開戦そして籠城戦
世界樹の森へと続く街道は、草原に変えてしまったので今は無い。
そのかわり、昨日用意しておいた水飲み用の取出口を目安にオレが出向く。
世界樹躯体はアディの女性型躯体壱号だ。オレの男性型躯体四号は持ち帰ってペッターのところに置いてある。相手が混乱しないように、交渉は女性型躯体壱号でやることにする。
──大丈夫ですか、クチキ殿──
アドバイザーチームのアンナから通話がくる。
──たぶん、いきなりか開戦が決まった瞬間に狙われるだろうな──
──どうなさるんです──
──いちおう対策はしてあるし、手みやげも持っていくから、いきなりは無いだろう……たぶん──
ま、実際は出たとこ勝負だろうな。
※ ※ ※ ※ ※
演出のために、モーセの如く草を分けて道をつくってそこを歩く。格好は昨日の白ワンピースドレスだ。
その終わりのところにはルシア総司令官が待ちかまえていた。
「おはようございます、ルシア総司令官。昨夜はよく眠れましたか」
「ええ。静かな夜でしたので、休ませてもらいました。そちらは大変だったようですね」
ちらりとオレの後ろに視線を移す。
「そうでもないですわ、ちょっとした気分転換です」
「どのようなご気分で」
「ルシア総司令官ならひと目でおわかりでしょう」
「……なるほど」
しばらくの沈黙の後、最後の問いかけをする。
「最後に訊ねますが撤退する気はないですか」
「そちらも駐屯させる気はないのですか」
「ええ」
「ええ」
「では」
「仕方ありませんな」
ルシアが大きく肩をすくめる。おそらくそれが合図だったのだろう、後方の弓部隊がこちらに無数の矢を構える。
「その前に手みやげがありますが」
それを聞きルシアは静止する。
「昨夜訪問されたお仲間を返します。そちらが受け取られてからはじめましょう」
昨夜やってきた部隊の面々をひとりづつ[捕獲サヤ]で包んでいた。これを触手ツタを使って草むらから出し解放する。
「ご心配なく、眠らせているだけですよ。では」
ルシアが呆気にとられている隙に、一気に触手ツタで引っ張ってさがった。
「せ、戦闘開始!! あの女を撃てーー!!」
ルシアの合図とともに矢の雨が空一面から降ってきた。
当たっても死にはしないが、女性型躯体壱号を傷つけたくない。躱して躱して、当たりそうなのは精霊障壁を展開して弾く。
──アディ、ヨツハ、イツハ、ムツハ、行動開始。とことん嫌がらせしてやれ──
──任せて。いくわよみんな──
──はい、アディお母さま✕3──
※ ※ ※ ※ ※
まずは東側の軍、カリステギア王国軍が行軍してくる。
腰の高さまである草原を我先に走ってくるが、葉先がカミソリのように鋭い草を一定間隔で生やしてある。なので兵士たちの脚はすり傷だらけになっているだろう。地味な嫌がらせである。
しかしさすがは兵士、そんなことはものともせずにやってくる。
「うわ、なんだ」
「急に草が高くなっているぞ」
草城壁の手前は急カーブでせり上げてあり、そのまま突っ込むと視界を遮る。
その奥は逆茂木状のイバラを高さ2メートルの厚さ2メートルで生やしてあり、その奥はおなじみ厚盾草の5メートル級の大型バージョン。この3層で成り立っている。
「ええい、刈れ、刈り取ってしまえ」
小隊長らしき兵士の号令で急遽草刈り部隊と化す兵士たち。
※ ※ ※ ※ ※
「へえ、なかなか手慣れた感じで刈っていくな」
草城壁の奥に建てた城郭樹のてっぺんに部屋を作り、そこにオレはいる。
──クッキー、そこにいるのか? ──
──ああ。連中も目標があった方が動きやすいだろ? その分こっちも向こうの動きが読みやすいからな。それよりペッター、連中の動きは記録して分析しているかい──
──クッキーが新たに作った菌糸コンピューターってやつでやってるぜ。おいらは別件にかかるからな──
──別件? ──
──たぶん必要になるからな。突貫作業でビキニアーマーを作る──
──要るかな? ──
──たぶんな。作るのに滞っていた神霊紋を精霊紋に変える作業は、クッキーとバカ精霊だと必要無いと解ったからな。宝珠を施した試作品を作ってみるよ──
ハーフドワーフのペッターは年齢的には下だが、経験値とくに流れの読み、に関してはオレより上だ。
こっちの世界に来てからさらに痛感したのが、年齢も性別も所属も関係無い。今、何が、出来るのか、が重要なのだということだ。
ゆえにペッターの読みを蔑ろにはできないから任せることにした。
※ ※ ※ ※ ※
早朝から昼近く、カリステギア王国軍の遅延にしびれを切らしたのか西側のリュキアニア王国軍も行軍開始をして、同じように草刈り作業をしている。
頑張って草刈りをしているが、アハ体験のように地味に草を生やしているのでいくらやっても刈りきることは出来ない。
気の毒ではあるが心を折るのが目的だから無限作業を続けてもらおう。
「火竜の息吹」
西側から炎が放たれ草原の一部を焼き尽くす。どうやら無限作業をやらされていることに気づいたリュキアニア王国軍が焼き払う攻撃に変えたようだ。
リュキアニアは魔法攻撃が得意なようだな。
黒衣姿の者が数人横一列に並んで等間隔に炎を放ち焼け野原にしていく。
まるで陣地取りゲームみたいだな。緑がこっち側で焼けて黒い所が帝国軍側という感じか。
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