ルシア・ガリニア・ファスティトカロンという男
精霊体なのでアンナ達とはモニター越しで話していると、ムツハが帝国の連中を捕まえたと報せてきた。
オレは眠らせて装備を身ぐるみ剥いで持ってくるよう指示。
それが届くと、ヨセフさんがそれはそれは丁寧に手入れしてゾフィとエニスタに渡す。
「この姿なら相手も油断するでしょう。お気をつけて」
ゾフィ達がそれを身に着けている間にも、オレは前々から考えていた王国への街道に設けた街路樹の根本を蔦で絡めながら繋げていき、それぞれさらに巻きつけ上がらせる。
ある種のキノコには発光する酵素がある。ここミスマの世界にも科学的な理屈は分からないがそういうのがあり、すでに取り込んでいる。
蔦本体とそこから生やした掌サイズの葉に[品種改良]で発光させる。街路樹灯街道の誕生だ。
※ ※ ※ ※ ※
「これは……」
王国まで整備された道に照らされた足元、そして等間隔に光る街路樹。これなら夜間でも早くウマを走らせられるだろう。
「感嘆の光景だな。この危機を乗り越えたら見物がてら歩いてみたい」
いつも謹厳実直気骨稜稜なゾフィが乙女らしい言葉をついたので、ちょっといい気分になる。
「便利だな。これで早く行ける」
なんか感動とかないのかエニスタは。本当に武辺一辺倒なヤツだな。
帝国兵に扮したゾフィ達を見送ると、まずはペッターのところに向かう。
※ ※ ※ ※ ※
「ペッター、大変なことになった」
「モニターで見ていた。ふん、やはり戦いになったか。思ったより早かったことだけは驚いてやるよ」
「ということは何か案があるのか。目的はいくら攻めても意味がないと諦めさせることなんだが」
「ふむ、となると攻城戦が参考になるな。クッキー、これを造れるか」
ペッターがモニターに映し出したのは、前世の世界での孤城だった。なるほど城か、草壁と厚盾草それに無数の触手ツタを編み合わせて城壁を造り、森を城の形に変える。しかし大仕事だ、オレひとりでは厳しいな。アディの協力がいる。
が、アディはヨツハ、イツハ、ムツハと草壁を造ってる最中か。
終わってから──では間に合わないかもしれない。どうしよう──ああ、そうかあの手があったな。
「上級ドライアドのフタハは担当の北東から北に変更、東担当のミツハはゾフィとエニスタの援護に。西担当のナノハと北西担当のヤツハは世界樹の森でオレとアディのサポート」
上級ドライアドの協力を得て、オレは作業にかかる。これが終わったらオレの躯体を取りに行こう。ナノハとヤツハを従えてオレのイメージが実現しようとしていた。
※ ※ ※ ※ ※
──その頃、帝国軍は兵士達に休息をあたえ、夜間偵察部隊の報告をルシア達幹部は待っていた。
「遅いですな」
「偵察だけしてくるように申し伝えましたが、欲をかいて侵入までしているのやもしれません」
帝国軍ガリアニア領国軍の陣に集まったリュキアニア王国軍とカリステギア王国軍の将軍はそれぞれ難しい顔をしていた。
戦乱に明け暮れた帝国統一戦に生き残った面々である、今回の遠征は女人国カーキ=ツバタなんぞはピクニックみたいなものだと高を括っていた。なのにである。
「世界樹を名乗る精霊使いがいる森を通過するといわれたのは、総司令官でしたな。こうなると知っていたのですか」
老将でもあるリュキアニア軍総司令がルシアをじろりと見る。
「先行させた使いが瀕死の状態でもどって来たときは、若い男にやられたと報告されたが、実際に会ってみれば素っ裸の女で、交渉部隊の振る舞いに怒っているという、対応も間違っていたのではないですかな」
老将はネチネチと応対の不味さを責めるように言い、それを聞いている面々は内心言い過ぎではないかとハラハラしている。
しかしルシア・ガリニア・ファスティトカロンは涼しい顔でそれに答える。
「行軍に関しては、どういうわけか本国つまり帝国からの勅命できました。私も不思議に思ってましたが、実際にあって理解しました。なるほどここを先に攻略しないと背後にに憂いを残すことになるなと」
「それほどでしたか」
「正直、精霊に、いや、精霊使いかな、どちらにしても会うのは初めてのですが、なかなかどうして底知れぬ凄味がありましたよ」
「臆しましたか」
「まさか。総司令官として慎重でいるだけです。でなければヤラン・レーヤクのようになってしまいますからね」
ヤラン・レーヤクはリュキアニア軍の所属である。
彼の失態を突きつけられて老将は黙るしかなかった。
若い総司令官と老将のやりとりをハラハラしながら聞いている面々のなか、カリステギア軍のボルノ将軍だけは茶番だなと思っていた。
(リュキアニアという他国からの責めを受け流して若き総司令官の器の大きさをアピールというところか。と、同時に今後の攻め方をどうするかを決めようとしているな。たぶん、先陣はカリステギアにまわってくるだろうな)
帝国に降伏したばかりのカリステギア王国として当然の処置だ。とりあえず友好国のカーキ=ツバタとの戦いにならず、兵士達はホッとしているだろうなと思いながら、ボルノ将軍自身も安堵していた。
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