならノマドが来るのは、越冬するために食料を奪いにくる秋の終わりと、それが尽きる春先くらいなのだ。
今は初夏くらいなので来るはずがないと思ってふたたび寝入ろうとする者もいるくらいだ。
だが、世の中には心配性な人は必ずいる。
ハゥヤの言葉に起きてきた数人が物見台に登り確認すると、同じように慌てて降りて村中に叫んでまわった。
ようやく村中にそのことを報せられたときはもう遅かった。武装したノマドの集団は近くまで来ると火矢を放ち、襲いかかってきたのだ。
「な、なんだ。いつもと違う。食料目当てじゃないぞ」
いつもの食料目当てなら、やってきたあと「命が惜しかったら食料を出せ」と交渉(?)をして、食料を渡して帰らせるだけだった。
だが今回は最初から攻撃してくる。まるで全滅させるのが目的のようだった。
「皆んな逃げろー、王国へ、カーキ=ツバタへ向かうんだー」
村長のオーサ・ムラノーはそう指示し、ウマに乗れる者は先に王国に向かいノマド襲撃を報せるように言った。
※ ※ ※ ※ ※
次にそれに気づいたのは上級ドライアドのフタハだった。
担当の北面に生えてる草木から魔素を取り込んでいると、[はじまりの村]から煙が出てるのに気がついた。
いつもならヒト族の出来事なんか気にしないのだが、昨夜の骨抜き作戦が不発に終わったことがあって、その事をオレに報せてきた。
──[はじまりの村]が燃えてるって?──
北面の支配範囲ぎりぎりのところに、[高性能カメラツタ]を生やして確認する。たしかに燃えている、火事というレベルではない、村そのものが燃えて規模だった。
──お父ん、どうすっぺ──
[はじまりの村]はここから歩いて二日くらいのところにあるから、今のところ被害はないだろう。
──とりあえず、ユーリとアンナに教えてやるか。フタハは村を見張っててくれ──
──ん──
王国との街道であるイルミネーションロードを夜通し走ってるアンナの部隊に、街路樹からスピーカーツタを生やして村が燃えている事を伝える。
「本当ですかクチキ様」
「ああ、今も燃えている。[樹液モニター]で見せたいところだが、そこではちょっと作れない。だが燃えているのはたしかだ」
アンナは少し考えてから衛兵をそちらに向かわせるように指示する。
「私たちは街道を使うから安全です。クチキ様が
守ってくださいますからね。衛兵隊長、全員を引き連れて[はじまりの村]に向かい、村人を助けてください」
「は、分かりました。全員聞けぃ、これより[はじまりの村]に向かうぞ」
衛兵隊は直ちに編成され、街路樹の隙間から荒野を[はじまりの村]に向かって走りはじめた。
とはいえここから二日かかるんだぞ。とても間に合わないだろうな。
「私たちは旧街道との交わるところまで行き、そこでどうするか判断しましょう。王国にも伝令を」
「ユーリにはオレから伝えておこうか」
「ぜひお願いします」
アンナとの通話を切ると、ユーリへの回線を開く。出たのはヒトハだった。
──お父様、どうなされました──
──[はじまりの村]が燃えている。原因は分からないがアンナが衛兵隊をそこに向かわせているのを伝えにきたんだ。ユーリはどうしてる──
──いろいろありまして、先ほど寝床についたところですが……、しばらくお待ち下さい──
なんかヒトハが秘書っぽくなってるな。ドライアドらしくロングワンピース姿だけど、そのうちタイトスカートのスーツ姿になりそうだ。
しばらくして、ボサボサ頭で不機嫌顔のユーリが出た。場所は寝室のようだ。
「クッキー、[はじまりの村]が燃えているというのは本当か」
「ああ。フタハが報せてくれた。原因は分からないが、まるで村全体が燃えてるようだった」
「それを見られないか」
王国なら樹液モニターがあるから中継できるな。
北面の[高性能カメラツタ]からの映像を中継すると、それを見たユーリがぼりぼりと頭を掻く。こんなイラついたユーリを見るのは初めてだ。
「これが[コト]というやつか」
ユーリが吐き捨てるように呟いた。
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