籠城戦二日目
翌朝、日の出とともに見張りの兵士達が驚くとともにうんざりもした。
昨日刈り取ったはずの平原が、またもや草原に戻っているのだ。
あれだけやったのに……
壁まで肉薄したのに……
また同じことをしなくてはならないのか……
兵士の思いは将軍達にも同感であった。
「ひと晩で戦場を変えたのだ、もとに戻すくらいワケはないか……」
ボルノ将軍は伝令を出し、ルシア総司令官に方針をどうするかと訊ねると、変更なしと返事が返ってきた。
「ただし、刈り取った草木はすべて燃やすように、とのことです」
昨夜も聞いた内容だ。そこになにかあるのだろうかと考えるが、他に手はない。徒労に終わるのを予想しながらも将軍達は攻撃開始の命令を下した。
※ ※ ※ ※ ※
「ふーん、今日も草刈りからの火炎攻撃か。まあそれしかないか」
昨日と同じく一夜城の最上階の部屋、ここしか部屋を造ってないんだが、そこから指示を出す。
今日の担当はナノハ、ヤツハ、フタハだ。同期で経験を共有できるが、上級ドライアドに[個性]が出てきたので実際に色々と経験させることにした。
昨日頑張ったヨツハ、イツハ、ムツハは通常業務(?)の精霊力集めをやってもらう。
イツハとムツハは北部、ミツハとヨツハは東部の開拓と見張りを継続と。そこまで決めるとあとはアディに任せて、全体を観測して次の手を考える。
「西側の砂海を歩いてくる……可能性はあるが、難しいだろうな。ファンタジーの世界らしく流体のような砂だから歩けそうで歩けない。となると、崖下のような岸沿いに来る……出来るけど、今度は上に登る道筋がない。ならば下から火炎攻撃をする……出来るけど陽動程度にしか効果はないな。念のため通り道に[カラタチバリケード]を2メートルくらいの厚さで生やしてあるから大丈夫だろう」
今度は東側を見るが、けっこう離れているので[カメラツタ]を通して意識内イメージで見る。
「以前は不毛の荒地だったが、ミツハ、ヨツハのおかげで草原になったな。とはいえ、整地までしてないから二十キロメートルくらい先から高低差の激しいでこぼこした土手からの丘になり小山くらいのすり鉢のヘリみたいな地形になる。そんなところだからわざわざ通ることがない、というかできないだろう。その向こうは谷間のようになっていて、底のところがいわゆる旧街道となっている。道の反対側も同じような高さの小山だから、昔は川でも流れていたのかもしれないな」
その旧街道を使えば帝国軍の本命であるカーキ=ツバタ王国に行けるのに、いまだに使わない。そこに違和感があるのだが、引き止めることができてる今はありがたいと思っておこう。
──ミツハ、ヨツハ、万が一に帝国軍が旧街道を通る時は足止めできるかい──
──おう、オヤジぃ、やれっていうならやるぜぇ──
──……ヨツハはどうだ──
──おとと、ヨツハもがんばるん──
──ふたりとももう少し具体的に言ってくれ──
ヒトハの大人の対応のあとだから、ものすごく幼く感じてしまう。全員ユーリに永遠契約してもらいたい気分だ。
なんとか会話した結果、旧街道が本体から離れているのと踏み固められているので、やれないことはないけど手間がかかるという意味らしい。
「ふーむ。ならば草城壁を東端まで造ってあるから、その裏側にオレの苗木を等間隔に植えて、とりあえず触手ツタで繋いでおこう」
本来、ドライアドは樹齢百年以上の樹木に憑依するものだが、オレが百年程前に伐り倒されたおかげで、[世界樹の森]にはそれがない。
だから今のところ、親にあたるアディの憑依先、つまりオレのところに同居している感じになる。
集められたマナを精霊力に変えて還元するときは、世界樹頂部から噴霧するようなイメージで支配地全面に降り注がせているが、触手ツタ経由で直接ミツハとヨツハに送る。
例えるならば、電波放送とケーブル放送みたいなものだろうか。
帝国軍はオレのいる一夜城を目指しているから、東側から東端には布陣していない。
向こうに気づかれないように、草城壁際に触手ツタで世界樹の枝を折り、挿し木の要領で一キロメートル間隔で植えていく。
その度に触手ツタを絡めていき精霊力を直に送る。
「なんか送電線みたいだな。ああでもこれなら北側も精霊力を送れるぞ」
戦争が科学や文明を促進させる──悲しいかな、それが本当だと実感してしまった。
※ ※ ※ ※ ※
日が暮れはじめた頃、やっても無駄だなと感じたのか帝国軍は、昨日より半分くらいのところまで進軍したところで撤退していく。
おそらく今夜も夜襲部隊が来るのだろう。フタハ、ナノハ、ヤツハにはこのまま担当下級ドライアド達とともに、誘惑で相手してもらおうか。
それとは別の問題がカーキ=ツバタ王国からやって来た。
ハヤウマで送られてきた伝令が伝えたのは、アンナ王女の帰国命令だったのだ。
おいおい、ユーリとの人質交換でここにいるんだぞ、そういうわけにはいかないだろうが。
だがそれよりももっと驚いたのは、その帰国命令を出したのがユーリ本人だったのだ。
しかも女王代行という肩書でだ──。
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