軍議と儀式
その後、その場で簡易だが戴冠式を行い、女王冠と玉璽を受け取ると、神殿にて女神フレイヤへの赦しを得ることになるのだが、それを語ると文字通り夜が明けてしまうので、それについてはあとにする。
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夜明け近く、[世界樹の森]の[グリーン・ウォール]にてナノハ、ヤツハ、フタハが泣きべそをかいてるのをオレは慰めていた。
──お父様〜、アタイ達って魅力ないの〜──
──誰も、誰も来ないって……──
──ひと晩中待ってたのにぃ──
昨日の晩、夜襲部隊を骨抜きにしたから今宵も来ると踏んだのに、全然来なかった。どうやら警戒されたらしい。
──まあまあ。三人とも魅力的だよ、ただ今夜はたまたまお客様が来なかっただけだよ──
──ホントにぃ〜──✕3
──もちろんだよ。だから元気を出して、今度に期待しよ──
──うん──✕3
ナノハ、ヤツハ、フタハは笑顔になり、本来の持ち場に移動した。やれやれ、まるでキャバクラの支配人か黒服の気分だ。
さて、どうやら思った以上に帝国軍の規律はゆきとどいてるらしい。抜け出してくる兵士がいると踏んだんだが、大したものだ。
この戦争の落とし所のひとつとして、[侵略して破壊すると、こんな好い目にあえなくなるぞ]という目的で骨抜き作戦をしてみたが、効果はなかったのかな。
※ ※ ※ ※ ※
クチキの想像どおり帝国軍では夜襲部隊を取りやめ、見張りを立てて抜け出すのを阻止していた。
そして兵士全員が驚いたのが、翌日は攻撃中止命令がでて待機休暇になったことだ。
「どういうつもりだルシア総司令官、攻撃をやめるなどと帝国に逆らうつもりつもりなのか」
定例の三国会議の場で、軍監アントニウスが顔を真っ赤にし、育ちの良さゆえわずかに優雅ではあるが、傷ついた小動物を追いつめた肉食動物のような目つきでルシアを責め立てた。
「逆らうつもりなど毛頭ありませんよ、軍監殿。昨日今日と見てお分かりのように敵地に辿り着くまでが困難なのです。ですから明日は一日英気を養ってもらい、三国合同で突撃部隊を編成し一気に侵入するつもりです」
「それはそれで良いが、向こうが攻めてきたらどうするつもりか」
「それは大丈夫です。そんなことはありませんから」
「どうしてそう言いきれる」
「精霊はあくまでも迎撃姿勢ですし、向こうの要求は撤退のみです。それに御存知だと思いますが、戦闘行為をすることによって相手の思惑を知るというか感じることができます。先生としてお訊ねしますが、今回の相手はどういう方だと感じますか」
急に元教え子から質問されてアントニウスは困惑したが、性格はともかく頭は悪くないのでしばし考える。
(たしかに戦い方を見る限り、相手は徹底して防戦のみ。こちらが攻めあぐねてるだけだ。迎撃はするが攻撃はしてこない、よほど守りに自信があるのかと思っていたが、そうではなく攻めたくないという思惑が見え隠れする……)
「異様に守りに強い戦いの素人、そうみえるな」
アントニウスの言葉に、ルシアは大げさに同意する。
「さすが先生です。私めもそう考察しました。先生と同じ考えで安心しました」
ルシアの言葉にアントニウスも気を良くする。
「向こうはこちらが攻めなければ何もしません、ですが先生の懸念も当然です。念のため交代制で防衛線を張ることにします。それでよろしいでしょうか」
「うむ。それなら良い」
納得したアントニウスは自軍の陣幕へと戻っていき、それを見送ると黙ってみていた老将コルレニオス・マイヨルとヨイショのボルノ将軍はようやく軍議ができるなという気持ちになる。
「お待たせしました両将軍、軍議をはじめましょう」
「今のは軍議ではなかったと」
コルレニオスの皮肉とも冗談ともつかぬ言葉に、ルシアはにこやかに「軍議をはじめる前の儀式ですね」とこたえると、二人は小さく吹き出した。
「先ほど軍監殿に話したのは本当で、明日は英気を養ってもらいますが、同時に選抜部隊の演習も行います」
「具体的には」
「昨日今日の働きぶりを見たところ、カリステギア軍の草刈りがいちばん手際が良い。なので手薄そうな少し東寄りのところを一点集中で刈り取っていただきます。そして壁まで届いたら、そのまま左右に展開、場を維持してもらいます、そして火炎魔法が得意なリュキアニア軍に一点集中で火炎攻撃をしてもらい壁に穴を開け、そこに我がガリアニア軍が突入、精霊を取り押さえるという仕立てです」
ルシアの作戦に、両将軍は苦い顔をする。カリステギア、リュキアニアを踏み台にしてガリアニアが手柄を取ろうというのかと。
「お気に召しませんか」
笑顔で問うルシアにふたりは返事をしない。ルシアは言葉を続ける。
「壁の向こうがどうなっているか分かりません、精霊はひと晩もかけずに戦場を変えられるほど草木を操ります、壁の向こうの森の中は如何ほどでしょうね。もしかしたら迷わされて個々にやられるかもしれません」
軍隊ゆえ兵士ゆえ死は恐れないが、犬死には嫌だろう。だからそこはガリアニアの兵士が受け持つと言いたいらしい。両将軍は手柄は平等ならということで提案を了承した。
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